27 Thanks 【感謝】 【27-4】

【27-4】


「ごめんなさい、私」

「いいよ、起こさなかったのは、僕の判断だし」

「最初は景色を見ていたのに、いつの間にか」

「うん……安心してくれているのだと思って、ほっとしたんだから」

「あぁ……本当にごめんなさい」


マンションの駐車場に着くまで、本当に彼女は起きなかった。

軽く肩を叩くと、一瞬、状況すらつかめなかったのか、首を軽く横に動かし、

数秒してから『あ!』と大きな声をあげた。

僕は、彼女のバッグを持ち、エントランスを抜けていく。


「あぁ……」


相馬さんは、まだ納得できないのか、下を向いたまま。


「ねぇ」

「何?」

「そんなに落ち込まなくていいよ。本当に起こさなかったのは僕の判断なんだし、
寝顔……かわいかったし」

「……あぁ、もう!」


照れと嬉しさなのか、相馬さんの手が、パシンと僕の背中を叩く。

痛くもなんともないけれど、少しオーバー気味に反応して見せた。

二人だけのエレベーターに、笑い声が響いた。

玄関前につきカギを開け、そのまま中に入る。

僕らの気配を察知したライトが、おかえりなさいと明かりをつけてくれた。

そう、この部屋を出て行くとき、自分で決めていったこと。

次にここに戻るときには……


「おじゃまします」

「どうぞ、遠慮なく」


彼女と二人で、戻ってくることを……





広めのリビングに、横になれる少し大きめのソファー。

それとは別に、軽い朝食くらいなら食べられるテーブルと椅子。


「荷物、とりあえずここに置くよ」

「はい」


ソファーの上に、相馬さんの荷物を置いた。

どう、自分の身を置いたらいいのか、彼女の目は迷っているように見える。


「とりあえず、ここに座ってくれないかな」


僕は、去年、ここで話をしたときと同じように、

テーブルに向かい合って座って欲しいと、そうお願いした。

相馬さんは、僕の提案どおり、向かい合うように座ってくれる。


「まずは……」


あの日、入れたコーヒーにも、彼女が持って来てくれたワッフルにも、

何も手をつけられなかった。

教えてもらった事実が、僕の想像をはるかに超えていたこと、

そして、自分があまりにも愚かで、弁解のしようもない人間だったこと、

ここに向かい合って座ると、そんなひとコマ、ひとコマが蘇ってくる。


「色々と、本当に申し訳なかったことを、心から謝ります」

「宇野先生……」

「僕の軽率な行動で、本当に迷惑をかけたし、傷つけたし……」


相馬さんと柿沼の関係を疑い、『ゲーム』だと勝手に決め付けて、

気持ちを弄ぶようなことをしたこと。


「僕が最初から、君にとって、心から信頼できる相手になれていたら……」


そう、本当に心を割って、話をしてくれていたら……


「先生が君たちに遺したマンション、手放さなくても済んだかもしれないのに」


思い出のマンション。

彼女にとって、『家族』の形を持っていた、唯一のもの。


「本当に……」

「もう、謝罪なんてしないでください。本当に、十分です」

「十分?」

「こうして、また、あなたのところに戻ってこられるなんて、
思っていなかったから……」



『あなたのところ』とは、僕のそばということ。



「私こそ、宇野先生という人が、どういう人なのかと、
今思えば探っていたのかもしれません。
なぜなのか、どうしてなのかという核を語らないまま、大学のことを聞いたり、
柿沼先生のことを聞いたり……」


付き合っている時に、確かに何度も柿沼の話が出た。

それは、あいつがどれくらいの人間なのか、わからなかったから。


「それは当然だよ、あれだけのものを岩佐教授が遺したわけだし。
相馬さんには、何も……」

「父が頑張ってくれたから、宇野先生にも会えました。
あんな先生、大嫌いだったと言われたらきっと、落ち込んでいたと思いますし」

「エ……」

「よかったです、父が、みなさんに嫌われていなくて」


彼女は、岩佐教授の現役時代を知らない。


「いや、大丈夫だよ、今でも、本当に先生のことを……あ……」

「エ……」

「そう、大平先生って覚えている?」

「大平先生?」


そう、ドイツにいた大平先生。

岩佐教授を信頼し、教授もまた、大平先生を信頼していた。


「お姉さんのお葬式にも、出たとそう聞いたけれど」

「……大平先生……」


相馬さんには、あまり記憶がないのだろうか。




【27-5】

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