4 再会の日、うわの空の心 【4-3】

【4-3】
「司くん……」

「このままそばにいたら……ダメですか」


このまま、これからもずっとそばにいたいという思いを、

隠しきれなくなった司は、文乃の体を自分の方に向け、唇を近づける。


「司くん……やめて、ダメ」

「ずっと好きでした」

「いや……ダメ。大輔が……」


逃げようとする文乃が、引きずる左足を畳の縁にぶつけ、その場に倒れてしまう。

司は、その上に被さるようになり、強引に文乃のシャツのボタンに手をかけた。

文乃は抵抗し、シャツのボタンが数個はじけると、司はそこから左手を押し込んだ。


「やめて……」


そのときの司には、文乃の傷ついた足をかばう余裕がなく、

コントロール出来ない気持ちに、操られていた。

文乃の下着をあげて、司の左手はそのふくらみへ向かおうとする。

文乃は、動かせる手と足を必死に動かし、

ぶつかった時に下へ落ちた筆立てに入っていたカッターを、司の前に出した。


「やめて! 司君、こんなことしてはダメ……」


その時、司は初めて、自分が文乃に気持ちを押しつけているという現実に気付く。

思いを告げるという、基本的なラインを、文乃を背中から抱きしめたことで、

気持ちが身勝手に飛び越えてしまった。

司は、乱してしまった胸元を戻そうと手を伸ばしたが、

すでに興奮状態にある文乃は、その違いがわからず、

さらに先へ向かうことは許さないと、カッターを持った手を動かした。

司の左腕に刃が当たり、しばらくすると血がにじみ出す。


「あ……」


左の手首。


「司くん、ごめんなさい。どうしよう……どうしたら……」


文乃はカッターを落とし、両手で傷ついた司の腕に触れようとする。

司は、文乃に背を向け、鋭く切られた部分からにじみ出し、

腕をつたって落ちていく自分の血をじっと見た。

その血は、『卑怯者の印』だと、自分自身に言われている気がしてしまう。


「司君……ちょっと待って」


服装の乱れを直そうともせずに、ただ、傷つけた自分のために動こうとする文乃。

司は、こんなつもりではなかったという思いと、文乃を困らせているという現実に、

傷ついた手を押さえたまま、『パウンドケーキ』を受け取ることなく、

部屋を飛び出していく。


「司くん!」


呼び止められた文乃の声に、司が振り返ることはないまま……




その事件から、たった2ヶ月後、

文乃は老人ホーム『アプリコット』の寮に入ってしまった。

緊急に呼び出されるため、家族でも泊まることが出来ない部屋。

食事も頼めば出てくるため、一日寮の中にいても成り立ってしまう。

外の世界との縁が、切れてしまうような環境に入った文乃に、

大輔はどうしてそんなところに行くのか、理解が出来ないと首をかしげたが、

司には、自分から逃げていくためだとしか、思えない行動だった。



コーヒーショップの前を、仲よさそうなカップルが歩いて行く。

そのまぶしい光景から、司はすぐに目をそらした。





「ったく、お前の話しなんて聞いていられないって言うんだよ」

「親父、あのさぁ」

「あぁ、どけどけ。ほら、仕込がある」


司が取引先からコーヒーショップに足を運んでいる頃、

祥太郎は、父親といつものように衝突していた。

二人の声を聞き、すぐに母親の圭子が飛んでくる。


「祥太郎、ほら、行きなさい。今日は出かけるって」

「わかってる。親父はいつになったら認めるんだ、俺のこと」

「認めているわよ」


母親は、お父さんは昔からああいうように話す人だからと、

そう祥太郎をなだめ始める。祥太郎は、準備していた上着を羽織ると、

無言のまま家を出て駅に向かった。

幼い頃から、祥太郎の夢は父の跡を継ぎ、『華楽』を守ることだった。

しかし、近所でも評判になるくらい頭のいい息子だったため、

父親は、店など継がなくていいと、昔から言い続けてきた。

そして、大学にさえ行けば、祥太郎も周りに影響され、気持ちを変えるだろうと思い、

とにかく勉強すること、大学を出ることを常に言い続けた。

始めは、勉強よりも店で経験を積みたいと考えていた祥太郎だったが、

『大学を出たら、好きなことをしなさい』と言った父親の言葉を信じ、

卒業まで、店のことは何も言わないままにしていた。


しかし、いざ卒業するとなっても、祥太郎が就職活動をしないため、

父親はまた怒り出す。好きなことをしていいと言ったから、

卒業後は店に出ると言い切った息子を力一杯に殴りつけ、

そこからは壁を蹴り飛ばし、襖が壊れてしまうほどの大喧嘩となった。

普通なら、跡を継いでくれることを喜ぶ親が多いのに、

どうして自分の親は認めてくれないのだろうと、祥太郎は最寄り駅についてからも、

もやもやした気持ちを抱え歩いていく。

コーヒーショップの前を歩いたとき、窓がコンコンと音を立てたため、ふと見ると、

そこに座っていたのは司だった。司は、時計を指差し、こっちに来るように合図する。

祥太郎は司に誘われるまま、とりあえず中に入った。



【4-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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