4 再会の日、うわの空の心 【4-2】

【4-2】
『ビューティークール』を出た司は、その日の仕事を全て終えたため、

このまま直帰しますと、会社に連絡を入れた。

しかし、真帆たちと決めた時間にはまだ余裕があったので、

駅近くの喫茶店に入り、ひとりでコーヒーを飲むことにする。

茶山院長の問いかけに、司が想像していたのは、大輔の姉、文乃のことだった。

司が文乃と出会ったのは、大輔と大学で知り合ってから1ヵ月後、

初めて二人が暮らしている部屋に、遊びに行かせてもらった日だった。

文乃は、司と祥太郎のことを歓迎し、弟に友達が出来たと喜び、

姉として手料理を作り、もてなしてくれた。

家庭的で、しとやかさもあるが、芯をしっかりと持つ文乃に対し、

司は、何度か遊びに行かせてもらううちに、

『友達の姉』以上の気持ちを持つようになった。

しかし、当時、文乃には、付き合いをしている男性がいたため、

気持ちは膨らませないまま、心に押さえ込んであった。


それから司たちは大学を卒業したが、カメラの勉強半分という大輔の収入は、

当時、まだたいしたことはなく、文乃との二人暮しは、卒業後もしばらく続いた。

そのため、司や祥太郎は、社会人となってからも、何度か遊びに出かけ、

その距離は保たれたままだったが、大輔の仕事を手伝い、山登りの中で、

文乃は怪我をしてしまった。


頭を打ち、救急車で運ばれたという情報を得た司は、いても立ってもいられず、

文乃の状態を確かめるため、すぐに病院へかけつけた。

しかし、そこには交際相手の『九段和臣』が来ていて、ベッドの横に座り、

心配そうな顔を見せていたため、司は病室に入ることが出来ず、

結局、お見舞いに行くことすら出来なかった。


しかし、それから半年もしないうちに大輔から聞いたのは、

文乃の相手が、足の怪我を理由に、結婚を断ってきたという信じられない内容だった。

大輔は、自分が怪我をさせてしまったために、姉の人生を傷つけたと悔しがったが、

司にしてみたら、足の怪我くらいのことで、文乃自身を切り捨ててしまう、

男の思いが理解できなかった。

病室で心配そうな態度を見せていたのに、それは嘘だったのだと思い、

そこまで長年抑えていた思いが、一気にあふれ出てしまう。


かけ出しのフリーカメラマンとして、急な出張などもあり、

文乃のリハビリに付き合えなかった大輔に代わって、

司は、時間を見つけては、文乃のリハビリの時間を知り顔を出した。


「司くん」

「こんにちは」


元々、医療関係の商品を扱う会社にいるため、病院に仕事で来たと言えば、

文乃に申し訳なさと感じさせることはないだろうと思っていた司は、

その後も何度も顔を出し、文乃とも、言葉を交わす機会が増えた。

しかし、文乃のリハビリが後半を迎えたある日、

司は、病院に文乃を捨てたはずの和臣が来ていることを知ってしまう。

食堂で向かいあい、何やら和臣は文乃に訴えているように思えたが、

そこに割り込んで聞くことなど出来ず、司は知らないふりをし続けた。


「よりを戻す? でも、別の相手と交際を始めたって」

「そうなの。だからもちろん断った。もう今更、元には戻れないと思うから」


文乃は、リハビリが終わった後、顔を出してくれた司に、心の中を吐き出した。

司は、文乃の気持ちを、黙ったまま聞き続ける。


「互いの道を歩きましょうとそう言ったの。でも、考え直してくれって」


文乃にしてみたら、元彼との付き合いを一番知っていて、

一番別れを悲しんだ大輔には言えないことを、弟の友達という微妙な距離にいる司に、

つい口を滑らせただけだったのかもしれないが、

司には文乃の心の片隅を、知ることが出来た思いが強くなる。


「身代わり?」

「なんだか古典的なやり方だけれど、こうなったら新しい付き合いが始まったと
ウソでもついて、あきらめさせましょう」

「司くん」

「俺が引き受けますよ、その役。俺なら、面倒じゃないですし」


『ウソの交際相手』

身代わりでも、なんであっても、文乃を助けたいという気持ちが、

司にそう決意をさせた。文乃も、別の女性と付き合い始めた和臣と、

今更誤解を生むような状況を作りたくはないという思いがあり、司の提案を受け入れた。

そして、文乃と待ち合わせをし、それなりのデートを楽しんだ後、

二人は文乃のアパートへ向かう。


「文乃……」


そこには、どうしてももう一度会って欲しいと言っていた和臣が、

車を止めて待っていた。文乃は司との計画通り、恋人のふりをして、

二人の関係が終わったことを必死に繕った。

本当に付き合っているのかと、始めは疑いの眼差しを向けられた司だったが、

元々、文乃に惹かれていたことは間違いなく、そして、大輔の姉として、

今まで何度も会って来た歴史もあったため、相手に関係を納得させる演技が出来た。

和臣は、止めてあった車で走り去る。


「今日は、本当にありがとう」

「いえ……」


司にとって、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。

元彼にあきらめさせるために企てた『偽装』は、

その目的が達成されたことで、当然だが終わりが来てしまう。

司は、文乃の部屋の蛍光灯がチカチカ点滅していることに気付き、

それだけは替えて帰ると宣言し、近所のコンビニで購入すると手際よく替えていく。


「ありがとう、助かった。ごめんね。色々とお世話になってしまって」

「いえ……」


リハビリも終わってしまうとなると、司が病院に仕事のついでと理由をつけ、

顔を出すこともできなくなる。こうなると、自分との関係は、

また数年前の『弟の友達』に戻ってしまうのだと、司は文乃の後姿を見続ける。


「これ、司くんが来たらと思って、焼いたの」


文乃は、お礼のつもりだと、司にパウンドケーキを渡そうとした。

『お礼の品』という存在が、『ここまで』という区切りを示しているようで、

司は、何も言えない自分がもどかしくなる。


「司くん、大学の頃から、よく食べてくれたよね、これ。
作っているときも、色々と思い出しちゃった……」


文乃の言葉に、今まで押さえていた司の思いがあふれ出してしまう。


「えっと袋……」


袋を探そうと、背中を見せたままの無防備な文乃を、司は後ろから抱きしめた。



【4-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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