29 Determination 【決意】 【29-5】

【29-5】


「はい」

「宇野さん、君は、大学に戻る気持ちはないか」

「……大学」

「あぁ、『東城大学 理学部』だ」


大学に戻る。

あまりにも突然の話なので、どう受け取っていいのかがわからなかった。


「柿沼教授が大学を去って、まぁ、君もわかるだろうが、柿沼色がなくなった。
大学側としては、新しい風を吹き込みたいという思いもあって、
社会人経験のある有望な人間を探しているんだよ」


社会人経験者。

研究の世界だけしか知らないのではなく、幅広い知識を持つ人材。


「高橋教授からも、宇野さんはどうだろうかと、そう言われてね。
今度理学部のトップに立つ嘉山教授は、君の研究内容の話を聞き、
現在、『ストレイジ』で行っている仕事のことも調べたようなんだ」


僕が大学に戻り、また研究をする。


「数年間は、北海道の理学部へ行ってもらうことになるだろうが、
それはもう、現場を経験するという流れのようなものだから、
東京の校舎に戻ったときには、さらに上へと大学側もバックアップできるはずだ」


大学生から大学院生になり、研究に没頭する日々の中で、

あの柿沼に全てを奪われ、僕は悔しい思いだけを胸に、大学を去った。

取り組んできたことが成功したら、もっとチャレンジしたいと思ったこともあるし、

今でも、『ストレイジ』の仕事に関わりながら、

研究テーマを扱えたらという、淡い希望を持ったこともある。


「すぐにとは言わない。よく考えてくれたらいい。ただ、リミットもある」

「はい」


大学側も、その席を空けたままにするわけにはいかない。

僕が首を振れば、また別の人を探すことになるのだから。


「一度、研究所を離れると、敷居が高くなるのもわかるけれど、
ようは医学も生物学も、生活の中に関わってくるものだ。君のこの10年の人生は、
きっと、新しいものを生み出す気がするよ」


大平先生はそういうと、このコーヒーの豆は本当にいい香りがすると、

カップを鼻に近づけた。





『東城大学』



自分が卒業した大学だ、高校時代も本当に憧れ、必死に勉強をした。

また、あの施設でと思うと、気持ちが揺れないわけがない。



でも……





「大平先生が?」

「うん、大学に戻らないかって」

「理学部に?」

「あぁ……今更医学部はないよ」

「まぁ、そうだけれど」


その日もまた、郁美の部屋へ向かい、僕は今日の出来事を語った。

郁美は僕の話を隅から隅まで聞き続け、何度も頷いてくれる。


「いいお話だと思う。北海道は遠いけれど、柾さんがいた頃にはなかった施設でしょ」

「うん……研究所のようなものが出来たんだ」

「だとしたら、また色々なことが出来るかもしれない」


そう、そんなものが出来たと聞いた時には、思い切って遠い場所で生きていたら、

東京にいる柿沼に、邪魔をされなかったのではないかと、思ったこともある。


「私は、柾さんの思いに従う」

「郁美」

「後悔しないように、自分で決めたらいいと思う」



『後悔』



「うん……」


僕は、今、何に後悔するだろうか。



『宇野、研究を諦めるな』



『先生……』



『先生』。

その声は……

僕自身の声ではなくて……

キラキラと輝く目を持つ、未来を探す学生たちで……



『わかった!』



自分たちには、たくさんの道があり、努力はその道をハッキリと示してくれる。

そう信じ、前に進んでいる子供たち。


「後悔しないように……決めないとね」

「うん」


僕がこれからやりたいこと。

これからの人生、どういうふうに過ごして行きたいのか……




【29-6】

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