8 秘密を知り戸惑うとき 【8-5】

【8-5】

陽菜からの電話を受け取った大輔は、実は、『フォトラリー』の編集部にいた。

宮石は、電話は大丈夫かと大輔に聞く。


「大丈夫です。『フォトカチャ』の同僚が、仕事先でちょっと……。
でも、大丈夫だと思います」

「そうか、それならよかった」


宮石と大輔の前には、『リファーレ』の広報部長、灰田に関する資料が並んだ。

先日、店の前で張り込み、撮った写真も並ぶ。


「ほぼ、手に入った情報どおりに動いているようだな」

「はい。宮石さんから聞いていたホテルへ入るところも確認しました。
おそらく、記者の女と会ったのでしょう」

「だろうな。灰田が勝つのか、それとも相手が勝つのか……」


宮石は、そういうと、灰田の写真を指ではじく。


「金のあるヤツの考えることは、俺にはよくわからないな」


宮石は、そう言いながらタバコをふかすと、疲れたのか首を大きく回した。





大輔から聞いた番号で吉本が捕まり、陽菜は無事、変更の話をすることが出来た。

飾り付けの仕事も終了し、同僚たちと駅へ向かう。


「はるな先生。見ましたか? みき先生」


後輩は、園児が帰った後、『みき先生』がすぐに『フクちゃん』を掴まえて、

廊下や空き教室で何やらひそひそ話していると、言い始める。


「園児が帰った後でしょ、そんなこと言ったら、焼き餅かと思われるから」


もう一人の後輩が、余計なことは言わないほうがいいと、口の前に指を立てる。


「そうだけど。もう少し全体の作業にも気をつかって欲しいというか」


楽しい時期なのはわかるが、もう少し場所を選んで欲しいと言いながら、

愚痴を言った先生はため息をつく。陽菜は口には出さないものの、

同じことを思っていたと、口元が緩む。


「今更ですけど。フクちゃんが前に付き合った、なみ先生。
私、幼稚園教諭としてのいろはにほへと……みたいなものを、教えてくれた人だったから、
奪い取ったみき先生が、ヘラヘラしていると腹が立つんですよね」


後輩の意見を聞き、陽菜もフクちゃんの前の彼女、『なみ先生』を思い出した。

年も同じく優しい人で、互いに仕事が終わらなかったりすると、

さりげなく手伝いを出来るような、存在だった。

一緒にお酒を飲みに行った事、お弁当を広げ笑ったことなどを思い出す。

二人の別れの原因は、積極的な後輩『みき先生』にふらついた副園長にあったのに、

辞めるときは愚痴一つ言わずに幼稚園を去った。


「なみ先生、どうしてますかね。もう幼稚園の先生、していないのかな」


陽菜は、なみ先生が『どんぐり保育園』で働いているのことも知っていたが、

辞めるときにも明らかにしなかった本人の気持ちを考え、あえて同僚に話していない。


「なみ先生なら、きっと大丈夫だよ」


陽菜はそう言うと、彼女はこういった仕事に向いている人だからと話す。


「そうだよ、なみ先生なら、どこでも先生出来るもの」

「まぁね」


陽菜は後輩たちと駅までの道を歩きながら、その後も何度か『過去』を呼び出した。





『フォトラリー』との打ち合わせを終えた大輔は、電車で最寄り駅まで戻り、

改札を出ると、すぐ右にある定食屋に入った。

看板も出ていない店だったので、最初は営業しているのかもわからなかったが、

サラリーマンが堂々と店に入ったので、その動きに続いてみると、

そこが定食屋であることに気付いた。

昭和の香りがするテーブルに座り、ドーナツ型の椅子に座りながら、

カメラのレンズを広げ、丁寧に拭いていく。

雨が降った時に使ったものをそのままにしてしまうと、

湿気で微妙なずれが生まれてしまうからだった。

炊事や洗濯など、一人暮らしに必要な家事は、年数を重ねても得意にはならないが、

レンズとカメラに対する思いだけは、昔からずっと変わらない。


「はい、山かけ定食」

「すみません」


定食屋『つつみ』は、競馬新聞が大好きな親父さんと、

若手演歌歌手のおっかけを、趣味としている奥さんによって成り立っている。

子供は娘さんがいたが、とっくに嫁に行ってしまったため、跡取りはいない。


「おぉ……」


店の正面にあるテレビでは、大相撲の取り組みに関するニュースが流れ、

今日は横綱が敗れたのか、土俵には座布団が飛び交っている。

大輔は、スポーツの写真を撮るカメラマンは、

瞬間が勝負だから大変だと、箸を割りながら考える。


「ねぇ、大輔君はさ、こういうの撮らないの?」

「こういうのって、スポーツですか」

「そうそう。うちのお父さんが好きな競馬とか」

「撮らないですね」

「あらまぁ」


奥さんは、味噌汁をテーブルに置くと、それじゃ、何を撮るのかと尋ねてくる。


「昔は山とか花とか、景色を撮ることが好きでしたけど。
なかなかそれだけじゃ生活が出来なくて」

「山や花? あらやだ、そんなもの撮ってどうするのよ、食べることも出来ないのに」


奥さんは、それは趣味でしょうと、ケラケラ笑い出す。


「景色も色々とあるんですよ。カレンダーやパンフレットとか。
図鑑の写真もありますし」

「あぁ、そうなんだ」


奥さんは、それは失礼しましたと、またケラケラ笑う。


「今は、人を撮る方が多いですね」

「人? ほぉ……」


大輔は、山かけをご飯に乗せ、多めにすくうと口に入れる。

愛想などどこにあるのかというくらいな親父さんだけれど、とにかく味は美味しい。


「これ、うまい……」

「でしょ。これ、スタミナつくからね」

「はい」


奥さんは調理場の方に戻り、汚れた皿を洗い出す。

大輔はしばらくテレビを見ながら、食事を進めていく。

煮物の残りもあと少しという頃、携帯が揺れだしたので、すぐに相手を見た。





それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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