26 Recollection 【回想】 【26-6】

【26-6】


ゆっくりと、しかし確実に、今までとは違うときが刻まれていく。


「手首を切ったのは、柾へのあてつけじゃないの」

「エ……」

「私と大場が切れていないことを、大場の奥さんが突き止めた。
大場が、何事もないかのように、繕っているのがわかって、腹が立った。
それで、少し騒ぎにしてやろうと思った……これが本音」


自殺の理由。

それは大場晶へのあてつけ。


「そのつもりだったのに、父と母に事実をゆがめられた。
浴槽に何も持ち込んではいないのに、
柾からもらったものだけおいてあったようなことを、勝手に言われて」


政治家として力をつけてきた大場に、逆恨みをされることを避けたいと思った、

彼女の母親が勝手にしたことだと、彩夏は口元をゆるめる。


「長い時間、苦しめてごめんね……柾」

「彩夏」

「こんな私だけど、柾の記憶の中でくらい、『いい女』で終わりたいじゃない」


大西彩夏。

取引先で出会った女性。

飲み会に出かけたとき、まっすぐな目を向けてきた彩夏を、僕はすぐに選んでいた。

女子力がないと嘆きながらも、自分は自分だと胸を張り、

決して、ネガティブにはならなかった。


「ここまで、追いかけてきてくれて、ありがとう……」



ありがとう……



「こうして誠意を見せてくれて……ありがとう」



僕は感謝などされる身ではない。



「そんなこと言うな。今でも申し訳ないと思っている」

「うん」

「僕の方こそ……こうして会ってくれて、感謝している」


清田さんが言っていたように、一生許さないと言われても、

それを背負っていくしかないくらいのことだ。


「ねぇ」

「うん」

「柾の心を捉えた人は、どんな人なの?」



どんな人……

相馬さんというのは、どんな女性だろう。



「運命に翻弄されずに、きちんと自分を持っている人だよ。
決して、華やかな女性ではないけれど、でも……」



『アレンが持ってきてくれました……』



「そこに咲いていることが、当たり前のような可憐な花のような人。
毎朝、その花を見ると、ふっと心が和むような……」


風に揺れるコスモスのような優しさや、

踏まれてもまた立ち上がろうとする、タンポポのような強さのある人。


「そう……」

「うん」


そんな表現であっていただろうか。

彼女に聞かせたら、どう言うだろう。


「それにしても、ここは素敵な場所だね」

「そうね、海も近いのよ」

「あぁ……」


出された紅茶に、その時初めて口をつけた。

緊張と話しの中にいたからなのか、一口と思っていたのに、最後まで飲み干してしまう。

外を走る車の音なども聞こえない。

静かな部屋。


「それじゃ……僕はこれで」

「うん、仕事?」

「今日はこれから塾がある」

「塾……あぁ、そうだった。柾、先生になったのよね」

「うん……」


彩夏にベッドの上で語っていたときには、こんなに続けているとは思っていなかったが、

今では、大切な時間になっている。


「楽しいの? 先生」

「楽しいよ。子供たちが一生懸命に聞いてくれるし、
教えて覚えて、成績が伸びると、こっちも嬉しくなるんだ」

「ふーん……」


研究者だけが自分の道だと思い込んでいた時間を、抜け出したからこそ、

今を幸せだと思えるようになった。


「柾……」

「何?」

「最後に、ひとつだけお願いしてもいい?」


彩夏はそういうと、僕の腰にスッと腕を回した。

懐かしい香りが、鼻に触れる。


「お別れに……抱きしめて欲しい」



『別れ』



彩夏の口から、初めて覚悟のセリフを聞いた。

自分から切り出したことなのに、もう二度と会うことはないのだと、

そう思えてくる。


「うん……」


僕は彩夏の背中に腕を回し、その身体をしっかりと抱きしめた。

そして、自然と唇に触れる。



慣れたカウンターで酒を飲み、気持ちを高ぶらせていくのではなく、

彼女の身体を、気持ちを、自分にむけるためでもなく……



もう、このときはこないのだと、互いに言い聞かせるように……



そして、今まで、自分を支えてくれた思いへの感謝。



彩夏とのキスは、静かな時の中に終わりを迎える。



「ありがとう……」

「いや……」


彼女の微笑んだ顔を見て、重ねた唇の感覚を僕は心の奥底に沈めていく。


「それじゃ……」


僕は彩夏にもう一度頭を下げると、そのまま背を向け、部屋を出た。





季節は秋。

もう、すぐそこまで寒い冬が来ている。

『幸せ』を探し続ける人にも、暖かな日々が来るようにと願いながら……

僕はまた、一歩を踏み出した。




【27-1】

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