8 秘密を知り戸惑うとき 【8-6】

【8-6】
相手は『宮石』になっていたため、大輔は慌てて箸を置き、受話器をあける。


「はい」

『あぁ、ごめん。今、どこにいる』

「今、自宅の近くですが」

『そうか……。あのな、こっちから情報をお願いしてある取り巻きから、
急遽、灰田が大物政治家と今、会っているという情報が入ったんだ』

「はい」


大輔はすぐに時計を見る。

打ち合わせをしていた店が使われているのなら、ここから急げば1時間かからない。


「それは、話しに出ていた店ですか」

『そう、昔から灰田が贔屓にしている『笙』という和食の店だ』

「はい」


大輔はわかりましたと受話器を置き、残っていた煮物の中から、

里芋を箸でつまみ口に入れる。


「すみません、支払い、いいですか」


大輔は奥に入った奥さんに向かって、声をかけた。





大輔は、現場になっていると聞いた『笙』までタクシーを使った。

その大物政治家が影にいることは、前々から噂になっていたが、

灰田との交渉に応じるのかどうかだけが、宮石と大輔の疑問点だった。

灰田の愛人と言われている業界紙の記者と、その政治家とのからみもあり、

とにかく、贔屓の店から出てくる姿を残そうと考える。

道路は思っていたよりも空いていたため、目的地には早めに到着できた。

店の前には、SPらしき男性の姿があったため、

大輔は、主役はまだ中に揃っているのだろうと考える。

もちろん、目の前でカメラを構えて、写真を撮らせてもらえるわけはないので、

道路の反対側にあるファストフードの店へ入り、窓がある場所に座った。

この位置ならば、出てくるタイミングがすぐにわかる。

『フォトラリー』編集長、宮石のすごいところは、

ここへ来たらどこから撮るべきか、そのポイントまで絞り込んであることで、

突然の仕事依頼だったが、大輔には余裕さえあった。

コーヒーを半分くらいまで飲んだときだろうか、店の入り口から男が姿を見せる。

大輔は携帯を耳にあて店を出ると、あらかじめ決めていた木の影に立つ。

店の前にいる二人にレンズを向け、連写した。

暗さもあるし、ピントも完全ではないかもしれないが、

何枚かはうまくいくだろうと、構えたままで撮り続ける。

灰田の表情は、笑みが浮かぶくらい穏やかで、

大輔はいよいよ、本当に動き出すのだとそう思う。

政治家は、横付けされた黒塗りの車に乗り込み、灰田と一緒にいた男が揃って頭を下げる。

大輔にはそれが誰なのか、よくわからなかったが、写真を持っていけば、

宮石にはわかるはずで、仕事を終えたカメラを体に隠すようにする。

灰田は男と何やら話し、目の前に止まったタクシーに乗り込んだ。

その男は灰田にも頭を下げ、また別のタクシーに乗る。

ウインカーを出していた2台のタクシー。

先に出発したのは、灰田ではない別の男のものだった。

大輔は、荷物を残したファストフードの席へ戻り、携帯を取り出し、

宮石に仕事の報告をしようと考える。

大輔は、名前にあわせボタンを押し、受話器を耳に当てた。

何気なく視線を向けていた目の前の道路に、別のタクシーが1台到着する。


「あ……宮石さん。白井で……」


大輔は、カメラに『瞬間』を収めたことを報告しようとしたが、

目の前で起きている出来事に気持ちが取られ、言葉が止まった。

灰田は、今乗り込んだタクシーで走り出すことなく、なぜか降りた後、

一人で道路を渡ってくる。


『どうした、白井君』


宮石の声は聞こえたが、大輔には言葉を出す余裕がなかった。

こっちに向かってきた灰田は、目の前に止まっているタクシーのドアを叩き、

後部座席を開かせる。

その瞬間、邪魔な扉が消えて、大輔の前に、一人の女性の姿が見えた。


『おい、白井君、どうした』


灰田が座席に乗り込むと、そのままタクシーは出発する。

あっという間の出来事だったが、その切り替えがあまりにも見事だったため、

大輔は今のは偶然ではなく、なるべくしてなった出来事だと考える。


『おい、聞いているのか』

「あ、はい、すみません」


大輔は、気持ちを元に戻し、宮石に写真が撮れた事を話した。

宮石は、このまま編集部へ持ってきて欲しいと言う。


「わかりました、今……向かいます」


大輔はそう返事をすると、受話器を閉じる。

目の前で灰田を乗せ、走り出したタクシー。

その中に座っていたのは、結婚式で偶然出会い、飲み会を開いた時に会った、

山吹有紗だった。

大輔は互いに交換した名刺のことを思い出す。

そういえば、有紗は『リファーレ』の秘書課にいると話していたが、

初めての飲み会で、大輔と有紗の位置は一番遠い場所だったので、

『広報部長』を担当していると語った部分は、大輔の耳に届いていなかった。

有紗は灰田の秘書なのかと思う反面、今の動き方を見ていると、

仕事で到着したとは思えなくなる。

大輔は飲みかけのコーヒーを全て飲むと、紙のカップを右手で握りつぶし、

店のゴミ箱へ入れた。



【9-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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