1 先輩の結婚式に出る理由 【1-6】

【1-6】
「昨日ね、行ってきた」

「本当に? フクちゃん何か言った?」

「具体的には話しませんよ。そういうことはプライベートでしょ、秘密です。
もう、仕事しましょう」


春真っ盛りの『みき先生』は、副園長とのデートが素敵な場所だったと、

同僚たちの前で、堂々と語りだす。


「まだいいじゃない、子供たち来ていないし」


副園長だから『フクちゃん』。

先生たちの間では、その名前が当たり前のように使われている。


「おはようございます」

「あ、おはようございます」


会話を楽しんでいた先生たちは、それぞれの教室へ向かう。


「おはようございます。はるな先生」

「おはようございます」


しかし、中には『フクちゃん』の過去を知っているため、

今の状態を心地よく思えないものも存在した。


「また、みき先生、フクちゃんの話をしていたのでしょ。そんな暇があるのなら、
もっと積極的に仕事をしてよと言いたいですよね。今度は、いつまで続くのか」

「本当、本当。それにしても前の『なみ先生』は心におくタイプだったのに、
今度はまぁ……ペラペラよくしゃべるわね」

「そうですよね」


陽菜は、どちらに対しての発言も、

あえて語らないことでベテランとしてのバランスを保っていた。

誠の元彼女、『なみ先生』は陽菜にとって同期であり、色々な思い出もある。

副園長との関係が壊れたことが原因で、退園したと思われているが、

実は彼女がすでに『どんぐり保育園』に再就職をし、

前向きな状態で、仕事を頑張っていることも手紙で知っていた。

それでも、ここであれこれ語るのは、違った憶測を生むだろうと判断し、

あえて語らないようにしている。

陽菜が職員室を出ると、すぐに子供が飛び込んできた。


「はるな先生、おはよう」

「あ……ともくん、おはよう。今日も1番!」

「やったぁ」


キラキラとした目を持つ子供たちとの日々が、また今日も始まった。





昼、2時過ぎ、大輔はもらった手書きの地図を見ながら、商店街の中を進んだ。


「いい加減な地図だな、これ」


2本ある道が1本になっていたり、斜めの場所が直角になっていたり、

それでも進んでいくと、目の前に大きな園庭が広がった。

左を向くと、そこに『新町幼稚園』の看板が見える。


「ここか……」


大輔はポケットに名刺があることを確認し、自動ドアの前に立った。

しかし、扉は開かない。

反応が鈍くなっているのかと、何度か強めにシートを踏みつけていると、

ガラスの向こうに立っていた園児が二人大輔に気付き、

同じように、足をドンドンとしてみせた。

そのうちの男の子は、扉が開かないことを知っているからだろう。

大輔の目の前に来て、アッカンベーという顔をする。

何をしているんだと、大輔が扉の間に指を挟み、強引に扉を開けようとしたとき、

そばに寄ってきた別の女の子が、右の方を指さした。



『ご用のある方は、インターフォンでお知らせください』



髪の毛をお団子にした女の子は、わかった? というように首を傾げる。

大輔は親指を出し、わかったと合図をする。

右斜めにあるインターフォンを鳴らすと、すぐに女性の声がした。


『はい』

「すみません、『フォトカチャ』です」

『はい、今開けます』


その言葉と同時に、自動ドアではない場所が、カチャンと開いた。

大輔はその場所から中に入り、あらためて職員室らしき場所に顔を出す。


「今、園長先生と、主任を呼びますので」

「はい」


そう答えてくれた先生は、泣いている子供を抱きかかえ、廊下を歩いていく。

その後ろを数名の園児が、追っていった。

大輔は、出されたスリッパを履き、職員室の前にある大きな『水槽』を見る。


「これ、ピラニアだぞ」


声をかけてきたのは、先ほど大輔にアッカンベーをした男の子だった。

大輔は、幼稚園に『ピラニア』などという物騒な魚が居るわけがないと思ったが、

そうなのかとわかったふりをする。


「ピラニアだから、手を入れるとガブッと食われる」

「ほぉ……」

「食われたら、血がドバーだぞ」

「食われたことがあるのか」

「ないに決まってるだろ、あったら俺、死んでるし」


男の子は、なぜか胸を張り、そこから楽しそうに笑い出す。

大輔はそうなのかと言いながら、水槽を確認した。

ピラニアのことを誰から聞いたのかわからないが、どうみてもこれは金魚でしかなく、

ピラニアではない。


「指……食われるのか、よし、試してみようかな」


大輔は、わざと水槽の上に指を出した。

金魚たちは、エサの時間かと思い、指のそばに寄り始める。


「うわ!」


大輔は左手を押さえ、うなりながら玄関の隅にうずくまる。

その声を聞いた小さな女の子たちが、どうしたのかと近寄り始めた。


「まずい……指が……」


大輔はすぐにバレるだろうと思いながらも、関節で指を折ったまま、

子供たちに見せてみる。するとひとりの女の子が、

『指がない』とその場で声をあげて泣き始めた。

もうひとりの女の子は、ふざけてピラニアだと言った男の子を、責め始める。


「先生に言っちゃうから」

「俺のせいじゃない」

「せいだよ、だって、指……」

「だって……だって、俺」


そこまで元気いっぱいだった男の子は、まわりに責められたため、

そこから顔をゆがめて泣き始めた。さすがに大輔も責任を感じ、

指は大丈夫だとすぐに見せてやる。


「うわぁ……」


一度泣きのスイッチが入った男の子は、わけがわからないまま、

また泣いてしまう。それにつられるように、責めた女の子も泣き始め、

幼稚園の玄関前は、ちょっとした騒動が巻き起こった。



【2-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

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