7 隠している思いを見た男 【7-5】

【7-5】

『夜9時まで、ピエノッソ』



その頃、大輔は『フォトラリー』から頼まれた仕事のため、

あるレストランの前で、一人の男が現れるのを待っていた。

『リファーレ』の広報部長、灰田啓次。

この夏、展開をさせるクーデターのため、黒幕との最後の話し合いが行われている。

人に知られたくない相手と会うのだから、

遅い時間に設定されるのかと思っていたが、ごく普通の時間設定にまず驚かされた。

場所として選ばれたレストランは、若いOLにも人気だと評判が高い店で、

逆に堂々と会う方が、いざとなったときにごまかしが聞くのだろうかと、

車の中で缶コーヒーのプルを開ける。

そして、9時少し前、一人で現れた灰田は駐車されている車を避けるように歩き、

ある場所で立ち止まった。

大輔は店から出てきた姿、そして立ち止まりタクシーを拾う灰田の姿を、

カメラに収めていく。

灰田は一人、タクシーに乗り込み、そのまま夜の街に出発した。

大輔も車のエンジンをかけ、そのタクシーを追いかける。

ここから先の展開は、大輔にも予想が出来ないものだった。

宮石から渡されたスケジュールに書かれてあるのはここまでだったが、

実は、その後に、実際の狙いがある。



『灰田に関わる女性』



灰田は、妻のいる身だが、実は数年間付き合っている愛人がいるらしく、

その相手が業界新聞の記者だと、宮石から情報を得ていた。

互いの情報を互いに流し、いざことが起きたときには、利用しようとしているらしい。

おそらく誰なのか、どこで会うのかも、なんとなく予想はついていたので、

先が長い仕事のため、宮石からはとにかく深追いをしないようにだけ言われていた。

情報を受けている場所が正しいのなら、次の交差点で右に曲がるだろうと、

大輔がタクシーの2台後ろで様子を伺っていると、灰田を乗せたタクシーは、

予想通り交差点を右に曲がる。

その後も、予想通りの走行をしていたタクシーが、

最後にウインカーを出した場所を確認し、命令どおり深追いはせずに、

その日の追跡を終えた。





「そうなんですか、予想外」

「そうかな」


飲み会の席に有紗が登場してから、祥太郎はやはり有紗と話すことが多かった。

真帆は司と話をあわせ、陽菜と週末に会うこと、そこで演技をすることなどを聞く。


「陽菜ならしっかりやりますよ、きっと」

「どうしてそう言えるの」

「陽菜は、課題でもなんでも、投げ出したり諦めたりすることがなかったので。
引き受けた以上、しっかりとやるはずです」


司は、それなら安心だと笑いながら、グラスを空にしていく。

最初の乾杯から2時間が経過する頃、

そろそろ、お開きにしようかという雰囲気が出始めた。

祥太郎は、ハンカチを取った真帆を見る。


「あの、黄原さん」

「はい」

「黄原さんの都合がいい時で結構です。これ、見直してもらってもいいですか」


祥太郎は、食事には邪魔だと思ったファイルを前に出す。

身勝手な計画だけれど、本気なので協力して欲しいと、真帆に頭を下げた。


「お勤め先、『原田運送』ですよね。住所、うちからそれほど遠くないので、
俺、取りに行きますから」


祥太郎は、迷惑ですかと真帆の顔を見る。


「あ、でも……」


真帆は、自分の正面に座る有紗を見た。

有紗はメールの確認をしているのか、真帆の方を見てはいない。


「わかりました。お預かりします」

「ありがとうございます」


祥太郎はそう言うと、財布を取り出しながら、

取りに行ってもいいかどうか、連絡をくださいねと真帆に話す。


「はい」


真帆は、祥太郎の思いが入ったファイルを無くさないように、

しっかりとバッグに入れた。

会計を済ませ、それぞれが駅から別れていく。

真帆は有紗と一緒に、地下鉄のホームに向かうため、駅近くの階段を降り出した。

司と祥太郎は、地上に残ったまま、二人を見送る。

同じような動きをする人の背中や頭で、真帆と有紗はすぐに見えなくなった。



【7-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

コメント

非公開コメント