5 平然とウソがつける人 【5-6】

【5-6】

「お付き合いをするのに、結婚、考えていないのですか」

「はい……考えていません。考えるような人とは、交際を避けているところがあるし、
冷めているんでしょうね、『恋愛』とか、『結婚』とかに」


司はそういうと、グラスに口をつける。

陽菜が何も言わずに黙ったことに気付き、司は顔を見る。


「……最低な男だって、引いてます? もしかしたら」


陽菜はそうではないけれどと、首を振る。


「あ……いえ、ごめんなさい。やはり引いているかもしれません」


陽菜のセリフに、司はすぐに笑い出す。


「あれ? 赤尾さんこういうことに引く人なんだ。これは見当違いだったのかな」

「見当違い?」

「はい。俺はこの間の飲み会の赤尾さんを見て、お願いしようと思ったので」

「私を見て」

「そうですよ。この間は赤尾さんを含めて、3人の女性にお会いしましたけど、
俺には一番あなたが、同じように『結婚』とか、そういう形に冷めている気がしたので」


司はそういうと、違いますかという顔を陽菜に向けた。

陽菜は、『結婚に冷めている』といわれ、思わず向こうにいる瞬を見る。

結婚に対して、どういう感情を持っているのか、聞いてみたいと思ってしまう。


「その人といることが楽しいという感情は、俺にだってありますよ。
でも……『結婚』って、もっと重いものだと思うから」


司はカクテルグラスが空になったので、それをテーブルの横に置く。


「この人の人生に、俺は責任を持てるだろうかと考えると、
答えは『無理』ばかりで」


陽菜は司の言葉を聞きながら、何度も瞬を見た。

瞬には、選んだ人へそれだけの覚悟があったということだろうか。


「……わかりました」


陽菜は瞬を見ながら、そう司に返事をする。


「いいですか? 偽装カップル」

「……はい」


何も言わないままでは、瞬の覚悟というものが、あるのかどうかも見えてこない。

陽菜は、司とこうして話をする中で、瞬がどういう態度に出るのか、

かけてみようと考える。


「それでは、色々と赤尾さんのことを教えて下さい。俺も色々と話しますし」

「……そうですね」


そこからは互いの基本データと言いながら、どこでどう知り合ったのかなど、

それなりの状況を作り出そうと、話しを進めた。





司と陽菜が、そんな話をしている頃、大輔は『フォトカチャ』の事務所にいた。

先日の遠足で撮った写真のデータを呼び出し、写りの悪いものは消去する。

朝の整列から、バスに乗り込むところ、そして山道を並び歩く姿。

園児たちの自然な表情が、しっかりとレンズに納まっている。

そして、その園児たちを見守りながら、

楽しそうな笑顔を見せる先生の中に陽菜がいた。

大輔はその写真を見ながら、飲み会でのどこかつまらなそうな顔を同時に思い出す。

カメラのレンズを外し、汚れを拭き取っていると、事務所の電話が鳴った。

ソファーから立ち上がると、大輔は受話器をあげる。


「はい、『フォトカチャ』ですが」

『おぉ、俺だけれど、大輔はいるか』

「はい、俺ですけど」

『お、大輔か。お前、まだ事務所にいるんだな』


電話をかけてきたのは、社長の『富永桂(かつら)』だった。

どこか慌てたような電話のかけ方は、昔から変わらない。


「今の言葉を聞いて、出来るなら帰りたいですけど」

『いやいや、帰るな。あと30分で着くから、いいな』


富永はそれだけを言うと、すぐに電話を切る。

大輔はそろそろ9時になる壁の時計を見た後、またレンズを拭き始めた。





「すみませんでした。全ておごっていただいて」

「いえいえ、頼みごとをしたのは俺の方ですからね。これくらいのこと、当然です」


打ち合わせ兼食事を終えた陽菜と司は、『ミラージュ』を出るとそのまま駅に向かった。

相手は大学生であるし、夜に会うと時間も長く取れ、ウソがばれやすくなるので、

ここは休日の昼間という設定にしようと決める。


「ランチを食べるくらいで十分です」

「わかりました」


陽菜は、来月くらいまでは日曜日に予定がないと思うので、大丈夫だと司に告げる。


「すみません……」


司は、なんとかこれで納得してもらいますからと頭を下げ、

互いに別々のホームへ歩き出す。

陽菜は改札を通りホームに向かうと、携帯にメールが届いていたので、すぐに開いた。

もしかしたら瞬からではないかと思い開いてみたが、相手は園長で、

内容は、提出書類の日付が、3日早まったので提出しなおして欲しいという、

事務的なものだった。陽菜は他にメールが届いていないかと、

問い合わせをかけてみたが、他にメールはないためそのまま閉じる。

陽菜は、司と話している姿を、瞬が気にしているように見えたので、

すぐにでも探りのメールが届くかと思っていたのに、

何も反応がないことで、少し肩を落とす。

陽菜は、いつになったら、自分自身に諦めがつくのだろうと思いながら、

電車の窓に映る、自分の憂鬱そうな顔を見た。



【6-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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