3 人には表と裏の顔がある 【3-5】

【3-5】
「お疲れ様でした」

「お疲れ様」


陽菜は仕事を終えて、片づけを済ませると、そろそろ帰ろうかと時計を見た。

明日は、真帆が計画した飲み会の日。

遠足が予定されているので、動きやすい格好で仕事を終えた後、

着替えて園を出ようとそう考える。

普段、使っている靴ではなく、歩きやすいスニーカーを教室に忘れていたことに気付き、

陽菜は2階にある『りす』組に向かう。

階段の途中で、副園長と恋人関係にある『みき先生』の声が聞こえたので、

そのまま出て行くわけには行かず、足を止めた。


「ねぇ……どうして週末、ダメなの?」

「週末は研修なんだよ、今回は出ないと園長に怒られる」

「うーん……だって」

「そう、わがまま言うなよ」

「そんなもの出なくたって、誠さんが継ぐことは決まっているんだから……
さぼっちゃえばいいのに……もう」


そう言ったみき先生の声が、少し甘みを含んだ声に代わり、クスッと笑い声も届く。

陽菜はこのまま進むのはまずいと思い、階段を下りた。

園児が帰った後だから、気持ちがゆるんでいるのかもしれないが、

いちゃつくのなら、別の場所にして欲しいと思いながら職員室へ戻った。

しばらく時間を潰そうと、明日のコースをおさらいする。

その時、『明日の飲み会会場』を聞いていなかったことに気付き、

真帆宛にメールを打った。

陽菜は、明日の予定コースをもう一度頭の中でシミュレーションする。

3年保育から幼稚園に入り、遠足など、行事を経験している子と、

この春から幼稚園に入った子とでは、歩くことへの慣れが違い、

思わぬ速度差を生み、予定外の時間がかかることもある。

陽菜は、先頭は別の先生クラスに任せ、主任の自分が最後を歩こうと、

そう考えを変える。自動車が走り回る道ではないけれど、

園の外に子供たちを出すことは、毎回緊張することに違いはなく、

陽菜は、写真を撮る場所にも気をつけてもらおうと、あらためて印をつけた。





『会場は『ミラージュ』です』


真帆から陽菜宛に返信が入ったのは、それから30分後だった。

『ミラージュ』だとわかり、すぐに電話をかける。


「もしもし、真帆?」

『あ、陽菜? どうしたの。もう家?』

「どうしたのじゃないでしょ。まだ職場。ねぇ、会場、『ミラージュ』なの?」


真帆は、そうだよとあっけらかんと答えた。

『ミラージュ』とは、青葉瞬が店長を務めている店になる。

同じオーナーが経営する料理店が2、3階にあるため、料理はそこから運んでくれ、

確かに数回、真帆や有紗と待ち合わせて、飲んだこともある。


「どうして……」

『青葉さんからメール来てたの。また飲みに来いって。
陽菜にも当然来ていたでしょうけどね。で、実は、
こういう会を計画しているって言ったら、だったらうちでやれって、
そう言ってくれて』


真帆は、陽菜も有紗もいると話し、青葉はそれならサービスをするからと、

そう言ったため、会場を決めたと言う。


『お前たちが連れて来る男どもを見てみたいなんて、言ってたわよ、青葉さん。
お前たちってことは、当然ながら陽菜も入っているの。
ねぇ、思い切り楽しそうなところ見せてやればいいのよ、陽菜』


陽菜は、瞬が、自分たちが他の男性たちと飲み会を開くことを知り、

それを見物客のように『見たい』と言ったことを聞き、悔しい気持ちが湧き上がる。


「青葉さんが、言ったの?」

『うん……そういう飲み会も、楽しいかもなって』

「ふーん」


陽菜はもやもやした思いを振り切るように、真帆にわかったと返事をする。

大学時代、思いを寄せた相手に対し、時が過ぎたとはいえ、

平気で兄妹のように接してくる瞬は、もう過去は過去だと割り切っているから、

お前も立ち止まるなと、そう言っているように思えた。

だからこそ、陽菜との再会後、平然と別の女性を選び結婚した。

青葉瞬という男は、もう他人に渡したもの……

そう思えば楽になるはずのに、陽菜はまだ、その過去の壁を越えられずに、

気持ちを彷徨わせてしまう。



何か……起こるのかもしれないと。



「明日ね……うん、わかった」

『遠足で疲れるけれど、来てよ』

「行きますよ、そう何度も言わなくたって」


真帆の言うとおり、瞬の前で、新しい出会いを持つことが出来たら、

気持ちも少しは変わるだろうかと、陽菜は思いながら、携帯を閉じた。





次の日、『新町幼稚園』の遠足は、快晴だった。

2台に乗り分けた『年中組』たちは、今日をいう日を楽しみにしていたために、

朝からテンションが高く、なかなか整列もうまくいかない。

『フォトカチャ』から来た大輔と、もう一人のカメラマンは、

1号車、2号車とそれぞれに別れ、バスの中に乗り込んだ。

指定された場所に座り、先生たちの仕事ぶりを観察する。

陽菜は乱れた子供たちの列に向かって、『ピッピッ』と、笛を小刻みに、

そしてリズミカルに吹きはじめた。

ざわついていた子供たちが、その笛の音に気付き、だんだんと足踏みに参加していく。

足踏みを始めた子供が、隣の子供を誘い、ふざけていた子供が、隣の子の変化に気付き、

1分程度で、園児がみんなで足踏みをするようになった。

大輔は、カメラのレンズを動かし、主任の陽菜を見る。


「全体、止まれ!」


その合図に、子供たちがピシッと姿勢を揃えて止まった。


「はい、おはようございます」


陽菜の声に、子供たちが明るい声で返事をする。

今日が楽しみにしていた遠足の日であること、楽しく帰ってくるためには、

先生の言うことをしっかりと聞いて、自分勝手に行動しないことなど、

子供たちに気をつけることを、丁寧に教えていく。

大輔は、その話を耳に受けながら、園児たちがいる場所に向かってレンズを構え、

距離感を計るために空のシャッターを押した。



【3-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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