7 隠している思いを見た男 【7-6】

【7-6】
「祥太郎」

「何?」

「どうして、黄原さんに話を振ったんだ」

「どういうこと?」


司と祥太郎は、真帆と有紗の姿が見えなくなったので、

正面に見える駅に向かって歩き出す。

交差点の信号で足を止めると、近くに待ち構えていたタクシーが近づいてくるが、

司は『乗りません』という意思を、軽く手を振ることで表していく。


「山吹さんだっけ? ほら、彼女の先輩の話を聞きたいって、お前言っていたのに、
結局、そういう話は進まなかっただろ」


司は、確かに、真帆の方が元信用金庫なのだから、頼りになるだろうけれどと、

改札を目の前にして、電子マネーを取り出した。

祥太郎も司の後に続く。


「黄原さんの今の環境もあるのかな。信用金庫なんて堅いところを辞めてさ、
あえて『運送会社』に勤めて……。それに今日も家賃のこと、見積もりのこと、
俺が気付いていなかったところを、何気なく教えてくれたし。
うん、黄原さんが、本気に受け取ってくれる気がしたからかもしれない」

「本気に?」

「そう。小さな店だけれど、本気で継ぎたいと思っている気持ちを、
理解してくれている……というか。
いや、司や山吹さんが理解していないと言っているわけではなくて。
なんだろう、山吹さんさ、先輩の話をしてくれたけれど、
結局、最後まで具体的なことは、何も言わなかっただろ。まぁ、黄原さんがいれば、
それで大丈夫だろうと思ったのかもしれないけど」


祥太郎は、飲み会の最中も、何度か携帯に目を向けていたと、

有紗のことを話す。


「親父に、本気度を伝えないとならないからさ、俺」

「ふーん」

「司に言われた通り、いつまでも足踏みしているわけにはいかないんだ」

「足踏み?」

「うん」


司は乗り場が別になる祥太郎と、その場で別れていく。

祥太郎は、空いていたベンチに腰掛けると、

真帆が以前勤めていたという、信用金庫のホームページを携帯に呼び出した。





週末の土曜日。

老人ホーム『アプリコット』では、近所の主婦を招いての、手作り教室が行われた。

体調に問題がない入居者たちは、針と布を持ち、お手玉を作り始める。

文乃も困っている人はいないか周りを見ながら、その会に参加した。

出来上がったお手玉は、以前いただいた大きなお菓子の缶に入れ、

それぞれがリハビリの道具として使うことにする。


「お疲れ様でした」

「あ、お疲れさま」


文乃は、朝、身支度をして寮を出ると、そのまま仕事になる。

外に出る用事がなければ、一日の大半をこの施設内で過ごしていた。

担当する入居者の体調確認から、食事やお風呂の世話。

全員が使う施設の当番もあり、時間はあっという間に過ぎていく。

その合間にも、頼まれたことをこなそうと、文乃は階段を上がり、

とある入居者の部屋を訪れた。

『金田ハル』は、『アプリコット』が創設された時から、入居している80代の女性だ。

部屋は、最上階に3つある特別室の1つになる。

今日は、部屋の模様替えを少し手伝って欲しいと言われていた文乃が、

仕事終わりに、部屋を訪れた。

湯飲みや急須の入った小さな戸棚を、テレビの右から左へ移す。


「あぁ、ありがとう。そこで」

「ハルさん、これで使いやすくなりますか」

「えぇ、使いやすくなりますよ。今までは奥の扉を開くと、テレビにぶつかりそうで。
ヒヤヒヤしていたの」


ハルは、文乃が移動させた棚の扉を開き、満足そうに笑った。

文乃は、ハルの寝ていたベッドの横に立ち、少ししわのよったシーツの端を引っ張り、

もう一度きれいに直していく。


「悪いね、お休みの時間なのに」

「大丈夫ですよ。出来ないことは出来ませんって、言いますから」


文乃は、今日の仕事はこれで終わりだからと、部屋を出ようとする。


「白井さん、ちょっと待ってちょうだい」


文乃はハルに呼び止められたため、その場に立ち止まる。


「ねぇ、いただきもののお菓子があるの。持っていって欲しいから、
ちょっと座ってくれない」

「いえ、いいですよ。これくらい」

「いいから、いいから。座ってって」


ハルはそういうと、戸棚からかわいらしい袋を出してくる。


「あのね、白井さんがとってもいい人だから、余計なお世話だとわかっているけれど、
黙っていられなくて」


ハルは、文乃にもっと近くに来て欲しいと、手招きする。

文乃は、1、2歩、部屋の中に戻った。


「白井さん、あなたのその足は、もう治らないの?」


ハルは、どうしてそうなったのかと、文乃に尋ねた。

文乃は、自分が慌て者で、山登りの途中で下に落ちてしまったと説明する。


「病院には行ったよね。それでも治らないの?」


ハルは、ごめんなさいねと言いながら、文乃に聞き続ける。


「はい……。先生方も色々とリハビリのメニューを考えてくださいましたけど、
これ以上の回復は無理だそうです」


文乃は、それでもこうして仕事が出来ますと、笑ってみせた。

ハルはその通りだと、何度も頷き返す。


「いやいや、話したくないことを聞いてしまってごめんなさい。
でもね、私はあなたがとても立派だと思って。で、それで……」


ハルは、手を動かし、気持ちに追いつけない言葉のフォローをしようとする。

『褒めてあげたい』というハルの優しさは、文乃にももちろん伝わった。


「うちの息子、ほら、信也。会ったことあるよね」

「信也さん、ですか」

「そう、ほら、孫を連れてくる長男ではなくて、
無愛想だけれど、よく来てくれる次男の方」

「あぁ、はい」


ハルには息子が二人いた。長男は、ハルが数年前までご主人と経営していた、

レストランを引き継ぎ、都内にある10店舗の社長をしている。

そして、よく『アプリコット』にやってきて、ハルを見舞っている次男の信也は、

その中でも1番昔から営業している店舗のチーフコックになっていた。


「長男は人当たりもうまくて、誰とでも話が出来るのだけれど。
次男は性格がおとなしくて。しかも、いつも決まった場所で料理をしているでしょ。
出会いもなかなかなくて」


ハルは、文乃にお付き合いをしている人がいないのなら、

一度会ってみてくれないかと、そう言い始めた。



【8-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

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Comment

ももんた

拍手コメントさん、こんばんは

>毎日、楽しみにしています。 人物紹介、ありがとうございました。

いえいえ、登場人物がどうしても増えてしまうので、
参考にしていただけたら嬉しいです。
7話に出てくる名前も、書き加えてありますので、
見てくださいね。
  • URL
  • 2016/12/16 23:04

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