7 隠している思いを見た男 【7-2】

【7-2】
「ごめんなさい、話がなかなか終わらなくて」

「楽しそうだったね」

「うん……楽しかった」


陽菜は、司との間が恋人同士になるなどとはもちろん思っていないが、

それを意識しない分、不思議な信頼関係が生まれている気がした。

陽菜は、楽しかったのかと聞かれたら、間違いなく頷けると考える。

小さな公園に、一つだけ置かれたベンチ。

昼間は子供たちや、散歩を楽しむ人たちに利用されるのだろうが、今は、誰もいない。

陽菜と瞬は並んで座った。


「あいつと付き合うのか」


瞬から出た言葉は『あいつ』という、どこか挑戦的なセリフだった。

陽菜は、いつもとは違うことがハッキリとわかったので、

自分自身、ここは落ちついて語るべきだろうと、前を向く。


「あいつだなんて言わないでください。彼は緑川さんです」


陽菜はすぐにそう答えた。

会話は途切れ、湿り気のある風が二人の横を通り過ぎていく。


「名前なんてどうだっていいよ、それを聞いているだけだ」


瞬は、真顔で陽菜を見た。

陽菜は、チラッと横目で見た瞬の真剣な表情に引き込まれそうになりながらも、

必死に動くまいと踏みとどまる。


「だとしたら、どうだと?」


陽菜は、瞬の心の底を探ろうと、精一杯背を伸ばしたセリフを口にする。

こっちの中は見せない距離、でも、伝わらなければ意味がない。


「だとしたら……少し、心配かな」

「心配? 何をですか」


冷静なふりをしながらも、陽菜の鼓動はワンテンポずつ速くなる。


「彼は女性に慣れている気がするからさ。
陽菜のように、まっすぐにものを見る人とは、合わないような……」


陽菜は、瞬のセリフを聞きながら、その表情を見た。

瞬が、どれくらい真剣な顔で言葉を出しているのか、

自分に対する思いが、どこかに見え隠れするのかと、その横顔から必死に捜し求める。


「だったら、どんな人なら合いますか」

「……陽菜」

「そんなふうに言うのなら、教えてください。あなたならわかりますよね、
私にどんな相手が似合うのか」


再会してから、揺れ続けた日々。

それでも手の届かないところへ、行ってしまった人。

陽菜は、瞬を見ながら、精一杯そう思い込もうとする。


「兄貴面しないでください。あなたのことを兄だなんて、
一度も思ったことはありません」


陽菜は、一度は触れ合う距離にいた自分を、

勝手に真帆や有紗と同じ、昔を知っている後輩のように扱わないで欲しいと、

瞬に真剣な目を向けた。

瞬は、その言葉の後も、黙ったまま陽菜を見ているだけで、

結局、この人は、いつもと同じようなごまかしの言葉しか出さないのだと思い始める。


「あなたは……とことんズルイ人です」


必死に言葉を押し出しながら、陽菜は、自分自身に同じ言葉をぶつけていく。

司を利用し、瞬の気持ちを揺さぶろうとしたのは、自分自身だった。

真帆が言うとおり、青葉瞬との時間など、戻してはいけないのに。

その決心がつかずに、視界に入る場所でウロウロしている自分が惨めに思えてくる。


「ズルイか……そうかもしれない」


瞬が視線を陽菜に向けた。

そこまでとは違う、どこかメッセージのあるような目に、

陽菜は自分が映っている気がして、思わず下を向く。


「すれ違ってから、再会してから、戻そうと思えば戻せたはずなのに、
あなたは別の人を選んだ。それが……あなたの答えでしょ、そうでしょ、
ここでハッキリそう言えばいい」


陽菜は下を向いたまま、両手を握り締め、懸命に気持ちを訴えた。

瞬を青葉さんでもなく『あなた』と呼び、陽菜は冷静さを保とうとする。

それでも、どうしたらいいのかわからないまま、何年も過ごしていたこと、

メールが入れば、電話があれば、何か道が見えてくるのではないかと、

形のないものを、手繰り寄せようとする哀れさも訴えた。


「ハッキリ言ってください。それでいいのです。青葉瞬は結婚した。
もう、何も変わらない。私とのことは過去だ、今は妹のように思う。
それで私は……」

「それで私は……別の道を歩きますと、陽菜はそう言えるの?」


瞬は、陽菜の発言を止める。


「陽菜と別れた理由が、あの頃はハッキリわからなかった。
だから再会したときも、元には戻れないと思った。
純香と結婚して、それなりに時が流れていけば、前に陽菜がいても、
もう思い出すこともなくなるだろうと……」


陽菜の鼓動が、他の人にもわかるのではないかというくらい、速くなる。

気付かないふりをしていたけれど、気付かなければならない方向へ、風が吹き始める。


「でも今、後悔している。陽菜を手放したこと……。
ただ、俺はそれを言っていい立場ではないから。ずっと押さえ込んできた」


瞬は、そこまで語ると黙ってしまう。

陽菜が、このまま下を向いているべきだろうか迷っていると、

瞬の手が、陽菜の膝にあるバッグを持つ右手に届く。

一瞬の驚きと、同じタイミングで握られる力。


「聞きたいんだ、陽菜の気持ちを……」


陽菜は、その言葉に顔をゆっくりと上げた。

瞬は陽菜の右手を掴んでいた左手を、すぐに肩へ動かした。

動けなくなっている陽菜を、自分の方へ近づけようとする。


「イヤだと思うのなら、今、逃げてくれ」


瞬は肩に置いた手の力を抜くと、陽菜が逃げられるタイミングを作った。

瞬には妻がいる。自分は新しい恋に向かうべきだと思いながらも、

陽菜は、自分に向いている目と、触れている手のぬくもりに、

『逃げる』という思考は、完全にストップをかけられてしまう。

この手を振り払ってしまったら、もう、小さなかけらも細い糸も無くしてしまう。

陽菜が逃げないことを確認した瞬は、自分の右手を出し、陽菜の頬に両手で触れた。

数年間、思い描いていた人の行動に、陽菜の体には電気が走ったようになり、

その震えが体を貫いた。プラスとマイナスをかけあわせた状態は、

結局ゼロとなりその場にとどまってしまう。


「陽菜……」


動けなくなってしまった陽菜の唇に、瞬が触れる。

軽いキスで唇が離れた後、陽菜は自分の手を、瞬の方へ向かわせてしまう。

瞬はその動きに気付き、さらにもう一度、思いを乗せた深いキスをする。


「他の男のところに行くな……」


自分は結婚しておいて、こんなことをするなんてと、陽菜は頭で考えるものの、

体は瞬のそばから一歩も動こうとしなかった。

陽菜はどこか予想し、そして期待していた時を迎えながら目を閉じた。



【7-3】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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