2 過去の傷とそれぞれの今 【2-2】

【2-2】
祥太郎は、厨房前にいる母、圭子に呼ばれ一度席を立つと、

中華丼とスープを乗せたお盆を、2つ持ってくる。


「いいよ、いいよ、笑っていればそれで。実際、俺もそうだと思うしさ」


祥太郎は、それぞれの前に置くと、また座席にあがり胡坐をかいた。

司は、自分の飲みかけビールを祥太郎に勧めたが、仕事中だと跳ね返す。


「で、大輔、どうだった。『新町幼稚園』とやらには、
迫力のある園長ではなくて、いい女、いた?」

「いい女?」

「あぁ、幼稚園の先生なんていうのは、若い女の職業だろう。
右を見ても左を見ても女、そんな職場あまりないからさ」


司は、大学や短大を出たギャルたちではないかと、中華丼のためレンゲを持つ。


「ギャルって……なんだよ、それ。そんなじっくり顔なんて見られるわけないだろうが。
その『森にいるくまさん』みたいな園長と、あとは主任の先生だけだよ、会話したの」


大輔は、瓶を持ち、自分のコップにビールを入れる。

思っていたよりも泡が入ったので、こぼれないように口を寄せた。


「幼稚園の先生か……なんか、エロい感じがする」

「は? するか?」

「するだろう。毎日女だらけの中にいるんだぞ。
さっきの話し、ほら、水槽のピラニアだけど。いい男が飛び込んだら、
みんな一斉に近寄って来るんじゃないのか?」


司はそういうと、左手で魚の口を表現する。


「そういえば、副園長って呼ばれている園長の息子がいたな」

「副園長? うわぁ……それ、絶対に色々あるぞ。保護者には絶対に言えない内緒の話」


司は、中華丼からレンゲをスープに移す。


「あ、そうだ、幼稚園の先生ってあったな……」

「何に?」

「前に借りたAV」


祥太郎の言葉に、大輔からお手拭が飛んでくる。


「何するんだよ」

「もういいよ。変な方向に走るのはやめてくれ。
幼稚園、保育園とこっちはこれから、仕事するんだぞ。
AVだのなんだのって、先生ばかりレンズが追ったら困るだろう」

「なんだよ、大輔。お前も乗ってるじゃないか。おじさん、ここに餃子追加!
もちろん、祥太郎のおごり」


ほろ酔い気分の2人は、厨房の中にいる祥太郎の父、明彦に、更なるオーダーをする。

祥太郎は、どれだけおごれば気が済むのだと、伝票をつかみ厨房に戻った。





司と祥太郎と飲み会を開いた後の大輔は、

そこから電車に乗り、とある『老人ホーム』へ向かった。

時間はすでに夜9時を回っていたが、

顔を見ることくらいなら出来るだろうと、少し急ぎ足で歩く。

高齢者が生活する介護施設『アプリコット』には、

隣接した場所に介護をする職員用の寮があった。

介護は24時間になるため、格安の値段で部屋を貸してもらう条件の反面、

ホームから呼び出されたときには、すぐに介護に参加し動くという契約も交わしている。

大輔の3つ年上の姉、『白井文乃(ふみの)』は、今から2年ほど前、

せっかく再就職した会社を突然やめて、弟である大輔に相談もないまま、

このホームに就職し寮に入った。


大輔は大学に合格してから、先に東京へ出ていた文乃の部屋に居候をし、

食事や洗濯など、世話になり続けてきた。

大輔の夢は田舎にいた頃からカメラマンだったため、就職という形はとらなかった。

形は社会人でも、実際にはカメラマンとしての修行の日々があり、

なかなか収入が安定しなかったため、文乃との同居生活は続いた。

当時、文乃には付き合いのある男性がいて、大輔もよく会っていた。

二人には結婚する予定があったが、話しは3年ほど前のある事件をきっかけに、

急展開を迎えてしまう。


大輔の心に、いまだに張り付いたままのこの事件は、

大輔の人生も、文乃の人生も、そこから変えてしまった。


「祥太郎君のところに?」

「そう。あいつの家からだと、ここ近いし」

「近いけれど、もう時間がないじゃない」

「わかってる」


文乃はインターフォンで大輔の訪問を知り、部屋へ通した。

家族や友達の出入りは自由だけれど、緊急を要する場合、

入居者たちのケアに利用することもあるので、

部屋へ他人を泊めることは、たとえ家族でも禁止されていた。


「元気そうね、大輔」

「うん……姉ちゃんは?」

「元気でしょう。見てわからない?」


文乃はそういうと、お世話をしている女性のご家族からもらったと、

りんごを出し、それをビニール袋に3つ入れる。


「ねぇ、持って帰って、大輔」

「いらないよ、りんごなんて」

「何言っているの。りんごならそのままでも食べられるでしょう。
ねぇ、少しは炊事、するようになったの?」


文乃は、そういえばとまた別のものを探し出す。

大輔の視線は、文乃の足に向かった。

普通に歩いても、少し引きずるようになる左足。

それは大輔の抱えた事件そのものが、二人に残した傷だった。


「姉ちゃん、介護の仕事、その足で辛くないのか」


大輔は、出されたお茶に軽く口をつけ、そう聞いた。

文乃は、小さなタンスから何やら袋を出し始める。


「その質問、何度言っているの? 体力を使うから大変は大変よ。でも、足は関係ない。
みなさん感謝してくれるし、やりがいはある」

「関係ないことないだろう、足……ハンデになるに決まっている」


大輔の言葉に、文乃は黙って首を振る。

そして、りんごの入った袋とタンスから出した袋を、

さらに大き目の紙袋に入れ大輔の前に置いた。



【2-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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