5 平然とウソがつける人 【5-5】

【5-5】
「大丈夫です、私の方がずいぶん早く来てしまったので」

「俺も仕事はもっと早く終わってましたから。早く来ればよかったですね」


司は陽菜と向かい合うように座り、何か頼みましたかと尋ねてくれた。

陽菜はまだ何も頼んでいませんと、メニューを前に出す。


「これ知ってます?」

「いえ」

「それなら俺はこれにします」


司はそういうと、メニューを陽菜の方へ寄せる。

陽菜も決めましたと頷いたので、司はそばにいたウエイターを呼ぶ。

それぞれが注文し終えると、司はいくつかの食事メニューも頼み、オーダーを終える。

ウエイターはメニューを元に戻すと、二人の前を離れた。

それから数分後、司の前に運ばれたのは『カルーソー』というカクテルだった。

グリーンの色が、ライトに当たる。


「綺麗なカクテルですね」

「でしょ。これは俺のカクテルですから……と、
いつもならくだらない口説き文句に利用するところですが、
今日はそういう設定ではないので」

「エ……?」


司は、このカクテルの色が『緑』なので、自分の『緑川』にかけるのだと、

そう言い始める。陽菜はそういう意味でしたかと、笑顔になった。


「すみません、くだらない話しから入ってしまって」

「いえ……」


陽菜は、司はおそらく優秀な営業マンなのだろうなと、そう考えた。

押し付けるような強引さはないけれど、スッと人の気持ちに入り込むのがうまい。


「この間は、あまり赤尾さんと話が出来ていなかった気がします。
俺のこと、記憶にあります?」

「ありますよ、もちろん」


始めは、先日の感想や、それぞれの仕事について、

そして、偶然に縁を持った大輔の話が膨らみ、自然と食事が進む。


「そうですか、大輔が」

「はい。遠足で色々な園児からお菓子をもらったりしていました。
カメラを構えているところに、ちょっかいを出す子もいたりしましたけれど、
結構、うまくあしらってくれて」

「へぇ、あいつにそういう才能があるとは驚きです。
真面目なんですけどね、昔から、それほど愛想のいいやつではないので。
学生時代は、よく俺がフォローしました」


司は、大輔は愛想がないだけで、怒っているわけではないのだと、

サークルや授業で一緒になる女子たちに、言うのが仕事だったと思い出話を披露する。

司の話しに、始めはどういう理由で呼び出されたのかわからず、構えていた陽菜も、

自然と笑みがこぼれだす。カウンターの中にいる瞬は、

そんな陽菜の表情を確認しながら、手に持ったグラスを丁寧に拭き続けた。


「色々すみません。お呼び立てしたのに、話がどんどんそれてしまって」

「いえ……」


陽菜が少し視線を動かすと、こちらを見る瞬の顔が飛び込んできた。

陽菜は瞬が自分を気にしているのだと思い、瞬から司に視線を戻す。

次はどういう話が出るのだろうかと、期待の目を向け、

表情も明るく見えるようにと考える。


「で、そろそろ本題に入っていいですか」

「はい」

「実は、少し困ったことがありまして」


司は、仕事で、総合病院から個人病院まで回ることなどを話しだす。

陽菜は、医療関係の薬品など、取り扱ったこともなければ、あまり見ることもないので、

そういう世界もあるのだと思いながら聞き続けた。


「人間の感情なんて複雑なようで単純だから、やはり仕事とはいえ、
個人的な信頼を築いていくことが、一番の近道なんですよ。
まぁ、どこまで入り込むか、ここで止めるかと言うのは、
相手と自分の距離感を、つかまないとわからなくて」


陽菜は、幼稚園にも教材などの売込みがあることを思い出す。

確かに、パンフレットだけ置いていく業者もあるが、

女性の多い職場なので、重い荷物を運ぶ手伝いを積極的にしたり、

近所で売られているお菓子を、差し入れしてくれるような人もいた。

それが全て結びつくわけではないが、愛想のない営業マンより、

仕事を手伝ったりしてくれるような人の方が、確かに親しみもわくので、

同じものを並べられたら、相手の印象で決めることもあるかもしれないと、

司の話を聞きながら考える。


「その中で、とある病院院長の娘さんに、どういうわけか気に入られてしまって。
まぁ、大学生だし、一人娘なので、相談する人もいないのかもと思い、
一度だけ食事をしながら話をきいたことがあるんです。そうしたら、
そこで終わらなくなったというか……」


司は、こめかみを指で押しながら困った顔をする。


「そのお嬢さんが、会社にまで押しかけてくるようになってしまって。
でも、大事な取引先ですから。『来るな』とは言えない。
かといって、また個人的に時間を取ると、さらに勘違いされる……こんな、
スパイラルに陥ってしまって」


司はそこで姿勢を正すと、陽菜を見る。


「で、お願いというのは、赤尾さんに、彼女を演じていただけないかと」

「エ……」


陽菜は、思いがけない内容に、思わず声を出す。


「そうですよね、驚くのも無理はないです。でも、これ、冗談でもなく真剣でして」


陽菜は、あらためて司を見た。

先輩の結婚式で、偶然同じ場所にいたという縁があり、先日、

飲み会を開くことにはなったが、それ以上のことは何も知らない。

いくら演技だとはいえ、こんな話を引き受けるのはまずいと思い始める。


「話しの流れで、そのお嬢さんの母親、つまり『ビューティークール』の院長に、
結婚を考えている相手がいると、言ってしまったのです。それで終わればよかったのに、
またお嬢さんが訪ねてきて、相手に会いたいと……そう言いまして」

「緑川さんの相手ということですか」

「そうです。最初からごまかしなのですから、そんなものいるわけないじゃないですか。
でも、そこでダメですとなると、また面倒くさい。
実は、先日メールで会ってほしいとお願いしたときは、
大輔が赤尾さんの幼稚園で仕事をしたという縁があったので、
先日の遠足で、あいつが撮った写真でもお借りして、
この人ですって乗り切ってもいいですかと、許可をしてもらおうと思ったのですが。
結局、そういう流れで、写真ではダメだなと」


司は、どうしてそこまで入り込まれるのかわからないと、首を傾げる。


「手っ取り早く頼めるのは、もちろん会社の同僚です。それはわかっています。
でも、取引先のお嬢さんですから、相手と会う可能性が高いので、ごまかしきれない。
かといって、成り行きで『結婚を考えている人がいるので』と言ってしまった以上、
何か形を作らないと、仕事に差し障るかもしれないと……」

「あの……」

「はい」

「どうして私なのですか。緑川さん、実際にお付き合いをしている方が、
いらっしゃるでしょ」


陽菜は、本物の彼女に出てきてもらえばいいのではないかと、当然の提案をして返す。


「どっちみちウソになるんですよ。親しく会う人はいても、
その人と『結婚』を考えてはいませんし」


司は、付き合う女性はいても、結婚は考えていないと、ハッキリ言い返した。



【5-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3147-733fe8cf

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
500位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>