8 秘密を知り戸惑うとき 【8-4】

【8-4】

職員室から教室に戻ると、同僚の先生たちが、飾りを作り始めていて、

陽菜は自分もすぐに加わろうと、昨年のものを取り出し見本として前に貼った。


「サイズは同じでいいし、使えるものは使って」

「はい」


3人の先生は、休みに出かけた店が美味しかったとか、

安売りで買ったスカートが思ったよりも着まわしがきくなどと、

世間話をしながら作業を続ける。


「はるな先生。『ぷちプレイデー』の日、集合写真を撮る場所が工事中の話、
『フォトカチャ』さんにしましたか?」


後輩の先生にそう言われ、陽菜の動きが止まる。


「あ……そうだった。やだ、忘れた」


今回の写真も、担当が大輔だと思っていたのに、吉本という初めての男性だったため、

それに気を取られてしまった陽菜は、

伝えなければならないことをすっかり忘れていた。

陽菜は慌てて職員室へ戻ると、先ほど帰った吉本が置いて行った名刺を取り出す。

実は、『新町幼稚園』では、改装工事が始まっていて、

集合写真を撮る場所を、新しく考えないとならなかったからだ。

今までの滑り台前だと、取り壊している建物が写ってしまってあまりよくないと、

園長からも言われていた。日光の問題もあるため、もし、場所が難しかったら、

体育館でお願いしますと、あらかじめ話をしておかなければならなかった。


「えっと……080の」


書かれていた携帯番号に電話をする。



『この番号は、現在使われておりません』



「エ? どういうこと?」


陽菜は慌てて『フォトカチャ』の事務所となっている番号へ回す。

すると、留守番電話のメッセージが流れ出した。

ようするに、事務所内に留守番をしているものがいないため、

急ぎの場合は、各担当者の携帯に連絡をお願いしますという声が流れてくる。


「すみません、『新町幼稚園』の赤尾です。吉本さんに連絡を取りたいので、
幼稚園に電話をお願いします」


とりあえずメッセージを残したものの、吉本から電話が来るまで、

職場に張り付いていなければならないのかと、陽菜は時計を見る。

それでも、自分のミスだから仕方がないと考えていたが、あることに気付き、

ロッカーから自分の携帯を取り出した。



『青葉瞬』



別のことをしようとした陽菜の目は、この名前のところで動かなくなった。

送られて来たメールを確認しようと、ボタンを押す。



『陽菜、話がある。近いうちに店へ来て欲しい』



『話』というキーワードに、陽菜の鼓動は一気に速まった。

自分がまだ瞬に未練があることを告白してから、初めてのメール。

そのことについての話題であることは間違いなく、

陽菜はこれから自分はどうしたいのかを、あらためて考える。

『不倫』という状態になることに、罪悪感はないのかと言われると、

そう心が強く決まっている気がしないのに、それでも、会いたいという思いは、

どうやっても抜けていかない。


「あれ? はるな先生。飾り付けの準備、終わったんですか?」


『フクちゃん』と恋愛関係にある『みき先生』が職員室に戻り、陽菜は我に返った。

『青葉瞬』のメッセージはとりあえず頭から消し去り、

『白井大輔』の名前を呼び出すと、出てくれるだろうかと思いながら、

通話のボタンを押した。受話器のコードに触れながら、

何度か呼び出し音が鳴るのを聞く。


『はい、白井です』

「あ……忙しいところごめんなさい。あの、赤尾です」

『……あぁ、はい』


陽菜は、挨拶をした後、今回担当する吉本という男性が来てくれたこと、

名刺の携帯に連絡をしたら、使われていないと言われたことを話す。


『吉本ですか』

「はい。白井さん、ご存知ではないですか」

『いえ、わかりますよ。あいつ、ちょっと風変わりなんですけど。
もしかして、幼稚園で何かやりましたか』

「いえ、そうではなくて」


陽菜は、自分が慌ててしまって、伝え忘れたことがあると、大輔に話した。

名刺に載っていた携帯番号にかけてみたが、

『使われていない』というメッセージが流れたことも語る。


『少し待ってくださいね、今、調べます』

「すみません」


30秒くらいの合間があり、大輔から読み上げますよと、声がかかった。

陽菜は、デスクの上に置いてあった折り紙をつかみ、ペンを握る。


「お願いします」


大輔から聞きだした吉本の番号は、名刺に書かれているものとは、全く別だった。

陽菜は書いた番号と、名刺の番号をあらためて見比べる。


『あいつ、少し前にスマートフォンにするって言ってました。
全く、古い番号の名刺、訂正しないまま渡したのかも知れませんね』

「あぁ、そういうことですか。
すみません。忙しいところ、ありがとうございました」

『いえ、こちらこそ。もしつながらないようだったら、また連絡をください。
俺がどうにかします』

「はい」


陽菜は、大輔との電話を切ると、すぐに聞いた吉本の番号を回す。

すると何度目かの呼び出しで、少し前に聞いた覚えのある声が聞こえてきた。



【8-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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