1 先輩の結婚式に出る理由 【1-5】

【1-5】
真帆たちと別れた陽菜は、その頃駅につき、電車を待っていた。

同じホテルから出てきた人も数名いたようで、紙袋を持ち、

少し酔っている人たちが、ベンチに座っている。

陽菜はバッグから携帯を取り出し、メールが来ていないかを確認する。



『青葉瞬』



その名前は、昔と同じ場所に陣取っていた。

この人との別れの理由が、浮気だったり、裏切りだったりという醜いものなら、

これほど引きずることはなかったかもしれない。

そして、彼との再会が、結婚後という状態だったら、

もう少しドライにいられたのかもしれない。

手を伸ばせば、もう一度あの時を戻せるような距離感が、

瞬の店に通い続けるような状況を生み出してしまい、

逆に、ここまで思いを引きずらせてしまった。

そばに来ても、距離感を保った言葉しか出していかない互いの態度に、

どちらからも、ステップを踏み出すことはなかった。

瞬は、着々と結婚の日取りを決め、そして、その日を迎えてしまう。

もう無理なのだとわかっていても、優しく仕事の愚痴を聞いてくれる瞬の存在に、

心を揺らされる自分が嫌になっていき、

陽菜は、いつの間にか、自分から『恋愛』を避けるようになってしまった。



ホームに電車が入る音が聞こえ、ベンチに座っていた人たちが立ち上がる。

陽菜は一歩前に進み、強い風を受け続けた。





「『黒木祥太郎』さん?」

「はい。ハンカチを拾ってもらって……」

「黒木さん……黒木……あ、そうだ、わかった。中華料理店『華楽』の息子さん」

「中華料理?」

「そう……」


絢は、ご両親もいい人で美味しい店だと、

ご主人から聞いたことがあると教えてくれた。

真帆はありがとうございますと挨拶をし、それからも適当に絢の気持ちを盛り上げ、

新居に遊びにいかせてもらいますというところまで、話を持ち上げた。

絢を見送った真帆と有紗は、ホテルを出て駅に向かう。


「エ? 本当に訪ねてみるつもりなの? 真帆」

「うん……これが運命でなく、なんだと思う? 私がもしあのまま、
上司のいやみっぷりに涙ながらに耐えて、『信用金庫』に勤めていたら、
距離はものすごく離れていたのに、なんと再就職を決めた小さな運送会社から、
電車で駅3つ分しか離れていないのよ。しかも、その駅には、うちの車をケアしてくれる、
自動車工場があるの。ねぇ、これこそ運命でしょう」


有紗は真帆の横顔を見ながら、『相当、酔っているでしょう』と言った。

しかし、真帆は、有紗の発言など無視したまま、

ご機嫌で『黒木祥太郎』への思いを膨らませていく。


「お店だもの、行くのも普通だし……」


しかし、祥太郎本人は風邪で寝込んでいたことも、真帆が見かけ、

ドキドキした人物が別だということにも、情報源である絢は気付いていない。


「あの席、『新郎後輩』っていう紹介が3人に書いてあったの。
ひとりが黒木さん。そしてその隣にいた……えっと……あ、そう、白井さん。
で、空席になっていた緑川さん。つまり、その3人は友人だと、私は思ったわけ」

「うん」

「ちょうどいいでしょう、3対3」

「3?」


有紗は、『3』の意味がわからず、首を傾げる。


「3よ、3。私、有紗、陽菜」

「それはいいって言ったでしょ」

「よくない、よくない。だって、結婚式に出たという共通点がないと、
盛り上がらないじゃない」


真帆は、まずは自分が祥太郎と再会し、そこから話を進めていくからねと、

そう意気込み始める。有紗は、そんなことはいいと言おうとしたが、

あまりにも真帆がやるきになっていたため、そのまま言葉を押し込んだ。





結婚式の次の日。

陽菜は職場になる『新町幼稚園』に向かった。

陽菜の担当するのは3年保育の真ん中学年、『年中』の『りすぐみ』になる。

2週間後には、新しいクラスになって初めての、遠足が予定されていた。

年中クラスは全部で4クラスになっているが、一番年長者ということもあり、

陽菜が主任扱いになっている。


「会社変更ですか」

「そうなのよ。今まで写真をお願いしていた『ハッピーフォト』さんがね、
思ったよりも値段をあげてきたから。思いきって変えてみたの。
特にサービスがよかったわけじゃないでしょ」

「はい」


『新町幼稚園』は、このあたりに昔から住んでいる地主の浅居家が、

自分の土地を切り開き始めたもので、園長と副園長は、親子という関係だった。

副園長を勤める息子『浅居誠(まこと)』は、

今、幼稚園に入って2年目の先生『みき先生』と恋愛関係にあるが、

現状に満足がいかないのか、陽菜にも平気で誘いを入れてくる。

立場もあるので、陽菜は誠の言葉を冗談と受け取り笑って流す毎日だが、

正直、存在を快くは思っていない。

その前に付き合っていた女性も実は、この園に勤めていた先生だった。

彼女は陽菜の同期で、仲もよかったが、この3月で幼稚園を去っている。


「はるな先生はしっかりしているから、業者との打ち合わせも、お願いね」

「あ……はい」


息子である副園長がプレイボーイだということも、母親の園長はわかっていたが、

まぁ、大人同士の判断だからと、あえて口を挟まず目をつむってきた。

無駄なことはあれこれ語らず、しっかりと仕事をする陽菜は、

園長からの信頼が厚いため、年齢が上がってきたものの、

今も、貴重な存在として、幼稚園の中で居場所を保っている。

しかし、副園長の恋の相手を知っている同僚たちは、

少しでも自分が有利な立場に居られるようにしようと、毎日、

彼女を中心にし、仕事を続けていた。



【1-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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