22 Promise 【約束】 【22-3】

【22-3】


「幸せなら、納得できるだろうと思ったのに、考えたことは違っていて」

「不幸せだったのか」

「いや……今がどうこうよりも、僕が彼女を幸せに出来ないのかと、
そればかり考えていた」


最悪な近付き方だったけれど、でも、あれがなければ、出会いもなかったかもしれない。

そう思うと、もう一度やり直す選択があっても、おかしくはないはず。


「で、向こうは」

「2回手紙を出したんだ。でも、返事がない」

「……ないのか」

「うん」


選ぶのは彼女。

だから、それを受け入れなければならないのかもしれないが……


「どういう状況なんだ、彼女」

「『わさび田』で働いている。
元々、静岡にいたとき、母親もその仕事をしていたらしくて」


『佐野不動産』の奥さんが、昔のことも教えてくれた。


「借金のこともあって、世話になったという思いなのか、
今、清田の家に、住み込みだそうだ」

「住み込み?」

「身よりもないし、母親は、離婚した息子の後妻にと、希望しているらしい」


あれだけの財産を持った家族の、後妻になるという選択。

ひとつ気になるのは、僕が会いに行ったことで、

向こうがどう動くのかと、いうことだった。


「それって、後妻の条件を受けるってことじゃないのか。
だから、お前の手紙に無反応なんだろう」


事情を知れば、おそらくそう取るだろう。


「そう思うだろ、僕も最初の手紙の返事が来なかったときには、
もしかしたらとそう思った。でも、今は思わないんだ」

「どうして」

「彼女の性格なら、それならそれで、きちんと手紙を寄こす気がするから」


自分のこと、家族のこと、

彼女は語らないとならないときには、全てを僕に語ってくれた。

もし、清田の家に入るのなら、自分はそれを選ぶのだと、きちんと宣言してくれるはず。


「宣言か」

「あぁ」


手紙の返事がないのは、彼女の拒絶なのか、それとも別の理由なのか、

その理由がわかったのは、それから3日後のことだった。





「もしもし」

『あぁ、宇野先生。申し訳ない』

「いえ」


俊太の授業がなくなってしまったので、

その日はもう少し遅めに塾へ行くつもりだったが、

教室長からの電話で、状況は一変した。

伊豆から、清田さんが僕を訪ねてきたと、連絡をもらったからだ。

僕はすぐに電車に飛び乗り、『SOU進学教室』の最寄り駅に向かう。

清田さんは改札の外で、待っていてくれた。


「すみません、遅くなりまして」

「いえ、こちらが勝手に来たのですから」


どういうことだろう。

相馬さんに何かがあったのだろうか。



それとも……

もう、彼女が自分の道を決めたと、そう言われるのだろうか。



僕は駅前の喫茶店に入り、一番奥にある席に向かう。

清田さんと向かい合うように座り、互いにブレンドを注文した。

清田さんは、自分の紹介をするつもりだろうか、1枚の名刺を目の前に置いた。



『清田文彦』



「突然、このような形で来てしまい、申し訳ない」

「いえ……」


夏にお会いしたときより、表情は柔らかい気がする。

僕は、名刺を受け取りながら、とりあえず頭を下げる。


「宇野さんからの手紙を、郁美ちゃんが読んだのは、両方とも2日前のことです」

「エ? あの……」

「読みたくないとか、そういうことではなくて、読めない状況でした」

「……はい」


清田さんの説明に、納得がいったわけではないが、流れでただ返事をしてしまった。

話によると、僕が彼女宛てに出した手紙は、郵便受けに入っていた段階で、

ハル江さんの目に入り、彼女に渡らないままになっていたと頭を下げた。


「本当に申し訳ない。こんなことをするのは、犯罪ではないかと、
私から母には言いましたが……」

「そうだったのですか。彼女から何も反応がないので、
どうしたのだろうかと、思っていました」


いいのか悪いのか、それはわからなくても、

何も反応がないのは、相馬さんらしくない。そう思っていたから。


「夏に、宇野さんがうちに見えてから、郁美ちゃんは変わりました」

「変わった」

「はい。それまでは、どこか割り切ったように毎日を過ごしているように見えて、
正直、このままこの土地になじみ、暮らしていくのではないかと、
僕自身考えていましたから」


清田さんは、相馬さんが高校の頃から知っているため、

妹のように思っていたと、思いを語ってくれた。


「病気の姉がいて、母親がそのために必死に生きていて。
その当時の彼女も僕は知っていたので、東京から色々あって戻ってきたと聞いたとき、
素直に、もう何もかも忘れて欲しいと、そう思いました」


僕らの前に、それぞれブレンドが届く。

ウエイターはごゆっくりという言葉を残し、すぐに消えた。

清田さんの言うことが、今の僕には少しわかる。

彼女がどれだけ人の犠牲になってきたのか、

わかっている人なら、そう言いたくもなるだろう。




【22-4】

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