29 Determination 【決意】 【29-4】

【29-4】


帰りの電車。

富田さんから聞いた情報が、頭の中をグルグルと回る。

柿沼は『東城大学』をやめ、妻が経営する会社の役員に落ち着いた。

本来なら、他にも役員になっている企業があったのだが、

実は、長男が取引先とトラブルを起こし、それをもみ消すために、

外部との関係をほとんど断ち切ったという。

外部理事というのは、なりたい人が多く、いつまでも居座っているのは、

余計な詮索を生むと、判断したのだろう。



そして、昔、柿沼の腰ぎんちゃくとして、岩佐組の学生を、

バカにしたような目で見ていた『城蔭大学』の山田教授、

以前、澤野さんと飲みに出かけた店にいたミルキーにすれば、

『パパ山田』ということになるが……

そう、以前、盗撮をし、柿沼に泣きついたが見放され、

会社を退社させられた息子が、凝りもせずに今度は駅から女性を付けまわし、

警察に捕まった。それをもみ消してくれる人間も見つからず、

警察で散々言いたいことを言ったあげく、大学側から免職処分を受けたという。

自分は学生たちから人気もある教授だと、往生際悪く意見を述べたが、

実際の学生たちからは、『取り消し署名』なども起こらなかったという。



さらに、大学から、僕のグループをフォローする立場にあったのに、

岩佐教授が亡くなったあと、急に手のひらを返した三本松准教授は、

その後、地方大学に赴任し、『東城大学』にいたことをひけらかしながら生きていたが、

鞍替えして頼った柿沼からは、あまり援助もしてもらえずに、

もう数年前には大学を辞め、今は実家の精米店を手伝っているという。



富田さんは、『相手方を裏切ってきた男を頼りにするほど、

柿沼教授もおろかじゃなかったということよね』と、笑っていた。



消えていく、柿沼色。



まさか、10年以上も前に亡くなった岩佐教授に、

こんなしっぺ返しをされるとは、少しも思っていなかっただろう。

僕が知っている限り、岩佐教授は現役時代、地位をあげることに、

とても興味があるようには思えなかったから。



いや、今も自分の地位を上げるために、あの『遺書』を残したわけじゃない。

本来なら、もっと多くの若い研究者を世に送り出し、

次の世代に続くものを、出して欲しいと願っていただろう。





「ただいま」

「……お帰り」

「あ……ごめん」


そう、僕のマンションは別のところにあるのだが、つい、郁美のところに足が向き、

気付くと、週の半分はこの部屋で過ごしている。

広さもマンションの方が広いし、駅からの距離も近いのに。


「ふぅ……」

「楽しかった? 富田さんたちとのお酒」

「うん。二人とも素直じゃないから、いつも同じようにケンカをしているけれど、
ちょっと見方を変えたら、すぐに気付きそうなものなのになと」

「うふふ……それは柾さんが少し離れたところで見ているからよ」

「そうかな」

「そうよ」


僕はネクタイを外し、泊まる時用に置いてある服を取り出した。

コンロの上にある小さな鍋を覗くと、美味しそうなシチューが残っていた。


「ねぇ、これ少し食べてもいい?」

「……食べたのでしょ」

「食べたけれど、食べたい」


郁美は、太るわよと言いながらも、少し温めてくれた。





カレンダーが2月になったある日、僕は『虹ヶ丘病院』に勤務し始めた大平先生に、

昼食を一緒に取らないかと、呼び出された。

その日は塾もなかったので、時間に合わせて病院へ向かう。

当たり前だけれど、先生の評判は上々で、時間通りに診察が終了するわけもなく、

僕は予定時間を1時間オーバーで待たされた。


「いやぁ……申し訳ない。こちらがお呼び立てしたのに」

「いえ、おそらくこうなるだろうなと、予想していましたから」

「あはは……そうか。大平は要領が悪いと、気付かれたか」

「違います。患者さんの話を聞いていたら、きっとこうなるなと」


PC画面だけを睨み、その形式に当てはめ診察名を出し、薬を出す医者がいる中でも、

きっと、大平先生なら、患者の目を見て話をして、答えを探すのだろう。

大平先生は、今日は午前で診療は終了なので、

ゆっくり食事が出来るからと言いながら、白衣姿のまま別の部屋へ消えた。

3階の廊下、吹き抜けになっているつくりは、明るさが増し本当に開放的だ。

病院に来る人たちは、色々悩みを持っている人が多い。

真っ暗な中で、じっとり待たされていると、気分も滅入るだろう。

診察を終えた人、時間が迫っているのか早足で歩く人、

色々な人の姿を眺めていると、大平先生が支度を終えて現れた。


「お待たせだ、宇野さん」

「はい」


時刻はすでに午後の2時近くになっていたので、入った店はどこも空いていた。

大平先生は、病院から歩いて5分ほどの、洋食店に入る。


「作りが古いだろ、でも、なかなかの味なんだ」

「はい」


一見、頑固そうなシェフだけれど、決して威圧感のある人ではなくて、

僕達はその日のランチを注文し、お冷に口をつける。


「ここのところ、研修医たちが病院内で動いているから、
あれこれ聞かれて、そんなものは自分で考えろと、何度も言っているよ」


研修医。医大を出ても、すぐに一人前ではない。

ここに来るのは、もちろん『東城大学 医学部』。


「そう簡単に諦めるな、自分で解決してみろって、そう言うだろ。
すると、考えている時間が面倒でと返してきたやつがいてさ、まぁ、呆れたな」


大平先生は、今時の若者は、ネットやSNSなど恵まれすぎているとそう言った。

確かに、『SOU進学教室』でも、宿題を出したら、

ネットで全て調べてしまったという子がいて、

辞書の引き方もわからないことがあったと聞いたことがある。


世間話のようなことを聞きながら、出された食事をし、

食後のコーヒーが運ばれてきた頃、大平先生が少し姿勢をただし、

今日の本題なのだけれどと、切り出した。




【29-5】

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