24 Phantom【幻】 【24-1】

24 Phantom【幻】

【24-1】


澤野さんと店の前で別れ、タクシーに乗っていると、相馬さんからメールが入った。

今日の伊豆地方は快晴で、仕事が思ったよりも進んだこと、

秋になり、月が綺麗に見えるようになったと、ちょっとした話題が入っている。

特に、知らせないとならないことでもないけれど、だからこそ、

僕に向けてくれていることが嬉しくて、今日は、澤野さんと富田さんと一緒にお酒を飲み、

気分よくタクシーに乗っているのだと、こちらも負けずに、

どうでもいいような話題でお返しする。

送信ボタンを押した後、タクシーのスピードが落ち、

マンションの前で車が止まる。僕が料金を支払い外に出ると、

一人の男性がこちらに向かってきた。



春川さん。



「……何か」


彩夏とまた、何かあったというのだろうか。

春川さんの表情は堅く、白目が赤くなっている。


「あんたのせいだ」

「は?」

「どうするんだよ……おい、取り返しのつかないことになったら」


以前、ここへ来た時もそうだった。一方的に話を進めようとする。

僕は、エントランスでは他の住人に迷惑だから、また公園にでも連れて行こうと思い、

声をかけた。



「彩夏が……自殺したんだぞ!」



飛び出した言葉の重さに、僕の耳は、意味のない雑音だけを拾い始める。

タクシーの走り去る音、自転車のベル。



『自殺』



自ら命を絶つこと。



彩夏がそんなことをするなんて……



「……風呂場で手首を切って、病院に運ばれた」


手首を切った。


「本当のことなのか」

「こんな冗談を言うほど、悪趣味じゃない」


つい、聞いてしまったが、確かにその通りだ。


「それで、彼女は……」


もう、取り返しのつかない状態なのだろうか。


「お母さんが発見して、救急車で病院に運ばれた。集中治療室に入ったって、
そう……」


集中治療室。


「どこの病院だ」

「『池ヶ谷総合病院』だ」



『池ヶ谷総合病院』



ここからだと、タクシーで1時間くらいかかるだろう。

それでも……


僕は、携帯を取り出し、あらためてタクシーを呼ぶ。


「行くのか」

「行くに決まっているだろう。だから君はここへ来たんじゃないのか」


わざわざ知らせにきたくせに、何を言っているのかと、春川さんを軽く睨んでみる。

僕の視線に、それまで大きな声を出していた表情は、急に変化した。


「行っても、合わせてもらえない。お母さんに跳ね返されるぞ」

「は?」


彩夏の母親ということだろうか。

それにしても、どうして春川さんが、ここまで詳しいのか。


「どうして春川さんは、そんなに詳しいんだ」

「俺は……」


春川さんは、自分が彩夏を好きになったので、自宅の住所なども調べ、

ご両親の職場にも、何度か顔を出していたのだと、そう言い始めた。

彼は確かに、取引先の関係者であり、彩夏のことも色々と調べていたと聞いている。


「彩夏の家は……」


それに比べ、僕は、彩夏のことはほとんど知らない。

ましてや、親が何をしているのかなど、考えたこともなかった。


「なぁ、彩夏の実家のこと、知らないのか」

「知らない。僕は彼女と会う時間も、限られていたし……」


待ち合わせの店、行きつけのホテル。

それくらいしか知らない。


「池ヶ谷にある、割烹料理屋『滝華』」



『滝華』



時折政治家などが会合したと、新聞にも出てくる店。

確か、明治時代から形を変えて続いている老舗なはず。


「彩夏は、『滝華』の娘だ」


春川さんは、『滝華』には予算が高くて無理だけれど、

その姉妹店になる『桐の里』という食事どころに、よく出入りしていたと、

話し続ける。


「彩夏さんと仕事でよくお会いしますと話しているうちに、
社交的なお母さんは、よく俺に声をかけてくれるようになって、
で、今回もどうしたらいいのかと……『柾』とは誰か知っているかと……」



『柾』



「彩夏があんたからもらったプレゼントだけを浴槽に持ち込んで、
手首を切っていたって」


僕が渡したもの。

そういえば、貴金属や靴など、いくつか買ったことがある。



『私の思いを軽く見ないで』



こういう意味だったのか。

車のライトが光り、僕が呼んだタクシーがマンションの前に止まる。


「おい、俺も乗せていけ」

「……あぁ」


少なくとも、僕は彩夏の両親を知らないが、春川さんは知っている。

これでも何かクッションくらいにはなるだろうと思い、

僕は、春川さんと一緒に、タクシーに乗り込んだ。




【24-2】

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