27 Thanks 【感謝】 【27-3】

【27-3】


僕もそれならと同じような姿勢をとらせてもらう。


「柿沼先生から、写真が送られて来たのは事実です。一瞬、そう瞬間的に、
あなたより私の方がと思ったことも事実です」


僕と彩夏との親密さを物語る写真。

柿沼は、以前、相馬さんにも見せた。


「でも、郁ちゃんという女性が、どういう気持ちであなたを待っているのか、
それもわかりすぎるくらいわかるので」


決して大騒ぎはしないけれど、芯を持ち、弱音をはかない。


「郁ちゃんに事情を聞いたら、その女性が自殺未遂をしたと言うでしょ。
それはあなたも強く出られないだろうなと察して、
で、僕が何かスイッチを入れることが出来たらと……」

「スイッチ……ですか」

「はい。まぁ、宇野さんの本気度を試したかったのかもしれませんが」



『本気度』



確かにその通りだ。

あの脅かしがなければ、まだ、彩夏のことをどうしたらいいのか迷い、

結局、前に進めていないかもしれない。


「そうだったのですか」

「申し訳ない」

「いえ、とんでもないです。おかげで、前に進めましたから」

「そう言ってもらえると、いいですが」


清田さんは、始めから相馬さんを助けるつもりだった。

奪おうとか、邪魔をしようなんて気持ちはなく、いや、あったとしても、

彼女のことを思い、一歩も二歩も引いてくれた。


「……本当に、ありがとうございました」


僕の言葉に、隣にいた相馬さんも、揃って頭を下げてくれる。


「宇野さんの研究話、郁ちゃんから何回か聞きました。本当にぜひ、
互いに役に立つようなことがあれば」

「はい、ぜひ……」


この人なら、商売をしてもきっと、信用できる。

僕はあらためて約束すると、出してもらったお茶を、そこで初めて飲んだ。





数日間過ごせる荷物を持ち、僕は相馬さんと東京に戻ることにした。

彼女の私物はまだあれこれあるが、それはまたあらためて二人でここへきて、

片付けさせてもらうことにする。

とにかく、二人で落ち着いて話ができる場所は、やはり東京しかなく、

見送りに出てくれた清田さんに頭を下げ、エンジンをかける。


「ねぇ、ちょっと寄って欲しいところがあるんだ」

「寄って欲しいところ?」

「うん」


僕は助手席に相馬さんを乗せると、その場所に向かって車を走らせた。



僕が向かったのは、『佐野不動産』だった。

彼女の古い住所をアレンから聞き、何か手がかりはないかとここへ来た。

気のいい奥さんが、清田家にいることを教えてくれなかったら、

こうした時間は、少し遅くなっていたはずで、

また余計な邪魔が入る可能性もあったのだから。


「佐野不動産……」

「うん、ここで君のことを聞いたんだ。お嬢さんと友達だって」

「うん」

「だから、こうして迎えに来て、東京に行くことを、伝えておきたくてさ」


ここにもまた、相馬さんの幸せを願ってくれていた人がいるから。

僕は駐車場に車を止め、彼女が降りるのを待った。

二人揃って店の扉を開ける。


「すみません……以前、立ち寄らせていただいた宇野ですが」

「……宇野? あ、あぁ……はい」


この間と同じように、店にはこの家のご主人がいて、

僕の声が聞こえたからだろうか、中から奥さんが姿を見せた。

相馬さんはお久しぶりですと、頭を下げる。


「あら、郁美ちゃん。まぁ……あらあら、まぁ……」


きちんとした言葉にならなかったが、こうして二人でいることで、

どういう意味があるのか、それをわかってくれたらしく、

奥さんは相馬さんの手を握り、よかったねと繰り返す。


「ご心配をかけましたし、お世話になりました」

「何言っているのよ、何もしてないですよ」


家を紹介するのは、不動産業として当たり前かもしれないが、

ただ、それだけではない思いがあるからこそ、これだけ喜んでくれるのだろう。


「東京に戻ることになりました」


奥さんの目が僕に向き、その通りだと頷くと、

それはそれはと、さらに喜んでくれる。


「麻奈にも報告しておきますよ。郁美ちゃんがとっても幸せそうだったって」

「……はい」


清田さんへの挨拶、そして佐野不動産への挨拶。

一つ一つ、気になることをクリアしていく。

そして、僕達がこれから新しいスタートを切るのだという思いが、

どんどんと大きくなる。


「それでは、これで」

「わざわざ、ありがとうございました」


ご夫婦揃って僕らを見送ってくれ、その姿は、曲がり角に来るまで、

消えることがなかった。





東京への道のり、行きはほとんど渋滞がなかったのに、

帰りは事故があったのか、思っていたよりも進みが遅かった。

最初はアレンの話など、それなりに会話が続いていたのに、

少しすると静かな時間になり、気付くと、相馬さんの目は、流れていく景色を追っていて、

彼女なりに覚悟を決めてきた日々のこと、色々とあった静岡でのことなど、

思いかえしているのだと、しばらく黙っていたが、

左手でガムを取り、その姿を確認すると、彼女は景色を見ていたのではなくて、

すっかり眠っていた。



『幸せな時間でした……』



僕といることが、こうして東京に向かっている時間が、

彼女にとって、心を休めるものになったのだと感じ、本当に嬉しくなる。

一人で運転するのは、どこか寂しいので、本当なら話し相手になって欲しかったが、

ここは邪魔することなく、彼女の眠っている横顔をミラー越しに見ながら、

進むことにした。




【27-4】

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