26 Recollection 【回想】 【26-4】

【26-4】


めずらしい富田さんからのメール。

また、何か動きがあるのだろうかと思い開いてみる。



『宇野さんの番号とアドレス。大平先生に教えてもいいですか』



大平先生。

岩佐教授と親しい医師。

そう、相馬さんのお姉さんの手術にも関わり、今度『東城大学』系列の病院に、

戻ってくることが決まったと聞いた。

僕のアドレスと番号、どうしてだろうと思いつつも、拒絶する理由もないため、

大丈夫ですよと返信した。





ナビで住所を検索できるようにすると、車は特に渋滞にはまるわけでもなく、

順調に海沿いの道を進む。

彩夏が自殺未遂の騒ぎを起こしてから、1ヶ月が経とうとしていた。

夏の名残もすっかり消え、海からの風は秋の色を濃くしている。

この中途半端な状態のまま、冬を迎えてしまうことだけは避けておきたい。

相馬さんへの気持ちを明らかにした清田さん。

彼女がすぐに気持ちを切り替えるとは思えないけれど、

今、僕がしていることだって、誠意ある行動とも言えない。

それでなくても、彼女にはもう、辛い思いをさせてきたのだから、

暗いトンネルから、早く救い出さないと。


ここは、彩夏にあって、きちんと話を……


僕はさらにスピードをあげ、住所の場所を目指すことにした。





『大西』


ここに彩夏がいる。

すぐに会ってもらえるかどうかはわからないが、行動を起こさなければ何も進まない。

人差し指でインターフォンをしっかり押し込むと、

『ピンポン』という音が、強く響く。


まだ数秒なはずだけれど、ずいぶん長く待たされている気がする。

あの大きな窓の隅から僕だとわかり、出てこないつもりだろうか。

僕はもう一度、インターフォンを押す。


『はい……』


聞こえてきたのは、少し年配ではないかと思える女性の声だった。


「あの……こちらに大西彩夏さんはいらっしゃいますか」

『どちら様でしょうか』

「宇野柾と申します」


僕の姿を、モニターで捉えることが出来るだろう。

誰なのかと聞いてきたのだから、母親ではないはず。




また、数秒……




いや、今度は1分以上経っている。




いないと言われなかったのだから、ここにいるはず。




……顔を見せてくれ




ガシャンという音が聞こえ、重たそうな扉が少しずつ開きだした。


『宇野様、どうぞ中へ』

「……はい」


僕は手に持ったバッグを強く握り、一歩ずつ中へ入っていく。

1階のリビングだろうか、カーテンが開く。

視線を向けると、そこに立っていたのは……




彩夏だった。





通されたリビング。出された紅茶。

少し前までここにいた彩夏は、どこに行ったのだろう。


「お待ちください」

「はい」


通してくれたのだから、会うつもりになってくれたはず。

駐車場に停めてある車に動きはないし、玄関を誰かが出た形跡もない。

それでも、また何か起こるのではという思いが、気持ちを揺さぶる。


「まさか、ここまで来るとは思わなかった」


背中越しの声に振り向くと、紅茶のカップを持った彩夏が立っていた。

そしてゆっくり前に歩き、僕と向かい合うように座る。


「誰から聞いたの? ここにいること」

「君のお兄さんだ」


僕は、出された名刺を彩夏の前に置いた。

裏にこの場所の住所を書いてくれたと話すと、納得したように何度か頷いている。


「お兄さんか……」

「うん」


彼女と初めて会った日、彼女がこんな大きな家の娘だとは何も知らなかった。

いや、それから数年間、僕達はあえて何一つ知ろうとしなかった。

『知る』ことが、求める時間の邪魔をするような気がして、

知らないからこそ、素直に体を重ねられていたのかもしれない。


「全部、知ったのでしょ」


彩夏はそういうと、カップをテーブルに置いた。




【26-5】

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