22 Promise 【約束】 【22-4】

【22-4】


「僕は、彼女より6つ年上で、離婚経験もあります。
それでも、僕を頼りにしてくれたら、それなりに幸せにしてあげられるのではないかと、
そう思い始めていたこともあって、あの日は、うまく対応ができませんでした」


僕が清田家を尋ねた日。

清田さんは、彼女を隠すようなことを確かにしていた。


「でも……あなたが来てから、彼女は遠くを見るようになって。
何もないところで失敗したり、暗い蔵の中で、いつまでも荷物の整理をしたり、
明らかに変わったんです」



『君との別れを、納得できていない……』



細かいことなど、何も語れなかったけれど、

あの場所へたどり着いたという事実。それを感じてくれたのだろう。


「責任感のある、真面目な女性であることは、わかっていたので、
僕は、あなたが郁美ちゃんを思うのなら、何か言って来るし、
連絡があるのではないかとそう話をしました。何も反応がないのは、
彼にそれほどの思いがないのではないかとも……」


テーブルの上に置かれた2通の手紙。

確かにこれが届いていなかったのなら、相馬さんには僕が無反応だと思われたはず。


「私には、みずきと謙太いう娘と息子がいまして。
特にみずきは郁美ちゃんにとってもなついているんです。
その娘が、『いくちゃんが食事を作っているとき、泣いている』って、
そう言うものですから」



『泣いている』



「あの……」

「その時に、気付きました。僕がしていることは、
郁美ちゃんを助けているわけではないのだと。事情は知りませんが、
郁美ちゃんの中には、確かに忘れられない人がいるのだと言うことも」



『幸せな時間でした』



忘れられない彼女の言葉。



「あれだけ長くうちの前で彼女を待っていたあなたが、
それから何も連絡を寄こさないのはおかしいと思い、
母屋を調べていたら、母の引き出しから、これを見つけまして」


息子の嫁にと思っていたハル江さんが、この手紙を先に見つけ、隠してしまった。

それが事実。


「郁美ちゃんにすぐに見せました。読み終えて、大事そうに抱えたまま、
ただじっと耐えているように見えて」



『もう一度、僕にチャンスをくれないか』



「あなたに会いに、僕がここへ来ました」



清田さんはそういうと、もう一度あらためて申し訳ないと頭を下げてくれた。

僕は、もう結構ですと言葉を返す。


「事情はよくわかりました。実際、僕が彼女を傷つけ、
東京を出してしまったのは事実です。まっすぐな彼女の思いを利用して、
取り返しのつかないことをしたことも、それも……」


柿沼の愛人だとか、隠し子だとか、そんなことばかり考えていた。

彼女の抱えていた事情など、少しも知ろうとせずに。


「僕は、立派な人間ではないんです。ただ、彼女が僕を目覚めさせてくれた」


清田さんは、僕の言葉に、何度も頷いてくれた。

相馬さんはきっと、清田さんにも、何かを残しているのだろう。


「よかったです、手遅れにならなくて」

「はい」

「ただ……」


そこまで順調に話していた清田さんが、話を止めてしまった。

ただ……何がそこにあるというのだろう。


「何かあるのなら、遠慮なく言ってください。僕がわかる範囲のことであれば、
お答えしますし」


そう、色々とあるにせよ、この清田文彦さん自身も、

彼女を思ってくれていることは、間違いない。


「はい……実は、郁美ちゃんにすぐ宇野さんと連絡を取るように、そう言ったのですが、
『このまま、ここに残る』と、その一点張りでして」



『残る』



東京には二度と戻りたくないということだろうか。


「だからといって、母が言うように、清田の家に入ろうとしているとか、
そういう気持ちではないようで」

「……戻りたくない理由を、彼女は話していますか」

「いえ……何も」

「そうですか」


清田さんとの話を受けないからといって、

僕の気持ちに応えてくれると、確かに決まったわけではない。


「来週、協会の用事があるので、理由をつけて彼女を東京へ連れてくるつもりです。
ぜひ、会って話をしてあげてください」

「来週……ですか」

「はい。おそらく火曜日だと。あ……そうです。宇野さんの連絡先がわかれば、
僕からあらためて時間をお伝えしますが」

「はい」


相馬さんが、東京に二の足を踏む理由はわからないまま、

僕は、清田さんの提案を受け入れ、互いに連絡先を交換する。


「はい、確かに」


清田さんは僕の番号を確認すると、携帯をポケットにしまった。

そして、あらためてコーヒーに口をつける。

何かを思い出しているのだろうか、表情がふっと崩れた。




【22-5】

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