25 Axis 【軸】 【25-6】

【25-6】


「柾……」

「何」

「私、理系に決めた」

「……ん?」

「私、薬剤師を目指す」


『薬剤師』

アレンから出た、将来の希望。


「うちはお金持ちではないから、学歴をつけるという理由で、大学には行かない。
行くのなら、将来まで続く、何か資格を取りたいと思って」


アレンは、自分に自信がつくようなものを、得たいのだと照れくさそうに話し続ける。


「ねぇ、どう? 私でも出来るかな」

「……当たり前だろう、きちんと勉強すれば、アレンにだってなれるよ」

「本当?」

「あぁ、これからもしっかり頑張っていけば……」


アレンは、勉強は嫌いなところも多いけれど、

目標が見つかったので、意欲はわいてきたと、さらに語り続ける。

『薬剤師』。男女の区別なく、一人前に扱ってもらえる職業。


「そうか、薬剤師か。いいな……」

「柾は?」

「ん?」

「柾は、これからもずっと塾の先生をするの?」


塾の講師。

そもそも、相馬さんに近付くためだけに入り込んだ塾だったが、

彼女がいなくなった後も、まだ僕はここにいる。


「どうかな」

「……いなよ」


アレンはほおづえをつきながら、ポツリとそう言った。

僕は、イエスともノーとも言わず、採点をし続ける。


「柾は先生に向いてるよ。こんな私が、勉強するようになったのだもの」

「アレンが採点基準か、それはどうかな」

「何よ、もう」


僕の人生。

一緒に歩みたいと思う人がいるのに、足踏みしか出来ていない。

自分の罪を受け止め、償おうと思っても、突破口がどこにあるのか、

全く見えなくなっている。


「よし、2問の間違い」

「エ……どこ?」


アレンは僕の返したノートを見ながら、間違っている箇所を探すと、

悔しそうに消しゴムで消し始めた。





授業を終えて、すぐに荷物を持ち、駅まで急ぐ。

店の扉を開けると、清田さんが一人でコーヒーを飲んでいた。

僕は呼吸を整えながら、『すみません』と頭を下げ、前に座る。


「授業はもう……」

「はい、終わりました」

「そうですか」


この間、相馬さんと一緒に来てくれたときと、表情が違う。

そう、初めて伊豆で会ったときのような、どこかで線をしっかりと引き、

相手の侵入を許さないような、険しささえ見えてくる気がする。


「あの……」

「どういうことなのか、説明をしてください」


清田さんは、あれから1ヶ月近くが経つが、

相馬さんとの約束は、どうなっているのかと、そう尋ねて来た。

あの時には、すぐにでもいう勢いがあったのだから、そう思うのも無理はない。


「僕自身は、あなたと郁美ちゃんの関係を納得したつもりです。
お仕事もあるでしょうし、すぐに行動に移せないというのも、あるでしょう。
でも、連絡もなければ、会いにも来ていないというのは……」


そう。メールでのやり取りと、彩夏のことを説明した日の電話は確かにあったけれど、

そこから先に、何ひとつ進んでいない。


「あまりにも誠意がないのではないですか」


清田さんは、僕とのことなど知らない母親のハル江さんから、

相馬さんとの再婚を考えたらどうだと、薦められているとそう言い始める。


「母には言いました。郁美ちゃんには好きな人がいて、
彼は迎えに来る意思があるということ。東京で話しもしたことを隠さずに……」

「はい」


そう、清田さんが相馬さんを東京に連れて来てくれた日。

僕の気持ちをわかってもらって、再出発の旗を掲げた日。


「あの女性と郁美ちゃんと、同時に付き合ってきていたというのは、
どういうことですか」


柿沼があの写真を持ち込んだのは、

清田さんと相馬さんの話が進まないことを知ったからなのだろう。


「宇野さんは、あの写真に映っている方とお付き合いしていながら、
郁美ちゃんを都合よく利用したのだと、そう……」


違うけれど、違うとは言えない。


「違うのですか、正しいのですか、教えてほしい」


3年間。

世間的には、後ろ指をさされそうな付き合いを続けてきた僕と彩夏。

その報いを今、受けろということなのだろうか。

ただ、『男と女』として時を重ねてきた事実。


「以前も少し、お話しましたが。確かに、色々とあったことは事実です。
僕のこと、そして相馬さんのこと、個人的な話しもあるので、全てをお話はしませんが、
自分自身、彼女と付き合うことは出来ない人間だと思い、諦めるつもりでした。
だから、伊豆へ帰ると言った相馬さんを、止めることが出来ませんでしたし、
すぐに会いに行くことも、避けていました」


柿沼とのこと、彩夏とのこと。

彼女を騙し、利用しようとしたこと。

申し訳なさと、辛さが積み重なって、僕は諦めるつもりだった。


「でも、諦めることが出来なかった。だから、みっともないことを承知で、
伊豆まで会いに行きました」


清田さんは、僕の言葉を聞いた後、大きく『ふぅ……』と息を吐き、

コーヒーカップを手に取った。




【26-1】

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