8 秘密を知り戸惑うとき 【8-3】

【8-3】
春を過ぎ、カレンダーは6月になった。

もう少し夏まで日にちがあると思っていたのに、暑さはどんどん増していき、

さらに梅雨という名前も聞かれ始めたため、湿気が足されていく。

陽菜は、父の日を意識した、『ぷちプレイデー』というミニ運動会準備のため、

子供たちを帰した後も、倉庫と教室を行ったり来たりする。


「はい、こっち向いて」


職員室に戻ろうとしたとき、年長組の教室内で、

卒園アルバム用の写真を撮る、大輔の姿を見つけた。

陽菜は以前、1度だけ卒園生を出したことを思い出す。

初めて連続で担任を持ち、送り出した子供たちは、今、小学校2年生になっている。


「はい、次」


子供たちは、足を止めた陽菜に気付き、『はるな先生』だと、声を出し始めた。

並んでいた列から飛び出してくる子供もいる。

撮影をしていた大輔も、その声に振り返った。

大輔は挨拶代わりに、軽く頭を下げてくれる。


「ねぇ、先生、先生も撮る?」

「ほら、いいの、いいの。みんな頑張って。はるな先生邪魔しちゃった」


陽菜は、進んでいた撮影会を邪魔してしまった気がして、

園児たちに席に座るよう指示を出す。

担任の同僚に『ごめんなさい』と頭を下げ、少し小走りに職員室へ戻った。

しばらく職員室で作業を続けていると、撮影を終えた大輔が、

機材の入ったバッグを肩にかけ、職員室の前に出てくるのが見えた。

陽菜は立ち上がり、声をかけようとするが、年長担当の先生が数名、

大輔のことを見送りながら、何やら笑顔で話している。

陽菜は、ここは関係のない自分が出て行く場面ではないだろうと、

一度浮かせた腰を、椅子に戻す。


「はるな先生、飾り付けのリング、これくらいでいいですか」

「あ、うん」


陽菜は後輩に話しかけられたので、その出来栄えを見た。

先生たちに見送られた大輔は、あらためて頭を下げると玄関を出て行く。

陽菜はそのまま作業を続けようかと思ったが、体は頭と別行動になり、

気付くとサンダルを履き、玄関を出ていた。


「白井さん」


陽菜の声に、大輔の足が止まる。


「はい」

「さっきはごめんなさい。撮影中だったのに、子供たちが集中しなくなって」


陽菜は、自分が何も考えず撮影風景をのぞいてしまったのでと、頭を下げた。

大輔はそんなことは気にしなくていいですよと、笑顔になる。


「集中力がないのは、子供なのだから当たり前です。
大人の言うことをビシッと聞いて、じっと待っている方が、気味悪いし。
ごちゃごちゃするのも撮影時間だと思っていれば、イライラすることもないですよ」


陽菜は以前、自分が年長を送り出すとき、撮影してくれた業者の人は、

子供たちの態度が悪いと、不機嫌だったことを思い出したと大輔に話す。


「そうですか」

「お忙しかったのかもしれませんが」

「いや、それは子供たちの責任でも、園の責任でもないですよ。
その人が向かない仕事をしただけです。カメラマンでも色々なタイプがいますからね」


大輔は持っていたカバンの紐部分を押さえ、肩にかけなおした。

陽菜は、呼び止めてしまってすみませんと、あらためて頭を下げる。


「いえ、いいんです。本当は、呼び止めてもらってよかったので」


大輔は、帰ろうとしたとき、陽菜が職員室にいるのが見えたので、

自分の方から声をかけようかと思ったと、そう笑顔を見せた。


「今、気にしてませんと言いましたけど、
実際、赤尾さんが立っていることに気付いたとき、何かあったのかと、
考えたことも事実でして……」


大輔は、ただ、他の先生たちに、どうしてはるな先生を呼ぶのかと、

色々わかってもらうのも面倒だったと、話し続ける。

陽菜は、やはり素通りしなくてよかったとそう思う。


「白井さん、また、子供たちの笑顔、撮りに来てくださいね」


陽菜の言葉に、大輔はわかりましたと頷き、駅に向かって歩き出した。





こんな出来事から数日が経った日。

陽菜は、今日もまた、子供たちの帰った後、雑務に追われていた。


「はるな先生。『フォトカチャ』の方が見えましたよ」

「はい。今行きます」


陽菜は、持ってきた袋を教室に置くと、一度手を洗い小走りに職員室へ向かった。

『フォトカチャ』の担当者は、おそらく大輔だろうと思いながら扉を開き、

この間はと挨拶を始めようとした口が、一瞬開いたままになる。


「どうも、『フォトカチャ』の吉本です」

「あ……はい。えっと……」


てっきり担当は大輔だと思っていたので、陽菜は名刺入れを用意していなかった。

慌てて席へ向かい、デスクを開くと、名刺入れを取り出す。


「すみません、主任の赤尾陽菜です」


吉本という男性は、『はい』と言いながらメガネを動かし、ソファーへ腰を下ろした。

陽菜は受け取った名刺を、テーブルの上に置く。


「あの……」

「はい」

「今までは、白井さんが来てくださって……」

「あぁ、はい。白井ですね。でも、今回は僕です」


吉本は、白井はフリーカメラマンなので、色々な仕事があり、

『フォトカチャ』に集中しているわけではないと、そう説明する。

吉本は、カメラが好きなのか、職員室からあちこちにレンズを向け、

カシャカシャと音をさせる。


「あの……」

「大丈夫です、許可なく園内を撮影したりはしません。
空シャッターで、音だけですから。でも、この音、気持ちが安らぎませんか?」

「はぁ……」


時折、おかしな行動を取る吉本だったが、

カメラに対する情熱だけはしっかり持っているように思えた。

陽菜はよろしくお願いしますと頭を下げ、打ち合わせを終えた。



【8-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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