24 Phantom【幻】 【24-4】

【24-4】


朝早い電車の中。

普段、この時間に出かけることなどないので、ラッシュの動きに、数倍疲れた。

マンションのエントランスで部屋のポストを見ると、数字の点滅が見える。

僕は鍵をかざして、荷物の入っている場所を開ける。

絶対に母からだとわかるダンボールが、中に入っていた。

これが届いているのは、昨日の夕方。

問題なく部屋へ入っていれば、昨日の段階で連絡が出来た。


「よいしょ」


中身はおそらく、食料だろう。

東京なのだから、なんでもあると言っても、どうしても送り続けてくる。

まぁ、こんなことでもないと、僕も親に電話をしないので、

仕方がないかもしれないが。


部屋の前で鍵を開け、そのまま中に入り、ダンボールをテーブルに置く。


「ふぅ……」


止めてあったガムテープをはがし、中を覗くと、

予想通りのものが、収まっていた。

米、みそ、どこかからわけてもらった梅干し。

思いつくままに入れたのだろうか、お茶の袋にのりの缶。

東京にだって買うところはあるのだから、わざわざ郵送代をかける必要などないのに。


「自炊はしないって……」



『相馬さん、自炊は……』



そういえば、以前、取引先関連から野菜が届いたときには、

相馬さんに使ってくれるようお願いした。

彼女の住所がわかると思い、いつもなら迷惑だと思うこの贈り物に、

感謝さえした。



『あの子は一生、傷を背負います』



彩夏に会うことが出来たら、何度も謝るつもりだけれど、

今の彼女には、それを受け入れる気持ちの余裕がないのかもしれない。

僕は浴槽の蛇口をひねると、リビングのソファーに横たわり、

しばらく横になっていた。





『池ヶ谷総合病院』



よく、芸能人や政治家が倒れたりすると、ここに運ばれたとニュースになることがある。

だから、外観は何度も見たことがあったが、中に入るのは昨日が初めてだった。

急患対応の入り口だったため、正面から入るのはこれが最初。

僕は広いロビーを歩き、面会者のノートに書き込むため、

受け付けの前に立った。


「どちらのお見舞いですか」

「えっと……」


確か、7階……


「703です」


僕が病室の番号を告げると、横に立っていた女性が頭を下げてくれた。


「お名前を伺ってもよろしいですか」

「あ、はい。宇野柾と言います」

「宇野様ですね……」


女性は、自分の前にあるPCに何やら打ち込み始める。


「あ……申し訳ございません。宇野様は面会者リストに入られていないので、
こちらで許可をお出しできないのですが」

「……許可?」

「はい」


受け付けの女性は、703号室から、

決まった人物しか上に入れないで欲しいと言われているのだと、

申し訳なさそうに教えてくれた。


「いや、でも、昨日は……」

「はい。昨日の段階ではこちらに何もお話は入っていなかったのですが、
今朝からそうなりまして」


僕が来るからだろうか。

看護師さんの話が本当だとしたら、そこまで頑なに拒絶される理由がよくわからない。


「どうしても無理ですか」

「……少しお待ちください」


女性は、横に座っていた職員に、次の客の対応を頼み、一度奥へと消えた。

病室にでも連絡して、聞いているのだろうか。

そして、数分後に戻ってきた受付の女性は、やはり無理だと、頭を下げなおした。





部屋番号はわかるし、エレベーターだって通っている。

どうしてもと直談判することも出来なくはないが、

気持ちを逆撫ですることも間違いない。

今は、11時少し前、あと1時間……


「すみません……ちょっといいですか」

「は?」


僕が受け付けから少し離れると、一人の男性が横から近付いてきた。

何やら視線が鋭い男に、一瞬身構える。


「ちょっと話を」

「なんですか」

「今、宇野さんと言われていましたよね、大西彩夏さんとは……」


身なりは決して怪しそうに見えないスーツ姿なのに、

コメントがあまりにもおかしい。


「あなたにお話することではないと思いますが……」

「拒絶されてましたよね……だとすると、あなたも不倫の相手かな」



『不倫』

どういうことだ。


「ねぇ……彼女、何をしたんですか。自殺未遂っていうのは、本当なの?」

「知りません」


こんなタイプの男に、話をしないほうがいいことくらい、いくら僕でもわかる。

とにかく離れようと少し歩みの速度を上げるが、相手もしつこく横に並んだ。




【24-5】

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