3 人には表と裏の顔がある 【3-2】

【3-2】
『新しいカクテル、飲みに来いよ』



仕事を終え、部屋へ戻ろうとしている陽菜の携帯に、瞬からのメールが届いていた。

新しいカクテルだの、メニューだの、そんなことがあると、

こうしていつもお誘いがかかる。店長を任され、その営業の一貫だとわかっているものの、

『誘われている』という行為が、また別の感情を呼び起こそうとする。

瞬の店は、自分の駅からさらに5つ分先に進めばあるのだから、

今からでも寄ることは可能かもしれないと、陽菜がそのメールを見つめ、

揺れる思いを必死に封じ込めていると、真帆から電話が入った。

電車に乗る前だったので、片方の耳を押さえ通話ボタンを押す。


「はい」

『あ、陽菜? ねぇ、今日これから遊びに行ってもいい?』

「エ……」


真帆が話し始めたとき、反対側のホームに電車が入り始めたので、

その音が勝ってしまい、内容がハッキリと聞き取れず、

陽菜は『何を言ったの?』と聞き返す。


『遊びに行くからねって言ったの、じゃ、後で』

「あ、真帆……ねぇ」


真帆の電話はすでに切られてしまった。

陽菜は一昨日会ったばかりなのにと思いながら、

真帆が来るのなら、何か駅前で買って帰ろうとそう考える。

真帆の口調が明るかったので、何か話をしたいことでもあったのだろうと思い、

携帯をバッグにしまった。





陽菜が駅に着くと、真帆が改札の前で待っていた。

一緒に買い物をしようと、陽菜が持っていた荷物をひとつ持ってくれる。

真帆が、すでにここで待っていたという事実に、

遊びに行ってもいいかと自分に電話で聞いた時には、

すでに『OK』と決め付けて行動し始めていたのだと思い、

陽菜は『ダメだと言ったらどうするつもりだったのか』と聞く。


「ダメなんて言わないと信じていたもの。ねぇ、何、これ。色画用紙がいっぱい」


真帆は自分への追求はすぐにかわし、話題を変えようとする。

陽菜もこれ以上責めても仕方がないなと、紙は誕生日会のカードだと説明した。


「週明けまでに作らないといけないの。園だと子供たちにばれちゃうでしょ」

「あらら、大変なのね、幼稚園の先生も」

「主任になってしまったから、カリキュラムの確認とかがあって、
クラスのことだけじゃないのよ、仕事。気付くと時間ばっかり過ぎていて……
あ、そういうのを要領が悪いって言うのか」


陽菜と真帆は、スーパーの入り口に入り、ショッピングカートを出す。


「要領が悪いわけではないと思うよ。陽菜は昔から、丁寧だからね。
だから時間がかかってしまうの」


真帆は、私も手伝うからねと笑い、入り口すぐにあった惣菜をカゴに入れた。





駅から5分歩いた、3階建ての賃貸マンション。

その3階に陽菜の部屋はある。間取りは1DKだが、

お風呂が広めなことが気に入り、契約を決めた。

真帆と買い物をした惣菜などを並べ、

夕飯用にあらかじめタイマーで炊いてあったご飯を、手早くおにぎりに変えていく。

陽菜はベッドに寄りかかり、真帆は背もたれのある座椅子式の健康器具に座る。


「人違い?」

「そう。あの日、陽菜が帰ってから絢先輩が降りてきてくれて、で、私、
ハンカチを拾ってくれた『黒木祥太郎』さんがどういう人なのかって、聞いたのよ」

「何……あれから絢先輩に聞いたの?」

「そうよ。だって、他に情報がある人いないでしょ」


陽菜は、一番結婚式に文句を言っていた真帆が、

切り替えして絢先輩と話している姿を想像する。


「それでね、『華楽』という中華料理屋の息子さんだって聞いたから、
仕事でそっちに行ける用事を作って、今日行って来たの」


陽菜は、本当に行ったのかと聞く。


「行きました。そこまでは私の計算どおりだったけれど、そこからが予想外でね」


真帆は、祥太郎との出来事を、陽菜に語り、

転がった話が、別の方向へ転がり始めたのだと、そう言って笑い出す。


「転がったって」

「だって、結局、出席できなかった黒木さんの席に、
その緑川さんが詰めていたっていうのが真相だったのだけれど、
流れで電話でお話して、で……」


真帆は、何を思い出しているのか、そばにあったクッションを顔の前に置き、

にやけ始める。


「で?」

「そう、緑川さんがね、そういう席で出会いがあったのも、縁かも知れないから、
みなさんで会いましょうってそう言ってくれて」

「みなさん?」

「そう……あの日、互いの席に座っていた女3人、
男……まぁ、黒木さんはいなかったけれど、でもその3人ってこと」


真帆は、6人で飲み会を計画しましたと、左手を高く上げる。

陽菜は、ペットボトルの水を飲み、倒れてもこぼれないようにしっかりと閉めた。


「計画しましたって、行かないわよ、私」

「は?」

「言ったでしょ、そういうのイヤだって」

「陽菜、ちょっと待ってよ」

「待たないわよ」


陽菜は、席を立つと冷蔵庫から冷やしたサラダを取り出した。

小さなお皿を2つ、テーブルに置く。


「前にも話をしたでしょ、人に気をつかって飲むような会は嫌なの。
真帆と有紗で行ってよ」


陽菜はそういうと、ベッドに寄りかかり、膝を抱える。


「それ無理でしょう」

「無理? どうして」

「だって、3対3だということで盛り上がったの。陽菜、今回だけお願い。
これにはさ、黒木さんの優しさもたくさん入っているのよ」

「何、その優しさって」

「うん」


真帆は、本当の『黒木祥太郎』が自分にとてもよくしてくれたこと、

食事を途中で止めてしまったのは、味が悪かったのではないかと気にしたこと。

真帆の勘違いに気付き、すぐ司に連絡を取ってくれたことを、丁寧に話し続ける。


「私も、もういいですって言おうとしたの。
でも、黒木さんが妙な理由でお店を訪ねた私のこと、バカにしたりしないで、
一生懸命考えてくれて、で、決まった会でしょ。それをこちらは2人ですって、
それは申し訳ないじゃない。だから、今回だけはお願い。私のためではなくて、
心優しい黒木さんのために……」


真帆は、今回だけだからと、両手を合わせてお願いする。


「あの日の緑川さんとの縁も、今日の黒木さんとの縁も、
どっちもいいものになるかもしれないし……お願い、陽菜!」


真帆の必死の頼みに、陽菜は大きくため息をつく。

有紗がOKを出すならと返事をした後、またペットボトルの蓋を開けた。


「わかった! 私が有紗には連絡をする!」


真帆はそういうと、陽菜の仕事を手伝うからねと、楽しそうに食事をし始めた。



【3-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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