27 Thanks 【感謝】 【27-2】

【27-2】


次の日の朝、そんなに伸びているわけではなかったけれど、

しっかりと髭をそり、ネクタイを締めた。

ご両親に挨拶するわけではないが、向こうの力に負けないようにしないと。


「……よし」


両手で頬をパンパンと軽く叩き、僕は部屋を出る。

次にこの扉を開けるときには、彼女と一緒だと思いながら、エレベーターに向かった。



高速道路も順調に進み、伊豆方面へ車が進む。

午前中は、工場の作業が忙しいのでと、相馬さんからメールをもらっていたので、

それなりの時間になるように、サービスエリアで調整した。

約束の2時、少し前……

僕は、清田家の前に立ち、インターフォンを鳴らす。


『はい……』

「宇野柾と申します」


女性の声、僕の名前に返事はなかった。

許可してもらわなければ、勝手には入れない。

しばらく待っていると、清田家の玄関が開き、相馬さんが姿を見せた。


「……どうぞ」


なんだろう。別に悲しいことをしているわけではないのに、

なんだか彼女の方が、感極まっているように見えた。

僕は一度頭を下げて中に入り、相馬さんの手を引き寄せる。

彼女の柔らかな体が、僕の腕に収まって……


「やっと来られた」

「はい……」


自分に言い聞かせるように『うん』と頷き、腕を外す。

相馬さんは、奥に二人とも揃っているからとそう教えてくれた。


「清田さんも」

「はい」


一度大きく息を吐くと、僕は玄関を開け、靴を脱いだ。





立派な床の間がある、地元でも力のある農家。

部屋に通されただけなのに、そんな状況がすぐにわかる。

大きな『わさび田』を持ち、地元の人たちを雇う。このあたりの人にしてみたら、

清田家が大事な存在であることは間違いないだろう。

しばらくその場で待っていると、こちらに向かう足音が聞こえ始めた。

僕が気になり振り返ると、先頭に清田さんが立ち、

その後ろにお母さんであるハル江さんが続いている。


「お待たせしました」

「いえ、僕の方こそ、お忙しいときに申し訳ありません」


座布団から足を下ろし、そう頭を下げたとき、僕の隣に相馬さんが並び、

同じように頭を下げてくれた。



ここからは一人ではない……



「二人で頭など下げなくていいですよ。
お世話になったからと、こうして挨拶に来てくださっただけで、それで……」


この間、東京に来たときに比べて、清田さんの表情は優しく見えた。

隣のハル江さんは、思い通りにならなかったことが悔しいのか、

僕と顔をあわせてはくれない。


「郁ちゃんのお母さんが、昔、うちで働いてくれていたことがあって、
彼女がこちらに戻ってくるのならと、援助を申し出ていましたが、
こうして、幸せになるべき場所があるのだと知り、ほっとしました」

「なんだかね、『わさび』のことも、頑張っていくようなことを言っていたくせに」

「……母さん」

「すみません」


過去のことをひとつ振り切り、もうひとつの過去に立ち向かおうとしていたことを、

僕は何も知らなかったけれど、今はそうではない。

互いの表も裏も、何もかも知ったうえでここにいる。


「僕は、東京で『ストレイジ』という、新しい農業の可能性を探す企業で働いています。
普段は、苗の遺伝子などを研究し、災害に強くさせるためとか、
成長を早くさせるためなど、テーマを決めて動いているのですが、
郁美さんがこちらに来ていたことで、本物の農業の、いや……あの、
自然の中に芽吹くものの力強さを、この目で見ることが出来ました」


初めて、このあたりに来た時、本当にそう思った。

机の上であれこれいじってみても、太陽の光りや、自然の風の強さを、

全て完璧に再現することなど出来ないのだと、そう痛感した。


「また、僕にも色々と教えてください」


大学を出て、大学院に進み、頭の中では何もかもわかっているつもりになっていた。

しかし、現実は、その中に入り込んでみないとわからない。


「お世話になりました。母がご迷惑をかけたままだったのに、こうしてまた、
温かく迎え入れてくださったこと、本当に感謝します」


温かくなど迎えてくれなかったはずだけれど、相馬さんは恨みつらみなどない、

晴れやかな顔でそう言った。


「郁ちゃん」

「はい」

「亡くなったご両親やお姉さんの分まで、幸せになりなね」

「……はい」


清田さんは、納得してくれたのか、何度か頷いてくれた。

ハル江さんは、最後まで僕達を見ることなく、途中で席を立ってしまう。

あの人もきっと、不器用な人なのだろう。

芯の底から悪い人ではないから、結局、後妻の話しも押し切れなかった。


「先日は、東京までありがとうございました」

「いえいえ……私の演技も、なかなかなのだなと」

「エ……」


清田さんはそういうと、姿勢を楽にしてくださいと、自ら胡坐をかいた。




【27-3】

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