1 先輩の結婚式に出る理由 【1-4】

【1-4】

二人と別れた陽菜は、地下鉄の駅へと向かった。

真帆の好き勝手な意見に呆れながらも、言い返すことが出来なかったのは、

その発言が『ウソ』ではなかったからだった。

この6月で27になるのに、この数年、『恋愛』というものから、

いや、『恋愛』を感じられる場所からも、自分を遠ざけてきた。

幼稚園の先生という職業は、元々、若い女性が多く、

陽菜の年齢でも、実はベテランに入っている。

そろそろいい人でも見つけて、出て行ってくれないかなという、

見習いポジション達からの視線を感じながらも、

その『恋愛』が出来ないままになっていた。



『青葉瞬(しゅん)』



陽菜たちが友情を誓い合った大学で知り合ったのが、

同じ学部で年齢が3つ上の瞬だった。

瞬は、地方から出てきていたため、生活のためにバイトをいくつかしながら、

大学に通っていた。

そのバイトのひとつが、『教授の手伝い』で、最上級生として、

陽菜たちとも、授業の合間などに会話を交わすことが自然と増えた。

卒業が近付き、大学に顔を見せることが少なくなる頃、

陽菜に先輩後輩からの変化を望み、交際を申し込んだのは瞬の方で、

それまで恋愛経験のほとんどなかった陽菜を、リードしてくれた。

人を好きになると、何気ない毎日がとても輝くこと、

ほんの小さな出来事も、思い出として残しておきたくなること、

そして、人を愛すること、ぬくもりを分かち合うこと、そんなことも、

全て陽菜は瞬と経験してきた。


しかし、付き合い始めて2年後、ささいなことからケンカをした二人は、

陽菜の就職活動が本格化するタイミングで、つきあいを終えてしまった。



連絡がなかった。したけれど、つながらなかった。

きっかけはこんなものだったのに、

気付くと、互いの人格まで否定しあうような言いあいになり、

陽菜はそのこじれた糸を、どうほどけばいいのかが、わからなくなってしまった。



経験のなさが……

この結果を生み出してしまい……元に戻れない場所に、たどり着いた。



しかし、陽菜が幼稚園に就職し、社会人という枠に慣れ始めた3年前の夏。

二人はとある店で再会した。

そこは、瞬が就職をした会社のオーナーが、経営している店で、

彼は、その店の店長になっていた。



『陽菜……懐かしいな』



陽菜との恋愛を、思い出の1ページに変えていた瞬は、

当時、そのオーナーの娘『木所純香(すみか)』と結婚寸前の状態で、

充実した日々を送っていた。

しかし、初めての恋を、自分の未熟さで壊してしまった陽菜は、

『思い出』という箱に、瞬のことを納めきれず、そこから動けなくなってしまった。

目の前で動く目、そしてグラスに触れる手を見ながら、

自分に向けてくれた目と、触れてくれた指の感覚を思い出し続け、

『まだ、好きです』の思いを、心の底から出せないまま……



結局、瞬を、他の女性に渡してしまった。





「もう、青葉さん、結婚して2年になるんだよ。陽菜だってわかっているはずなのに。
全然、動こうとしないから」

「陽菜にとっては、忘れられない人なんだよ、青葉さん」

「そうかもしれないけれど……向こうは結婚した。
しかも、陽菜と再会してからだからね。つまり、もう過去のことだと、
割り切られているわけでしょ」


真帆は、陽菜だけが時間を止めていると、そう言いながら立ち上がる。


「真帆は、陽菜を責めるけれど、私からしたら、過去のことがあるのに、
陽菜を妹のように扱う青葉さんにも問題があると思うけれど……」


有紗はそういうと、またあらためて食事にでも行こうかと、真帆と話しだす。


「あ……真帆、有紗!」


階段の上から声をかけたのは、式を終えて二次会に向かおうとしている絢だった。

二人は声のほうを向き、軽く頭を下げる。

絢は嬉しそうに階段をかけおり、本当にありがとうと真帆の手を握る。


「もうさぁ……本当に、本当に嬉しい!」


絢は両手を握ったまま、上下にブンブン揺らした。

真帆は、こちらこそ本当に楽しかったですと、返事をする。


「そう? 私の衣装、どうだった?」

「似合ってましたよ、さすが先輩って」

「本当?」


有紗は、式の途中で散々文句を言っていたくせにと思いながら、真帆を見る。

それでも、3人の中で、昔から人に対して柔軟な振る舞いが出来るのは真帆だった。

大学時代も、有紗や陽菜はあわない相手だと思うと、

何気なく距離を置くようにしていたが、真帆だけは、自分から色々なところに顔を出し、

それなりの情報を持ってくることが多かった。

今も、歌を褒めたり、ケーキが美味しかったと、それなりに新婦の絢を盛り上げる。


「3人には、あらためてお礼をさせてもらうからね」

「いいですよ、そんなこと。絢先輩とのつながりを考えたら、
当然のことをしただけですし」

「ううん……いいの、いいの」


絢は、今日の会で、3人にも新しい出会いがあればいいのにと、

思っていたことを語りだす。

真帆は、その言葉を聞き、しまっていたセリフを表に出す。


「絢先輩、ちょっとうかがってもいいですか」

「何?」


真帆は、ポケットからハンカチを取り出すと、ある人の名前を絢に告げた。



【1-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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