8 秘密を知り戸惑うとき 【8-1】

8 秘密を知り戸惑うとき
【8-1】
『次男の信也は……』


文乃は、突然の申し出に戸惑いながらも、

『アプリコット』にとっては、お得意様とも言えるハルに対し、

どう返事をしていいのか、迷ってしまう。


「金田さん、私なんて……」

「いやいや、白井さん。あなたは素敵な女性ですよ。優しいし、頑張り屋だし。
今、怪我のことを聞いたのも、この仕事を足のハンデを持って、
将来も続けていくのだとしたら、それは大変ではないかと思ったもので」


ハルは、この間、次男に文乃のことを話したら、いつも愛想がないのに、

どこか嬉しそうだったと、話し続ける。


「気付いたんですよ、私。あの子が来る時間、来る日、よく考えてみると、
あなたが私の世話をしてくれる時間に、よく重なっているから」


ハルはそういうと、自分のために来てくれていると思っていたのにと、

楽しそうに笑い出す。文乃は、ここへやってくる『金田信也』の顔を思い浮かべた。

真面目そうな人だったが、確かに、愛想というものはあまりなく、

挨拶をすると、軽く頭を下げてくれるだけだった。


「白井さんに、決めた人がいるのなら、それは仕方のないことだけれど……」



『ずっと好きでした』



文乃の脳裏に、必死の顔で告白してきた司のことが蘇る。

大輔の友達として、これからも司を見なければならないと、乱れそうになった時間を、

過去のことにするためにここへ来た。

それでも、気付くとすぐに振り返ろうとしてしまう。


「うちのお嫁さんになってもらえるのなら、炊事とか、洗濯とか、
主婦の動きをこなすくらいで、成り立つだろうと思って……」


文乃は、今は自分自身に自信がないとそうハルに告げる。


「自信?」

「はい。今は、人と距離を置いたまま話をする方が気が楽なんです。
近付こうとすると、少し戸惑ってしまうというか……ですので、
ハルさんの大事な息子さんと、お会いしてというのは……」

「そんなこと、考えなくても」

「すみません」


出て行こうとする文乃に、ハルはお菓子の袋を素早く開き、中に1枚の紙を入れる。


「白井さん、ほら、お菓子、お菓子。これを持っていって」


文乃は、ハルの声に気付くと『すみません』とあらためて頭を下げ、

お菓子の袋をもらい部屋を出た。

階段を下りながら、文乃は足の怪我もなく結婚に向かっていた日々を思い返した。

同僚だった和臣と恋をして、疑うことなく未来を夢見た日は、はるか遠い昔になる。

『カメラマン』という弟の夢を手伝うために登った山で、

ハルにも話したとおり、文乃は一生の怪我を負ってしまった。

文乃自身は、怪我をしたからといって、何ひとつ変わらないと思っていたのに、

自分を取り巻く環境は、全て変わってしまった。

足の怪我を理由に、未来を約束した彼は去っていき、

足の怪我があるために、弟はいつも自分を気にし続けている。

『姉弟』なのだから、心配するのは当たり前だと言われても、文乃にしてみたら、

それはただ、気をつかわせている以外のなにものでもなく、心苦しくなるだけだった。



『文乃さん』



司との時間は、そんな文乃の複雑な気持ちを、いつも吹き飛ばしてくれるものだった。

話をすれば自然に笑えたし、年が3つ下なのに、司は話し下手な自分とは違い、

営業マンをしているだけあって、話題も豊富だった。

最初は、弟がもう一人出来たような気で会っていたのに、

いつの間にかそれが、一人の男性として見ている自分を認めようとしたとき、

あらためて司が『大輔の親友』であることにも、気付かされる。


治らない怪我をした姉が、自分の親友と……


大輔と司が親しいからこそ、大輔のハンデになるようなことだけは避けたかった。

今ならまだ引き戻せると、必死に手を動かしたとき、

文乃は、思ってもみなかったカッターという凶器で、司の腕を傷つけた。

自分が傷つくのではなく、相手を傷つけたことが、文乃にはショックで、

逃げる場所を捜し求めた結果、今、こうしてここにいる。

ふと見たお菓子の袋の中に、1枚の紙があり、文乃はそれを出して見る。

結構ですと断ったのも関わらず、ハルは次男の名前や年齢、

そして、性格などを書いたメモを入れてきた。



『いい子なのよ』



母親として、精一杯息子を応援する言葉が最後に書いてあり、

文乃は、ため息をつきながら、袋にメモを押し込んだ。





そして、週末の日曜日。

司と陽菜の勝負の日がやってきた。

待ち合わせをしたのは、司の指定した駅前のレストランで、

陽菜は時間よりも10分前に到着する。

司とのことを気にした瞬から、まだ未練があるようなことを言われ、

さらに『いやなら逃げてくれ』というセリフに、逃げることが出来なかった。

だからといって、瞬がどうするのかという明確な答えはもらえず、

日付だけが重なっていく。

陽菜は、あらためて連絡をして、もう一度瞬の覚悟を聞きだそうとも思うのだが、

また自分だけが先走りになる気がして、その勇気を出せないままになっていた。


「赤尾さん」

「こんにちは」


司の声が聞こえ、陽菜は手すりから手を離す。


「今日は本当にすみません。でも、あまり緊張しないでください。
まぁ、バレたらバレたでどうにでもなるというくらい、楽に考えてもらえば」

「はい」


行きましょうという司の声に、二人は揃って歩き出す。


「でもこの間、黄原さんが言ってましたけどね」

「真帆がですか」

「そう。いざというときは、赤尾さんだったって」

「エ……」


陽菜はそうだったかなと、首を傾げていく。

祥太郎が、信用金庫にいた真帆を頼りにしていたと、

司が報告しながら、二人は待ち合わせの店へ向かった。



【8-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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