22 Promise 【約束】 【22-5】

【22-5】


「いやぁ……複雑というのは、こういうことを言うのでしょうね」


複雑……


「郁美ちゃんが、待っていた手紙が来て、抱きしめている姿を見たときに、
正直、よかったという思いはありました。
彼女が彼女自身のために生きられるときが来たのかと、でも……」


でも……

この続きは、予想がついた。


「僕自身、自分のそばに彼女がいてくれたらという思いがあったのだと、
再確認もしてしまったというか……」


兄と妹のように過ごしてきた日々から年を経て、一人の女性として、

彼女を見る時間があったから、確かに思いは複雑だろう。


「あ、そうでした。雨に対して苗を強くするにはという話しや、
効率のいい養分の吸わせ方なんて話を、確かしていましたね」


生物の研究ばかりをしてきた僕の、何も面白みがない話し。

相馬さんは、よく飽きずに聞いてくれた。


「僕は理系でも生物研究の方面でしたので、よく、遺伝子のことや、
食物連鎖の話など、彼女にしてしまって」

「あぁ……はい。郁美ちゃんが言っていましたね。
塾の先生が、よくこんな話をしてくれたって。宇野さんの話しだったのですね」


塾の話、子供たちの話。

そして、僕の研究してきた分野の話。

彼女は、人の話を聞く事が、とてもうまい人だった。

話をしている人間の方が、とても幸せになれるような、そんな人で……


「さて、貴重なお時間をありがとうございました。私はこれで」

「あ……」


清田さんは僕よりも少し先に、会計用紙を手に取った。


「清田さん、ここは僕が」

「いえいえ、お呼び立てしたのは私ですから」

「いえ、わざわざここまで来てくださって」

「いいんですよ、郁美ちゃんのためですから」



『郁美ちゃんのため……』



「ありがとうございます」


この人も、本当に相馬さんに好意を持っているのだろう。

会計を済ませてくれた清田さんに、僕はきちんと頭を下げた。





『来週火曜日』


何があっても、スケジュールを空けておかないと。

ここまで形を作ってくれた清田さんにも申し訳ない。

『伊豆に残る』と言った彼女の思い。

何か、あったのだろうか。

マンションのエントランスに入ろうとしたとき、脇から一人の男が目の前に現れた。

突然の登場に、思わず一歩下がる。


「何か……」

「宇野柾さんですか」

「……そうですが」


初めて見る顔だった。

塾の先生方でもないし、『ストレイジ』で会う、メンテナンスの業者でもない。

同じマンションに住む人だろうか。


「別れるのか、別れないのか、どっちなんだ」

「は?」


突然出てきた男は、僕の前に立ちはだかると、少し興奮気味の声を出した。

いきなり『別れるのか』と聞かれても、何を意味しているのかわからない。


「失礼じゃないか、名乗りもせずに」


この男は、僕の名前を知っていた。

顔に覚えがないやつに、知られているのは、どうも気分が悪い。


「『大西彩夏』を知っているだろう」


彩夏……

この男は、彩夏の何だと言うのか。


「知っているけれど、それが……」

「どうしても別れられない男がいると、そう、言われたんだ」


にじり寄るような男の態度に、僕は少しずつ後ずさりする。

両手は見えているけれど、瞬間的に、どこかから刃物でも出しかねない。


「落ち着いてくれないか、ここはマンションの前だ」

「わかっているけれど……」


その時、彩夏が以前話していた男のことを思い出した。

取引先の男で、最初は自分のことなど興味がないだろうと思っていたのに、

強気な態度が逆に気持ちを揺さぶってしまったという話。



もしかして……



「彼女の、取引先の人っていうのが、あなたのことなのか」


男は否定せずに、僕を凝視したままになった。

そう、おそらくこの男が、彩夏の言っていた『半分ストーカー』


「僕は今、彼女と連絡が取れていない。それに、君と彼女の話なら、
僕には関係がないだろう」

「そうではないから、わざわざ調べてここへ来たのだろう」


僕らとは別の男性が、マンションに戻ってきた。

何やら異様な雰囲気に、怪訝そうな顔をする。

僕は少しだけ頭を下げると、近くに公園があるので、そこで話をしようと、

男を引っ張った。




【22-6】

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