25 Axis 【軸】 【25-4】

【25-4】


「『滝華』のオーナーは、彩夏さんのお父さん、大西誠二さんなのだけれど、
彼女のお母さんと籍を入れたのは、実際、彼女が高校生になる頃だと思うのよ」

「高校生……」

「そう。大西さんには正式な奥さんがいて、彩夏さんが生まれたときには、
まだ、夫婦ではなかったから」


彩夏の父親には、正式な妻がいたが、

料亭の仲居として働きに来た女性と、長い不倫関係になり、

その中で生まれたのが彩夏だった。

それまでは、影に隠れる立場だった女性が、『子供』という武器を得て、

前へ前へと出て行くようになり、とうとう、正式な妻は身を引いたのだという。


「前妻には長男がいたから、まぁ、それなりに財産を継ぐことも出来るだろうと、
思ったのでしょう。女のバトルを繰り広げても、面倒なだけだと思った奥さんは、
株だけをきちんとわけてもらって、大西の籍を外れたそうなの」


彩夏が自殺をした後、あれだけ母親が強く僕を拒絶したのは、

『子供』という、自分と相手をつなぎ合わせている存在が消えてしまうことへの、

恐れだったのだろうか。


「まぁ、気の強い女性よね。日向と日陰を完全にひっくり返したのだから」


富田さんは、そういうと、両手で何かを回すような仕草を見せた。

僕は、怒りに震えていた彩夏の母親の表情を、思い出す。


「ねぇ、彼女……『自殺』だったの? 本当に」


富田さんは、僕の顔を覗き込むように、そう言った。

クエスションマークが最後につくのは、なぜだろう。


「どうして問いかけなのですか。僕は、彩夏が手首を切ったと、
そう聞きましたけれど」


僕が別れを切り出し、それからメールをしても返事をくれなかった。

やっとくれた返事には、私の思いを軽く見ないで欲しいという文章。

そして、突然知らされた自殺の話。


「冨田には、そうじゃないと言える根拠があるのか」

「根拠? そうじゃないけれど。『滝華』に、大場が出入りするようになったのは、
5年ほど前のことなの。当時の政界実力者から、選挙に出てみないかと誘われて、
そのコンタクトの場として、『滝華』が選ばれた」

「政治家の隠れ家か。まぁ、よくある話しだな」

「まぁね」


澤野さんは、政治家にはそれぞれ贔屓にしている店というのが必ずあって、

プライバシーを守ることに、協力しているのだと話してくれる。


「その大物政治家は、彩夏さんのことをかわいがっていたから、
まぁ、ちょっとした顔見せのつもりで、二人を引き合わせた。
で……おそらく……」


互いに惹かれるものがあったのか、彩夏と大場の付き合いは、

そこからしばらくして始まったのだという。


「大場は、元々学生運動などにも参加するような男だったから、
最初は主流の政治関係者と会っていたのだけれど、少しずつ意見が変わってきて、
それで、今のように、結構強気なコメントを言って、存在感を強くしてきた」


ディベートの大会などでも、学生時代は負け知らずだった大場は、

形にこだわるような政治家に対し、

『お言葉ですが先生……』というフレーズで問題点を指摘し、

いまや、主婦層にも人気が広がっているのだという。


「強気な発言がありながら、あのルックスでしょ。『今を壊す』というモットーで、
活動しているから、不平、不満にうんざりしている人たちには、
希望の星……というところがあったのでしょうね」


どうせ何をしても変えられないのだという諦めの気持ちを、

大場が代弁し、さらにぶち壊そうとしているところに、一般の人たちは、

魅力を感じるのだろうと、富田さんは分析した。


「昔ほどではないにせよ、二人の関係は続いていた……あ……ごめん」

「いえ、いいですよ。あの写真を見ればわかります」


男から受け取った写真。彼女の髪型などを見てみても、

古いものだとは思えなかった。

それに、僕自身、彩夏と付き合いながら、相馬さんと会っていた事実もあるわけで、

相手のことを、とても非難できる立場ではない。


「いつ、誰がどんな用件で会っていたのか、
そんな情報を大場に彼女が流していたのかな」


『滝華』に出入りする政治家たちの集まり。

与党、野党、どちらの動きにも敏感だった大場のために、

彩夏は軽いスパイでもしてきたのだろうか。


「宇野さん、全く彼女に会えてないの?」

「はい……最初に情報をもらった日は、病院へ入りましたけれど、
母親に部屋の前で拒絶されて、それからは、マスコミの目もあるからか、
部屋の前に行くことすら出来ていません」

「そうなんだ」

「ベテランの看護師の方は、僕が休憩室で夜を明かしたことを知っていて、
傷はたいしたことがないと、そう教えてくれたのですが。
でも、もうあれから3週間ですからね」

「そうよね、3週間っていったら、相当な傷だと思えるわよね」

「はい」


彩夏の家庭にも、難しいところがあったことはわかったが、

それでも、僕が抱えている問題は、どこにも解決策が見つからないまま、

その日は解散になった。





『秋』を感じていた時間が慌しく過ぎていき、カレンダーはまた一日、進んでいく。

相馬さんと再会し、互いの気持ちを確かめられたときには、

もう少し色々と事が進む気がしていたのに、そこから1歩も動けなくなる。



『待っています』



そう言ってくれたことに甘えているわけではないが、

今は、その言葉にすがるしかなくて……

『ストレイジ』での仕事を終えて、『SOU進学教室』へ向かう。

アレンは、11月に理数系か文系かの選択があると言っていた。

もし、文系を選択するのなら、来年、僕が授業をすることはなくなるだろう。

いつものように玄関に入り、そのまま職員室を目指す。


「あ……宇野先生」


事務の藤野さんが僕を見つけ、慌てて走ってきた。




【25-5】

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