24 Phantom【幻】 【24-3】

【24-3】


「すみません」

「いえ……。今のはお母さんなの?」

「……そうです」

「そう……」


一瞬しか見られなかったので、顔つきはよくわからなかったが、

あの扉の閉め方からすると、なかなか強そうな人だ。



出会った頃から、さっぱりとした男性的な気質を持つ女性、それが彩夏だった。

女として愛されることは望むけれど、女として扱われることを嫌うような、

そんな気がした。

別れ話を切り出して、多少はあれこれあるだろうけれど、

それならまた、別の相手を見つけるわと、どこかで言うのではないかという、

そんな思いもあった。



都合のいい、僕の甘えといえば、それまでなのだけれど。



傷はたいしたことにならず、ここを退院できたとしても、

心の傷は、すぐに癒すことなど出来ない。



相馬さん……



彼女がこの出来事を知ったら、身を引くことを考えてしまうだろうか。



やっと、自分のために一歩進んでくれたのに。



僕は……



明確な答えが出ないまま、しばらく休憩室から外を走る車のライトだけを追い続けた。





休憩室のソファーに座ったまま、居眠りと目覚めを繰り返す。

壁にかかっている時計を見ると、朝の5時を少し回ったところだった。



『俺は、また仕事帰りに来るつもりだけれど……』



そういえば、うっすらと春川さんからこんな言葉をかけられていた気がするが、

眠気の方が上にいたのだろう。あまりハッキリした記憶はない。

それまで静けさが勝っていた病院内も、一日の動きが始まったのか、

急に慌しく人々が廊下を歩くようになってきた。

早起きの患者が、休憩室に顔を出し、サービスで飲めるようになっているお茶を注ぐ。

彩夏の部屋に動きはあっただろうか。

そう思い席を立つと、昨日、扉を閉めてしまった彩夏の母親らしき女性が、

前を通っていくのが見えた。

大きな花柄のシャツと、そう、胸元には確かシルバーのネックレスがあった。


「あの……おはようございます」


僕の声に、彩夏の母親は足を止め、明らかに迷惑そうな顔をした。

しかし、部屋に戻ることはなかったので、あらためて頭を下げる。


「昨日は、遅くにすみませんでした」

「……いえ」


視線を合わせたくないのだろう。

僕の体と反対側を見ながら、ため息をひとつだけ落とす。


「帰られなかったのですか」

「はい。状況をうかがおうと、ここで待っていました」


彩夏の怪我がどれくらいなのか、意識はあるのかないのか、

話す事は出来ないのかなど、聞きたいことはたくさんあったが、

向こうの拒絶とも思える態度に、聞きだすことが出来なくなる。


「あなたに話すことなどありません。
娘は精神的にも肉体的にも大きくダメージを受けました。
それ相当の罪を背負って、償っていただくつもりですので……」


『罪』


確かに、僕に罪がないとは言わない。

でも……


「あの、彩夏さんと話をさせていただくことは……」

「話などできるわけがないでしょう。あの子は一生、傷を背負います!」


お母さんはそういうと僕の前を通り過ぎ、曲がり角に消えていった。

休憩室から、彩夏のいる個室までは2部屋。

様子を見せてもらおうと思えば、それくらいは出来る。



しかし……



向こうの許可がないのに、勝手に中へ入るのはさすがに失礼だろう。

それこそ不快の上塗りになる。


「あの……」

「はい」


僕に声をかけてくれたのは、看護師さんだった。

廊下の向こうから、お母さんが見えないことを確認したのか、視線が動く。


「大西さんなら、落ち着かれていますので、大丈夫ですよ」

「あ……」

「傷も、それほど深くはありません」


ベテランの看護師さんなのだろうか。

僕にそれだけを告げると、頭を下げその場を離れていった。

今の言い方からすれば、意識がないとか、具合が急変するようなことはなさそうだ。

今日は、午後から塾の授業が入っている。

アレンまで終えてから来るとなると、また時間が遅くなる。

僕は、とりあえず一度部屋へ戻り、あらためて支度をしてここへ来ようと、

病院を後にした。




【24-4】

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