5 平然とウソがつける人 【5-4】

【5-4】
陽菜と司の再会は、6人の会が行われてから、1週間後に設定された。

司は仕事を済ませ、待ち合わせの時間を確認する。

少し時間があったので、デスクに放り投げられたままの新聞に目を通す。

中に挟んであったちらしを取り出すと、その一番上に『新設』の文字が見えた。



『丁寧で、心の通う介護』



それは、文乃が勤めている『アプリコット』の新しいホームが、

この『アモーラ』の営業所近くに、建つという広告だった。

ちらしの中に出ている女性の姿に、司は文乃を重ねる。

あの出来事が起こってから、3度目の花を送り届けた。

謝罪と言ってしまうには申し訳ないが、『忘れる』ことも出来ないし、

また、『忘れられてしまう』ことも、望んではいなかった。

仕事が早く終わった日、文乃のいる寮の前まで向かい、

この中のどこかにいるのかと、見上げ続けたこともある。

しかし、嫌がる文乃に無理やり自分を押し付けようとした時間を思い出すと、

左腕に残された傷と心が、一緒に痛み出す気がしてしまう。


「緑川さん……」


受付の女性に声をかけられ、営業所の前を見ると、

そこに立っていたのは『お嬢さん』と呼んでいる茶山院長の娘、樹里だった。


「またですね」

「……うん」

「ねぇ、本当に緑川さん、ちょっかい出してないの?」

「出してないよ、変なこと言うなって」


司は、いつもの調子で頼むと受付の女性に話をすると、樹里のいる場所に向かう。

樹里は司の姿を見ると、すぐに頭を下げた。


「こんにちは……あ、いや、もうこんばんはかな」

「すみません、押しかけて」

「いえ、何かありましたか」


司はそういうと、樹里の顔を見る。

樹里は、何も言わないまま、黙ってしまった。

何かなどないことくらい、司自身が一番わかっていたが、

あえて冷静にそう聞くことで、距離感を保とうとする。


「母から聞きました。緑川さんには、結婚を考えている方がいると」

「……はい」


ウソの話だったが、ここは乗り切るしかないと、司は堂々と頷いた。

樹里は、頭では理解しているのだろうが、気持ちがそこに追いつかないのか、

何も言わなくなる。


「茶山院長のお嬢さん、樹里さんのことは、そう思っています。
私の方が年上で、それなりに人生経験もあるから、何かご相談に乗れたらと、
以前、お食事をさせていただきましたが、それが逆にご迷惑をかけてしまったかと……」

「いえ、迷惑だなんて」


樹里は、それは違うと、必死に弁解する。


「私が、わがままなのはわかっているのですが……」

「はい」

「その方と、お会いすることは出来ませんか」


司は、あきれ返りそうになる気持ちを、必死に押さえ込み、

表情をなんとか保ち続けることが出来た。

それは、心のどこかで、この展開を予想していたからかもしれないと、

冷静な顔をする。


「私の相手に、樹里さんが会うということですか」

「ずうずうしいとは思います。でも……気持ちが治まらなくて」


樹里の申し訳なさそうな顔を見ながら、司はどういう娘なんだと、そう考えた。

普通なら、相手がいると言った時点で諦めるはずなのに、

この樹里の態度を見ると、『相手がいる』と言ったこと自体、

信用されていないのではないかという気持ちになっていく。


「本当に、わがままなお嬢さんですね」

「ごめんなさい」


そう言ったのは、司の本心だった。

それでも、ここまで来て、姿を見せないと言ってしまうのは、

終わりが見えない迷路に、迷い込みそうな気がしてしまう。


「わかりました。少し時間をください。
私がよくても、向こうはどう思うかわからないですし」


司の言葉に、樹里はわかりましたと頭を下げる。

突然の訪問は、受付の女性が電話を鳴らすことのないまま、終了した。





イベントなどがない日は、それほど仕事が長引くことはないため、

陽菜は司と待ち合わせをした時間よりも早く、『ミラージュ』に到着した。

ここで誰かと会うのだと、目の前にいる瞬にアピールするため、

カウンターから一番離れたテーブルに座る。

ここなら会話が届くことはないけれど、視界には入る。

さっそくメニューを持った瞬が、陽菜の前に立った。


「何、飲む」

「今は、いい……」


陽菜は、今日はここで待ち合わせなのだと携帯で時間を確認する。


「待ち合わせ?」

「……うん」

「男?」


瞬の問いかけに、陽菜はすぐにそうだと答えた。

瞬は『そうか』と言うと、別の客が入ってきたので、一度陽菜の前を離れていく。

陽菜は窓の外を見ながら、時折瞬の姿を捉えた。

待ち合わせた男性が、この間の飲み会で会った人だったとわかったら、

どういう態度を取るだろう。

どうなるのかわからないことに、期待感だけが膨らみ続ける。

待ち合わせの時間より、10分早く司が到着し、先に来ていた陽菜に驚き、

すみませんと頭を下げた。



【5-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3146-88b2a242

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
500位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>