4 再会の日、うわの空の心 【4-1】

4 再会の日、うわの空の心
【4-1】
司は『ビューティークール』の前に立ち、インターフォンを鳴らした。

店員がすぐに扉を開け、中に入れてくれる。


「お世話になっております。『アモーラ』の緑川ですが。
院長はいらっしゃいますか」

「はい、お待ちください」


午前の診察時間は終わっているため、司はすぐに診察室へと通された。

そして、先日、一度試してみたいと言われていた商品のサンプルを出し、

その反応を見る。


「あぁ、これね」

「はい。女性の悩みに、ストレートな答えを出そうというのが、今回のテーマでして」

「そうね。近頃、結局何がしたいのかわからないものが多いし」

「そうですよね」


司は、それなりの営業トークを織り込み、話を円滑に進めていく。

院長も、司の商品説明に納得し、商談はほんの10分程度で終わりになった。


「ねぇ、緑川さん」

「はい」

「うちの樹里が、色々とご迷惑をかけているでしょう」


院長は、それなりに何度か話しはしたけれどと、笑ってみせる。


「迷惑ではないですが、樹里さんに営業所へ来ていただいても、
なかなか時間を取ることが出来なくて、逆に申し訳ないと思っています」


司は、大学時代には悩みも色々あるだろうしと、無難な答えで逃げようとする。


「まぁねぇ、一人娘なもので、年上の男性に憧れているのかもしれないけれど……」


司は、次回の予定はどうしようかと話しかけるつもりで、手帳を出す。


「ねぇ、正直なところ。うちの娘とお付き合いをしてみるつもりはない?」


院長の問いかけに、司は思わず『エ……』と声をあげる。

親までプッシュしてくるとは、予想外の展開だった。

司は、数秒の中で、どう答えていくのが一番いいのかと頭を巡らせる。

この選択を間違えてしまうと、後々、足元をすくわれかねない。


「ご存知の通り、樹里は一人娘であまり世間を知らないでしょ。
だから、緑川さんのように年上の男性の方が、確かにうまくいくのではないかと、
そう思うところもあって」


院長は、冗談ではないくらいの勢いで、司に娘をすすめ始める。

司は、顔は冷静な表情を保っていたものの、とんでもないことになったと、

心の中で壁を蹴り飛ばした。


「娘と付き合ってみて、合わないなと思ったらそれはそれでいいの。
もちろん無理にとは言わないわ。
でも、樹里があれだけ緑川さんに惹かれているというのを、なんだか無視できなくてね。
ごめんなさい、親ばかで」

「いえ……」


司は、そう言いながらも、『その通りだ』と心で言い返していた。

30歳も目前になって、女子大生の相手など、面倒くさくてしていられない。

しかも、箱入り娘に間違って手でも出してしまったら、

それこそ一気にゴールまで突っ走られかねない。


「院長」

「はい」

「樹里さんは本当に素敵なお嬢さんだと、
私も、以前、お食事をさせていただいたときに思いました。が……」

「……が?」


司は手帳を閉じ、院長をしっかりと見る。


「実は、結婚を考えて付き合っている女性がおりまして」

「あら……」

「仕事にプライベートを持ち込むのは、あまり好きではないものですから、
社内でもまだ、話していないのです」


院長は、そうなのかと頷きながら聞いている。


「自分で、仕事に区切りがついたと思える時に、籍を入れたいと。
向こうのご両親に、挨拶もしています」


これは司の、完全なる作り話だった。

しかし、笑って誤魔化すよりも、

ここまでしてしまった方が面倒にならないだろうと判断し、司は話し続ける。


「まぁ、そうなの」

「はい。すみません」

「いえいえ、それなら……」


院長は司が渡した資料をファイルに入れる。


「そうよね、緑川さん結婚適齢期ですもの。そういうお相手がいて、当たり前だわ」


院長は残念だけれどと言葉を付け足しながらも、すぐに『いえいえ』と否定して笑う。


「ねぇ、緑川さんの心を掴んだ女性は、どんな方なの?」


院長の問いかけに、司は『それは……』とごまかしを入れた。

作り話なのだから、どんな人と言われても、困ってしまう。


「プライベートなことだからと思うけれど、樹里にも話をしたいの。
ごめんなさい、ただ、彼女がいるそうよと言うのでは、納得してくれない気がして」


院長はそういうと、親バカねとまた繰り返す。

司は、数秒考えた後、わかりましたと頷いていく。

自分の心の奥に、住み続ける人。司はその人を思い浮かべながら語りだす。


「彼女は、どんなに大変なことがあっても、決して弱音をはかない人です。
自分よりも常に人のことを思い、周りの人が幸せであることを、
自分の幸せのように喜ぶ……そんな女性です」


司は、自分が大学時代に初めて出会ってからの笑顔、

そして、かけてくれた優しい言葉を思い出す。



『司くんが大輔の友達でいてくれて、よかった……』



司の中に、数年前、微笑みかけてくれた文乃の顔が浮かぶ。

しかし、それと同時に、あの日触れた左手と腕に残された傷を思い下を向いた。


「うふふ……」


院長の笑い声に、司は今の状況に気持ちを戻し、顔をあげる。


「ごめんなさい、笑ってしまって。でも、緑川さんの普段の雰囲気と、
その女性像がこう結びつかなくて。あ、でも、そうなのかもね。
あなたのような方は、そういう可憐な人を、望むのかもしれないわね」


院長は色々と聞いてしまってごめんなさいと、謝罪する。


「いえ……」


司は、自分の話をそこで終わらせようと、手帳を開き、

次の予定を入れるため、院長の都合を聞き始めた。



【4-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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