24 Phantom【幻】 【24-5】

【24-5】


「知っている情報、互いに交換しましょうよ。ねぇ……」


『知っている情報』

この男は、どういう目的でここにいるのだろう。


「俺の番号です。ぜひぜひ……」


何か厚めの紙に書かれた番号を、その男は僕に無理やり握らせると、

また、受け付け前に戻っていく。

そのまま破り捨てるつもりでその紙を見ると、それは紙ではなく、

1枚の写真だった。

写真に写っていたのは……



彩夏と、知らない一人の男。



その相手は、僕でもなく、春川さんでもない。



どこかで見たことがある、そんな気がしたが、すぐに思い出せない。



とりあえずその写真を胸のポケットに入れ、僕は一度病院を出た。





予定より、少しだけ早く『SOU進学教室』に着くと、

そこに待っていたのは、俊太だった。

私なら、思い切り親にぶつかると言っていた相馬さんの言葉を思い出す。


「俊太……」

「宇野先生」


俊太の顔は、思っていたよりも明るく、吹っ切れているように見える。


「先生に会おうと思って、僕来たんだよ」

「うん……」


声もいつもと変わらないし、表情も変わらない。

あれだけ頑張ってきた『海南』受験が無くなり、

もっとショックを受けているのではないかと思っていたけれど、

子供の気持ちは、子供にしかわからないということだろうか。


「よかったよ、会えて」

「あぁ……なんだよ俊太。来るならもう少し早めに知らせておいてくれたら、
何か美味しいものでもおごったのに」

「エ……そうなの?」


それをわかっていたら、もっと早く来たよと、俊太は笑い、

10分だけ時間をくれないかと、僕に頼んできた。

時計を見ると、授業を担当する学生が来るまで、あと20分ある。


「うん、いいけど」

「よし、じゃぁ、教室に行こう」

「教室?」


教室で何をするのだろう。

僕は楽しそうに階段を上がる俊太の後ろに立ち、教室へ向かう。

午後最初の授業がまだ始まっていないので、教室には誰もいなかった。


「あのさ、先生」


俊太は、受験参考書の棚から、『海南』の問題集を取りだすと、

ペラペラとめくりだした。そして数年前の過去問題、生物のところで動きを止める。


「ここ、この問題」


俊太は、自分が自習時間に解いたとき、

答えの説明を読んでも納得できなかったと、そう言った。

僕は問題集を受け取り、その問いを見る。


「先生に聞かないとと思っていて、すっかり忘れていたんだ。
これってさ、答えはAだって書いてあったけど、僕、Cも正解だと思って……」


光合成についての質問。

確かに、単純に考えたらAを導き出すだろう。でも……


「そうだな、俊太の言うとおりだ。これはCも正解」

「だろ、だと思ったんだ。やったね!」


俊太は嬉しそうに声を出すと、出版社に連絡をして、

間違っていると言ったほうがいいのではないかと、自慢げに答えの箇所を指でさした。

僕は、確かにそうだと言いながら、ページの下を見る。


「ん?」


何かの拍子にずれてしまったのだろうか。

少し下の答え部分に、何やらシール部分になっているところがある。

その文字は『C』


「もしかしたら……」


僕はその『C』というシールをゆっくりとはがす。

すると、その下には、間違っていない答えがしっかり載っていた。


「いたずらされたな、これ」

「いたずら?」

「うん。ここにはこのシールが貼り付けてあったんだ。
つまり、出版前に訂正に気付いて、貼り付けたものだろう。
それを、誰かがいたずらではがして、別の場所にわざと貼ってしまった」


どうしてそんなことをしたのかはわからない。

俊太のように、答えを導き出せず、思いつかなかった『C』を消してしまおうと、

腹を立てた学生が貼り付けたのかもしれないし、

単純に何度も開いたり閉じたりしている間に、ずれてしまったのかもしれない。


「あ……」

「よかったな、電話しないで」

「……うん」


勉強に対しても、まだまだ前向きな俊太を見ることが出来て、僕は本当にほっとした。




【24-6】

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