7 隠している思いを見た男 【7-3】

【7-3】

まだ、夏と言うには早い春の夜。

車内は、仕事に疲れたサラリーマンが数名、大きく首を動かしながら、転寝をしていた。

塾帰りの学生は、単語帳を必死に睨み、大きなイヤリングをつけた女性は、

スマホのゲームに夢中なのか、必死に指を動かしている。

陽菜は、瞬と唇を重ねたものの、最後まで『未来』への言葉は出てこなかった。

奥さんと別れるつもりがあるとか、今、家庭の中がどうなっているのかなど、

具体的な話しは語られることがなく、結局、いつもと同じ、どんよりした空気が、

陽菜の気持ちにまとわりついている。

司の頼みを利用し、瞬の思いを探る計画だったが、自分の思いだけが吐き出され、

さらに追い込まれてしまった気がして、陽菜はため息をつく。

人など傷つけてもいいから、彼を愛し続けたい。

そこまでの強い気持ちが自分にあるのか、そう考えながら揺られていると、

あっという間に目的の駅へ到着した。





『真帆、ごめん、今日の集まり。20分くらい遅れます』



祥太郎の家、『華楽』の話から湧き上がった第2の飲み会当日。

いつものようにコンビニ弁当を食べていた真帆の携帯に届いたのは、

有紗からのメールだった。真帆は『なるべく早く来てね』と返信をした後ため息をつく。


「はぁ……主役が遅れたら、場をつなぐの大変なのに」


真帆はそういうと、デザートに買ったプリンの蓋を開ける。

小さなスプーンを奥まで入れると、少し苦味のあるカラメルが、

カスタードの部分と絡み合い、美味しい状態になる。

真帆は、色々なスイーツの中でも、このプリンが一番好きだった。

シンプルだけれど、その分、味がハッキリわかる。

片づけを済ませた後、もう一度携帯を開く。

真帆は、今なら仕事でいない母親に、メールを打ち込んだ。

先日、送られて来た見合い写真を見たけれど、今は結婚するつもりもないし、

相手は自分自身で探したいということを、簡潔な文章にする。

そろそろ休み時間が終わるという頃、覚悟を決めて送信し、

電話が鳴っても出られないように、ロッカーのバッグを開くと携帯を押し込んだ。





祥太郎達が待ち合わせたのは、ホテルの中にある中華料理のレストランだった。

最初に到着したのは祥太郎で、出てきたウエイトレスに名前を告げる。

どうぞと案内されて中に進むと、完全な個室ではなかったが、

ある程度周りと区切られているいい場所だった。

全員が揃ってから注文をしますと話し、まずは席につく。

祥太郎が自分の計画をある程度書き上げた紙を見ていると、そこに司が到着した。


「よぉ」

「おぉ……」


司は祥太郎の右隣に座り、二人はまだなのかと尋ねた。

祥太郎は軽く頷き、用紙を読み続ける。


「お前、どうなの。親の説得」

「ん? まぁ、お袋はどうにかなると思う。問題は親父だよ。
だから、説得する材料として、今日は山吹さんに聞こうと思ってきたわけで」

「そうか」


司はバッグを椅子の後ろに置いた。すぐに、二人分のお冷がテーブルに並ぶ。


「黄原さんにもしっかり聞いておけよ。元『信用金庫の融資担当』ってことは、
お前の相談相手には、ドンピシャなんだしさ」

「あぁ……うん」


祥太郎は、あの日、そばにいたのに、何も言わなかった真帆のことを思い出す。


「あの飲み会の日、そう言ってくれていたら話がはやかったのにな」

「祥太郎、黄原さんはさ、人懐っこいけれど意外に小心者というか、臆病なんだと」

「臆病?」

「赤尾さんが言うには、お前が、あの日、山吹さんに対して話を振っていたから、
ここで自分が何か言うのは、邪魔にでもなると思ったみたいだ」


司は、そんなこと気をつかわなくてもいいのになと言いながら、

お冷に口をつける。祥太郎は、あの日、真帆にそんな気遣いをさせてしまったのかと、

自分が身を乗り出しながら、斜めの場所に座っていた有紗に語っていた姿を思い出す。

真帆は、自分にとって正面の位置だった。


「……あれ、祥太郎。
何も返事がないけれど、もしかしたら、余計なことだと思った?」

「は?」

「改築なんてどうでもよくて、実は山吹さんと話しがしたかっただけだった……とか?」


司は、それならそれで、俺がどうにかするけれどと、祥太郎に提案する。


「そんなことないよ。妙なことを言うな」


祥太郎は、読み進めていた用紙をファイルに戻す。


「あ……こっち、こっち」


入り口に入ってきた真帆に気付いた司が、すぐに手をあげた。

真帆は『こんばんは』と言いながら、二人の前に立つ。

4人がけのテーブルに、祥太郎と司が隣同士に座っている。

真帆は、祥太郎の隣は、有紗に開けておくべきだと思い、正面に座ろうとする。


「あ、こっちにどうぞ。俺、そっちに行くから」

「いえ……私」

「いえいえ、祥太郎に役立つ情報を持っている方がそばに」


司はそういうと、厳しい目で意見を言ってやってくださいねと、真帆を見る。


「元信用金庫の融資担当として」


真帆は、どうして司が知っているのかわからず、

席を移動することも忘れ驚いてしまう。


「赤尾さんから聞きました」

「……あ、陽菜ですか。あ、そうか、緑川さんと陽菜」

「そうそう、めでたくカップルとなりましたので」


司は、陽菜から聞いているだろうと、真帆に笑顔を見せる。

それを聞いた祥太郎は、ワンテンポ遅れで、驚きの声をあげた。



【7-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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