22 Promise 【約束】 【22-6】

【22-6】


夕暮れも過ぎた公園には、子供の姿はない。

誰もいない遊具だけが並ぶ光景は、もの寂しさしか味わえないものだ。


「俺は、結婚を前提として、付き合って欲しいと彼女に申し込んだ。
彩夏は……どれだけ自分を好きでいてくれるのか、
それを見せてもらってからだとそう言って」


男の名前は『春川啓介』。

彩夏の勤める会社の、コピーを始めとした機械のメンテナンス。

彼はそこに、勤めているらしい。


「ピアスも、ネックレスも、靴も洋服も、彩夏が望むものを、色々と揃えて……」


僕の知らない彼女。

今まで、会わない時間のことなど、考えたことはなかった。

勝手にストーカーをしているようなことを言っていたが、

もし、彼の言っていることが本当なら、彩夏にも罪がある。


「これでもかと……尽くしてきたのに……」


春川君は、ポケットから1枚の写真を取り出した。

一度クシャクシャにしたものだろう。取れないしわがたくさんついている。


「何度か、朝まで過ごしてくれることがあっても、
なかなか彼女の気持ちが俺に向いている気がしなかった。だから調べたんだ。
そうしたら、あんたとの関係が、どういうものなのか……わかった」


彩夏と僕が、寄り添うようにバーから出る写真と、

ホテルの部屋に入る写真。同じ服装ということは、同じ日に撮られたものだろう。


「ふぅ……」


そう、ここに映っているのも僕自身だ。

今まで、この関係性に、何一つ疑問を持ったことがなかったのに。

今は、罪悪感だけが、ただ膨らんでしまう。


「確かに、これは僕だ」

「俺は彩夏に別れてくれといったんだ。あんたと別れろって。
飲んでホテルに入るだけだなんて、そんな関係、不謹慎だろう」


興奮状態の男に、指を差されたまま怒鳴られている。

言い返したくても、言い返す理由と正義感が、僕には見つからない。


「不謹慎……か」

「あぁ、そうだ。あんたが彩夏にしていることは、動物と一緒だ。
『愛情』なんてないだろう」



『愛情』が、なかっただろうか。

いや、それは違う。彩夏と一緒にいるときは、これが自分の人生には必要なものだと、

そう疑ったことなどなかった。



『愛している』という言葉も、何度か口から出ていたし。

それに違和感を感じたこともなかった。



「言いたいように言わないでくれ。僕達の関係は、君にわからない」

「何……」

「感情のぶつけ合いはごめんだ。言いたいことはいったい、どういうことなんだ」


誰もいないような公園で、ただ、言われているのは我慢できない。


「最初は、俺があんたとのことを調べたと言ったら、あたふたしていたのに、
何ヶ月か前から、急に態度が変わった。あんななんか最初から眼中にないと、
そう言いだしやがって」



何ヶ月か前……

なぜ、彩夏がそういう態度を取ったのか、それは……



僕が、僕達の関係性を、変えようとしたから。



「お前が手を引けば、あいつは戻ってくる」

「春川さん」

「なぁ、あんたも本気じゃないんだろう。ただ、彩夏との関係が楽だったから、
そうなんだろう。俺は、彼女がいいんだ、彼女じゃないと嫌なんだ」


目の前にいる春川さんと、彩夏の関係がどれくらいなのか、

僕にははかれない部分もあるけれど、でも……


僕とは違う『愛情』が、彼の中には存在する。


「彩夏と付き合いを続けてきたことは否定しない。
『愛情』が何もないと言われたことには反論したいが、今はそれもどうでもいい。
僕は、彼女に別れを切り出した。それも間違いがないんだ」

「……別れ? 本当か」

「すぐに右左と動くものではないと思う。でも、春川さんと彼女とのことは、
僕が間に入る話しではないはずだ」

「いや……」

「彩夏が君と別れようとしている理由が、僕とのことなのか、
それは彼女に聞いてくれ」


互いに、自由な間柄だと決めていたのだから、

彩夏が僕以外の男に、他の時間を渡していたとしても、文句を言えるわけがない。

ただ……



こんなふうに知りたくなかったと言うのは、事実だけれど。



「彼女に連絡をしても、向こうから何も返事がない。
ただ、こうして来てくれて、あなたの思いもわかった。
とりあえず、僕の口からは、彼女と連絡を取るということしか、今は言えない」


言いたいことを言って、少し冷静になれたのだろうか。

春川さんは、押しかけて悪かったと頭を下げると、一人公園を出て行った。

僕は、あらためてベンチに腰かけ、ポケットにあるタバコを取り出す。



『柾……』



お酒が入ると、僕のことしか考えられないと言っていたくせに……



「クッ……」


どこか詰めの甘い流れが、彩夏らしくて、ゆるんだ口元がなかなか戻らず、

僕はしばらく、ひとりでタバコの煙を見続けた。





『春川さんが尋ねて来た。とにかく、一度話をしよう』



彼が来たことを、彩夏に隠さずメールした。

もし、彼女にとって、彼が大事な存在なら、それなりに対応をするだろう。

二人の関係に、未来があるような形に変え始めたのは、間違いなく僕の責任だ。

このまま消え去ろうとは思っていないけれど……



『来週の火曜日』



この日だけは、譲れない。


僕は携帯を閉じると、カレンダーにしるされたその日を見つめながら、

ペットボトルの水を飲んだ。




【23-1】

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