3 人には表と裏の顔がある 【3-4】

【3-4】

「なぁ、大輔。文乃さん元気か」

「あぁ……この間、祥太郎のところに行った帰り、寄ったら元気だった。
ああしろこうしろって、口やかましいよ」

「ふーん……」


司は、そうなのかと言いながら、グラスに触れる。

もう少し何かを聞こうと大輔を見るが、言葉が出てこないままで、

司はグラスに口をつける。


「司には、心配かけたからな、色々と」

「ん? いや……」

「姉ちゃんの縁談がダメになって、その中でずっと足のリハビリだろ。
もっと落ち込むかもと思ったけれど、お前がうまくさ……、
人の気持ちとか盛り上げてくれるからさ、助かったよ」



『司君のおかげで、助かった』



「そんな大輔に感謝されるようなことはないって」

「いや、実際、和臣さんが、別れてからも何度か連絡してきていたんだ。
姉ちゃんもあんな仕打ちされたんだから、ストーカーだって、
警察に連絡でもするくらいのことをしてやればいいのに、それが出来なくてさ」



『司君……ダメ』



「うまいぞ、これ。ほら食べろって」

「わかってるよ、小姑みたいに言うなって」


大輔は遠足の後に飲み会かと、携帯に予定を入れながら、面倒だとため息をついた。





司は、大輔と別れた後、そのまま駅には行かず、

大通りから1本道をずらした場所にある花屋に入った。

店の女性はいらっしゃいませと声をかけた後、バケツを右から左に移動する。


「花を贈りたいのですが」

「はい。ご予算を」


司は、予算を告げると、それを送って欲しいところがあると説明する。

店員は、宅配用の伝票を取り出すと、ペンを一緒に差し出した。


「これを一緒に」


司は、そう店員に頼むと、伝票に住所を書き出した。





『アプリコット』

文乃は朝から忙しく働き、次の担当者に引継ぎを開始する。


「302の木村さん、少し風邪気味のようです。咳をよくされるので、
明日の通院時に、診察をしていただいたほうがいいと思います」

「はい、了解」

「それと401の加藤さんは、夜中にあまり寝られないと、そう……」

「あぁ、あの人ね、わかった」

「よろしくお願いします」


文乃は引継ぎを終えて、緊張した時間を終了する。

これから寮に戻って、少し眠った後、日用品の買い物に出ようかと考えた。

『アプリコット』を出て横断歩道を渡り、向かいにある寮に入る。


「あ……白井さん」

「はい」


声をかけてくれたのは、寮の管理をしている女性だった。

文乃は何かありましたかと、管理室をのぞく。


「これ、届きましたよ」


管理の女性から渡されたのは、花かごだった。

大きく丸い持ち手部分にリボンがつけてあり、その上を透明なセロファンが覆っている。

伝票は貼り付けてあるが、宛名はこの花を配送した花屋になっている。

贈り主が『花屋さん』である花かごが来るのは、

文乃にとって初めてのことではなかった。


「綺麗だね、見事なくらい」

「はい……」


4月の終わりに来る、文乃の誕生日。

それに合わせての花束は、今年で3回目になる。


「すみません、預かっていただいて」

「いえいえ」


管理室の扉を開け、文乃は花かごを受け取った。

寮に入り、部屋のカギを開けると、テーブルの上に置く。

セロファンを取り、花に空間を解放すると、

今まで押し込まれていた春の香りが、部屋の中に広がっていく気がする。



『誕生日、おめでとう』



そう書かれたカードの文字は、

伝票同様、この花を贈ってくれる人を予想できる手がかりだった。

しかし、文乃は、カードの文字を見なくても、これが誰からなのかわかっていた。

こんなことをしてくれる人は、どう考えても一人しか思い浮かばない。

文乃はまだ、かすかに残る背中の重みを思い出してしまう。



『ずっと好きでした』



文乃は蘇ってくる言葉を心の奥に押し込もうと、誕生日カードを二つ折りにする。

台所にあるゴミ箱に入れ、その上に丸めた紙ゴミを押し込んでいく。

そして、財布を持つと、その花から逃げるように部屋を出て行った。



【3-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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