2 過去の傷とそれぞれの今 【2-1】

2 過去の傷とそれぞれの今
【2-1】
「どうしましたか」

「あ……すみません。俺のせいです」


子供たちの騒がしい声に気付き陽菜が玄関前に来ると、

園児たちはあちこちから、この状況を説明しようと声をあげた。

そばで聞いていた大輔には、子供が数人入り混じり、しかも興奮気味に発言する声は、

何を言っているのかわからないくらい混雑している状態だったが、

さすがに職業としている陽菜の態度はハッキリしていて、すぐに飲み込んでいく。


「あの……指は」

「大丈夫です。すみません、俺が悪ふざけをしたので」

「いえ……」


陽菜は泣いている男の子のところに向かい、水槽の中にいるのは金魚で、

ピラニアではないから人をかまないけれど、

『ウソ』を言うことはよくないことだと膝をつき、視線を子供に合わせ、

きちんと説明する。


「……ごめんなさい」


大輔をからかった男の子は、陽菜に諭され、泣き顔のまま謝ってくる。


「いや、俺の方こそごめんなさい。お前、責められちゃって」


大輔が子供の視線に合わせようとひざまずくと、

目の前の背中に別の男の子が背中に乗り、楽しそうな声を出す。


「こら、降りなさい!」


怖い顔をした園長先生の声に、騒がしかった子供たちが静まり返った。





陽菜は、大輔を職員室に入れ、お茶を出した。

幼稚園は退園時間になっていたため、園児たちを乗せバスが3台出発していく。

お迎えに来ている母親たちは、子供を園庭で遊ばせたまま、

何やら井戸端会議の最中のようで、時折大きな笑い声が職員室にまで届く。


「ほら、『チクタク隊』は、みんな『うさぎ』組に荷物を置くよ」

「はぁい」


数名の子供たちが、副園長の後をついていく。

大輔は、出してもらったお茶を、一口飲んだ。


「なんですか、『チクタク隊』って」

「あぁ、はい。普段の園児たちはほとんど2時くらいで帰り時間になりますが、
延長保育を希望している子供たちがいるので、
その子たちを『チクタク隊』と呼んでいます。
胸のポケットに、時計のワッペンをつけさせて、間違えてバスに乗せないように……」

「ほぉ……」

「今は、共働きのご家庭が多いですし。幼稚園に求められているものも、
それぞれ違うところがありまして」

「そうですか」


大輔は、前に座った陽菜に、まずはと名刺を出した。

陽菜はそれを受け取り、名前と企業名を確認すると、ありがとうございますと礼をする。


「『フォトカチャ』としては、3年くらい前から幼稚園、保育園とも色々と、
お付き合いがあります。細かな設定が特になければ、
まぁ、お任せしていただけたらと思っています」

「はい……」

「今回の『あおぞら公園』も、去年、別の幼稚園で行ってますので、
ポイントがどこにあるかもわかりますし」

「そうですか。それなら助かります」


大輔は、会社から渡された書類を陽菜に見せ、何か質問はないかと尋ねた。

陽菜は、両手で待って欲しいという仕草を見せる。


「すみません、質問は特にありませんが、今、園長が戻ってきますので、
少々、お待ちいただけますか」

「あ……そうでしたね」


確かに、色々といっても、経営者ではない陽菜には、返答は無理だろうと、

大輔はまたお茶を飲む。すると、ドタドタという音が聞こえ、

職員室の扉がガラッと勢いよく開いた。


「すみませんね、保護者と話がありまして」

「あ、いえいえ」


園長の登場に大輔は立ち上がると、名刺をあらためて差し出した。

園長は名刺の名前を確認すると、そのまま席に着く。

『ボスッ』というソファーの音が響いたので、大輔は前を見るが、

名刺に視線を落とした園長の体格を見て納得する。

そこからは、隣に座っている陽菜が、とても小さく見えるようになった。





「あはは……」

「そこまでおかしいか、司」

「いやぁ……おかしいね」


その日の夜、大輔と司は、『華楽』に向かった。

結婚式の前日、熱を出した『黒木祥太郎』を見舞うということだったが、

実際には、単なる食事会になる。


「その園長が卒園までに一人や二人、踏み潰すんじゃないのか?」

「踏み潰しはしないだろうけれど、まぁ、迫力はあったね」


大輔は、ビールの入ったコップを持ち一口飲む。

そこに、店の奥から現れた祥太郎が加わった。

司は祥太郎の座る位置を確保するため、座敷の奥へと入る。


「なんだか悪かったな、引き出物持ってきてもらって」

「そうだよ、重たい思いをして持ってきたんだぞ、この俺が」


祥太郎の隣に座る司は、自分の胸を軽く叩く。


「大げさだよ司、カタログだろうが」


大輔は一緒に入っていたお菓子はクッキーで、結構美味しかったと感想を述べる。

司は、それで体の具合はどうなんだと、祥太郎に聞いた。


「それがさ、今朝になったらウソのように体も軽いんだ。
熱も昨日の夜には下がってきていたし」

「あはは……」


司は、まるで幼稚園児だなと、祥太郎を笑う。


「司、お前、あれこれ笑いすぎだぞ」


大輔も司を止めるものの、口元は完全にゆるんでいた。



【2-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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