6 白と黒、オセロとは限らない 【6-4】

【6-4】
その日の仕事を終えて、真帆が部屋に戻ると、郵便受けに大きな封筒が入っていた。

差出人は母親になる。何やら固い厚紙が入っているように思えたので、

それをそのまま持ち帰り、ハサミで上部分を切る。

出てきたのは、明らかにお見合い写真だった。

真帆は大きくため息をつくと、その写真を開く。



『真帆 彼は東京の公立中学校の先生です。とても優秀な方だと、
お話をもらいました』



母は週末にでも家に戻ってきなさいと、そういう文章でしめていた。

真帆がとりあえず写真を見ると、明らかに真面目そうな男性が、

少し体を斜めにした状態になり、スーツ姿できめている。

素敵だとか、イヤだとかそういう感想は何もなく、丁寧に封筒へ戻す。

壁にかかる時計を見ると、午後8時少し前だった。

真帆の口からは、『なぜ、どうして』や、

『いい加減にしてほしい』などの言葉に変わるため息があふれ出る。

今日は家にあるものを食べようと思っていたが、気持ちが変わった。

帰ってきた姿のまま、真帆は家を飛び出すと、陽菜に電話を入れる。


「もしもし、陽菜? 私」


陽菜は、家に戻る途中でその電話を受け取った。

一度並んだレジを離れ、どうしたのかと聞く。


「今から行くから、泊めてね」


真帆は陽菜の返事を聞くことなく、受話器を閉じると、慣れた道を駅に向かった。





「どうしていつもうちに来るのよ」

「だって、陽菜は幼稚園の先生でしょ。だいたい終わる時間が決まっているもの」

「そうだけれど」


真帆のアパートから30分もすると、陽菜のアパートになる。

真帆は、駅前で買ってきたよと、惣菜のパックをあれこれ出した。


「閉店間際っていいよね、割引のオンパレードでさ」


陽菜はタイマーで炊き上げたご飯を、それぞれの茶碗によそると、

インスタントのお味噌汁を置く。冷蔵庫から野菜を取り出すと、

手際よくサラダを作り出した。モッツアレラチーズがあるよと言いながら、

カプレーゼも完成する。


「陽菜って女子力高いよね」

「何それ」


陽菜は出来上がったお皿をテーブルに運び、真帆は買ってきた惣菜を皿に乗せていく。

するとテーブルの下にあるメモ用紙が目に入った。

そこに書かれている名前に、真帆の目が止まる。


「緑川……って」


真帆の目に入ったのは、司の個人データだった。

それはもちろん、『擬似カップル』を演じる契約を決めた二人が、

それぞれのことを知るために、基本データをメモにしただけなのだが、

何も知らない真帆には、驚きだけが先行する。


「ねぇ……陽菜もこういうこと?」

「こういうことって?」

「こういうことよ。個人的に連絡とっているんでしょ」


真帆は、ここでも自分が知らないことが起きていると、ため息をついた。

陽菜は真帆の落ち込む意味がわからず、首を傾げてしまう。


「何言っているの?」

「何じゃない、だって、ほら」


真帆は、下にあった司のことが書かれた紙を持つ。


「これが証拠」


陽菜はそれは違うよと言いながら、それぞれの箸を前に置いた。



「何? 擬似って……」

「だから、これは頼まれたことなの」


陽菜は誤解をされても困るので、真帆に全てを話した。

司が取引先のお嬢さんから思いを寄せられてしまい、断るために彼女が必要で、

結婚も近いという演技をしなければならなくなったこと。

職場の人間だと、バレてしまう可能性が高いので、あえて全く縁のない、

陽菜に白羽の矢が立ったのだと、そう話す。


「どうして陽菜に?」


真帆は、単純にそう問いかけた。自分も有紗もその場所にいたのだからと、

司が選んだわけを考える。


「緑川さんって、鋭い人なのよ。私、言われたから」

「言われた? 何を」

「結婚とかに冷めているでしょうって」


陽菜は、そういうと、食事をし始める。


「冷めているって……言われたんだ」

「うん」


真帆も、思っていた方向とは違う気がして、メモを元の位置に戻す。


「真帆……。実はね、自分の中で、思っていることがあるの」

「何?」

「私、真帆に言われて、あの日……ほら、絢先輩の結婚式の日。
怒って先に帰ったけれど、でも、本当はその通りだと思って」

「陽菜……」

「青葉さんへの思い、抜けてないんだよね、今も」


陽菜はそういうと、みっともないよねと笑ってみせた。

しかし、その顔は悲しみが前に出てしまい、笑みは続かなくなる。


「この間、みんなで飲んたときも、カウンターの向こうにいる青葉さんがどう思うのか、
そればかりが気になっていた。結婚しているのだから、
もう、あの日には戻らないのだからって、何度も自分に言い聞かせているのに、
気持ちが定まらなくて」

「うん」

「緑川さんに会って欲しいと言われたときにも、
二人で会ったら、青葉さんがどう思うかって考えてさ」


陽菜は真帆が買ってきた『鳥のタルタルソース』を、口に入れる。

真帆は、陽菜の言葉を聞きながら、学生時代の陽菜と瞬を思い出す。

陽菜は、真帆から見ても献身的に瞬に尽くしていた。

いつも二人で行動し、このまま結婚するのだろうと疑うこともなかった。

しかし、二人は別れを迎えてしまう。


「そっか……」

「情けないよね、私」

「ううん」


真帆は、いつも自分を見失わず、冷静に行動する陽菜が、

自分にだけ、心の傷を見せてくれていることが嬉しくなる。


「大丈夫だよ……」


真帆は、今は苦しくても、きっといい縁が出てくるとそういう意味で、

『大丈夫』の言葉を選んだ。しかし、それは間違っていた気がして、すぐに下を向く。


「真帆、私ね、青葉さんと一度向かい合いたいと思っているの」

「エ……」


陽菜から予想外の言葉を聞き、真帆は思わず驚きの声をあげた。



【6-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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