23 Affection 【慕情】 【23-3】

【23-3】


「自分勝手だとは思う。でも……これが僕の気持ちそのままだ」



受け入れるか、受け入れないかは相馬さんの決めること。

自分を騙した男を、もう一度信用しろというのは、とんでもなく難しいことだろう。

それでも、僕は、ただ今の思いを示すしか、方法はなくて。

ただ、申し訳ないと謝り続けるしか、思いつかない。


「宇野先生」

「はい」

「私が、岩佐の娘だから、だから、こんなふうになって申し訳ないという思いが、
強いのではないですか」


岩佐教授……


「……違う。岩佐教授のことは、確かに驚いたけれど、それと今の思いとは、
全く別です」


娘だったという事実。それはむしろ、騙していたことに対する罪悪感。


「そこを意識していたら、逆に避けると思う。あの……顔がちらついて」

「エ……」

「厳しく指導してくれた顔が、ちらつくので」



『宇野、いい研究だぞ』



岩佐教授。

一生、変わることのない僕の恩師。


「清田さんが、僕が伊豆へ行ってから、相馬さんの様子が変わったと教えてくれました。
簡単なことを失敗したり、暗い蔵の中に、長い時間いることがあったりって」


集中力の続かない状態。

おそらくそんなところだろう。


「だから、僕に会いに来てくれた。このままじゃダメではないかと」


幸せにしてあげたいという思いを持った人が、

別の人を思い続けていることを知ったとき、

僕は、清田さんのように、潔く出来るだろうか。


「相馬さんが、僕を許せないというのなら、許してもらえるまで、謝り続けます。
何ヶ月、いや、何年かかっても、許してもらえるまで……」

「宇野先生」

「謝ります」


ここが店内でなければ、土下座でもしたいところだけれど、

それでは逆に、相馬さんがいづらくなる。


「そんなに謝らないでください。謝罪なら、もう、たくさんしてもらいました。
本当に、何も思っていませんから」


そこまで緊張していた彼女の表情が、僕にもわかるくらい変化した。

付き合っていた頃、何度も見せてくれた、優しい穏やかな顔。


「宇野先生が、勘違いしてくれなければ、『SOU進学教室』でお会いすることもなくて、
どこかで小さな接点があっても、きっと……」



きっと……



「その場で通り過ぎるだけだったかもしれません」


妙な出会いと、展開だったけれど、そのおかげで、僕達は互いに大事なものを知った。

人生を諦めてしまうというのは、たとえ誰に邪魔をされ、何があったとしても、

自分が悪いのだと言うこと。

そして、自分の幸せは、自分で切り開かないとならないこと。


「アレンの手紙には、いつも宇野先生のことが書いてありました。
新しく受け持った学生は高校3年生で、
宇野先生の母校『東城大学』を目指していることも。
それに、宇野先生が、アレンに難しい問題を出した後、時々、何を考えているのか、
ボーッとしていることがあるとか……」


アレンが僕のことを……


「アレンの現状を聞きだしながら、心のどこかで、また次に何を書いてくれるのか、
楽しみにしていたことも事実です。宇野先生の話を聞けると……そんなふうに」


塾の講師など、担当している時間だけ子供に与えればいいのだと思っていた。

でも、それだけではない人のつながりがあり、

僕達は、あのアレンに細い糸をつないでもらっていた。


「あ、そうだ。この間の返事」

「はい」

「アレンが相馬さんから手紙が来たと、喜んで見せてくれたんです。
先生方の言うことを聞いて、数学を頑張るようにって書いてありました。
しかも、手紙が戻ってしまったことも、書いてあって」

「あ……はい」


相馬さんは、どこかおかしいのかまだつかめないようだった。

僕は、『数学』と特定すると、先生の言葉は、僕にしかかからなくなること、

手紙が戻ったという事実は、本来、相馬さんが知らないことだと、

順序良く話していく。


「あ……」


彼女はやっと気付いたのだろう。

とんでもないことを書いてしまったと、顔を赤くする。


「いいですよ、ちゃんと誤魔化しました」

「すみません、私……」

「相馬さんがこういった失敗をするのは、いつものことです」

「……あ……はい」


俊太のテスト、アレンの授業担当が変更になること、

そして、今回の手紙のこと。


人が喜ぶ顔が見たくて、自分がそれを一緒に喜びたくて。

彼女は気持ちが先走ってしまう。


「本当です。また、同じような失敗を」

「いいですよ、それはそれで」


そう、それはそれで大丈夫。

彼女自身の性格が、全てを帳消しにしてくれるほど、人の思いに入れるから。



「出てきませんか、東京へ」



東京へ戻ってきて欲しい。

僕のそばにという言葉は閉まったまま、彼女の反応を見た。




【23-4】

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