5 平然とウソがつける人 【5-3】

【5-3】
真帆の考えている通り、確かに祥太郎の頭の中には、有紗の姿が記憶されていた。

『リファーレ』の秘書課に勤める女性は、さすがに洗練されている印象を受けた。

店の話に耳を傾けてくれたおかげで、気持ちよく話すことが出来たし、

本当に出来るのではないかという、希望さえ見えた気がする。

また会うことが出来ないかと、思う気持ちもあり、

祥太郎は有紗のアドレスを、消さないように保存する。

乗換駅に電車が到着したため、祥太郎は携帯を閉じると、ホームに降りた。



メンバーたちより一足先に店を出た大輔は、改札を出ると、

駅近くにある書店で本を数札購入した。

カメラの入ったバッグを引きながら、近くにあるコンビニに入る。

店員の『いらっしゃいませ』の声を背中に受けながら、

いつも買うチューハイの缶を探すが、ちょうどその列だけ何もない。

仕方なく別の味の缶を持ち、おつまみのコーナーにあったサラミの袋をつかむ。

そして、別の列にある食パンを持つと、レジに並んだ。

高校生くらいのバイトが、手際よく仕事を進め、大輔の番になった。

小銭を出すのが面倒で、カードで支払いを済ませ、そのまま道に出る。

元々、仲間だからと常に行動を共にするような関係は、得意ではなかった。

大学に入ってからも、しばらくは学校と姉と一緒にいる部屋を往復する日々が続き、

ある日レポートの扱いがわからず、初めて隣にいた司に声をかけた。

司は、自分とは違い、教授たちともコミュニケーションと取るのがうまかったので、

そこから大輔は、自然と司に頼るようになっていた。

さらに、研究班が一緒になった祥太郎とも気が合うことがわかり、

そこからは3人の生活が始まった。司も祥太郎も、大輔の性格を理解し、

あまりベタベタすることを要求してこなかったので、適度な距離を保ったまま、

こうして長い間、友人関係が続いている。

オートロックなどない、築年数の重なった古めのアパート。

大輔は、間取りの広さが気に入り、ここで一人暮らしを始めた。

台所にあるのは、小さなやかんと、

自分ではほとんど使った記憶のない包丁とフライパン、そしてまな板。

どれも姉、文乃がくれたものだった。

部屋の明かりをつけ、買ってきたものをテーブルに置く。

カメラのバッグを開くと、白いケースを取り出した。

そこに今日撮った、遠足の写真データが全て入っている。

さらに陽菜がくれた、おにぎりの入っていた空の容器も、

ゴミ箱が見つからなかったので、バスまで持ち帰り、結局ここに押し込んでいた。

大輔におにぎりを勧めてくれた、イラスト入りの小さなメモ紙。

ついさっきまで一緒に飲んでいた人の字だと思い、あらためて見てしまう。

ガヤガヤと騒ぐ園児たちをまとめた時の陽菜は、

本当にやるべきことをわかっているしっかりとした行動力があり、

同じ社会人として、単純に尊敬できると思えるほど、見事なものだった。

しかし、その後の飲み会で会った陽菜は、どこか借りてきたネコのようにおとなしく、

存在感などまるで感じなかった。

大輔は、二つの極端な表情を思い出す。

何気なく畳に寝転ぶと、疲れなのかすぐにまぶたが閉じてしまう。

片付けの途中になっているカメラをテーブルに置いたまま、しばらく眠っていた。




『赤尾陽菜』


全員にメールを送った司は、陽菜からの返信メールを受け取った。

ありがとうございましたという、ごく普通の返信に、陽菜の姿を思い出す。

大輔の前に座っていたが、ほとんど自分のことについて語ることがなかった。

仕方なくここにいますと言いたげな陽菜の表情を思い出し、司は返信メールに、

また文章を打ち込み始める。



『赤尾さんに、お願いしたいことがあります。
お時間のあるときでいいですから、会えませんか』



司の打ち込んだメールを受け取った陽菜は、思いがけない文面に、驚いてしまう。

結婚式の縁を引っ張り、6人で会うとことまでは納得できたとしても、

司と個人的に会う理由もない。

陽菜はそれは難しいと打ち込もうとしたが、その指が止まる。

少し前に送られて来た瞬からのメール。瞬は、陽菜が誰を選ぶのか気にしていた。

3対3の飲み会なら、それなりに受け取れるだろうが、

もし、司と1対1であの店に顔を出し、それなりに会話を楽しんだとしたら、

瞬の心の奥を、知ることが出来るだろうかと考える。

車掌の声が聞こえ、陽菜の最寄り駅に着いた。

ホームに下りると、とりあえず部屋への道を歩く。



幼稚園の先生になり、初めて正式に担任を持てた夏、『ミラージュ』へ行った。

それは先輩が、結婚するというお祝い会に招待されたからで、

そこで瞬と再会した。大学時代、頼りになる先輩だった瞬は、

優しくしてくれた後輩の中から、陽菜を選んだ。

料理をすることが好きになったのも、瞬が喜んでくれたからで、

学生時代のいい思い出の中に、瞬は何度も登場した。

しかし、瞬が大学を卒業し、会える日にちが減ると、ちょっとした誤解が生まれ、

それを正そうとした陽菜は、執拗に瞬を責めてしまった。

『恋心』に未熟だったために、心配ばかりが膨らんだ結果だったが、

結局、こじれてからみついた糸は戻らないまま、月日を重ねてしまう。

それでも、再会に胸を躍らせた陽菜だったが、瞬には別の女性がいて、

陽菜に対しては、まるで自分の『妹』のような態度を取る。

『結婚』という結論を出した瞬と、陽菜の思いは、二度と交差しないはずなのに、

時折見せる寂しげな表情と、危うく思えるくらいの誘い文句に、

陽菜は、思いを断ち切れずにいた。

そう、再会以来、陽菜が瞬の前に男性を連れて行ったことはない。

司は、今日会った3人の中でも、一番社交的に思えた。

陽菜は街灯の下まで来て、足を止める。



『お願いとはどういうことでしょうか。あの店でよければ会ってお話を聞きます』



陽菜は、その文面を一度確認し、すぐに送信した。

どうしようかと迷っていたら、結局、送れなくなる気がしたからだ。

静かにメールを飛ばした携帯を握り締め、陽菜は部屋へ向かった。



【5-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
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