9 あの人にいつか来る日 【9-3】

【9-3】
「俺が取りに行ったらさ、あれだよな。何かお礼をすべきだろうけれど、
なんだろう。ここへ来てもらって、前に食べ損ねた『五目チャーハン』を……」

「食べ損ねた?」

「そう。ほら、最初に会った日。お前と俺を勘違いしていたからさ。
驚いて飛び出していったんだ。お金だけ置いて。
たぶん、数口くらいしか食べていなかったような」

「ふーん」


祥太郎は、フライパンを動かしながら肉と玉ねぎに、醤油ベースのタレを絡める。

司の五目麺は、その間に半分くらいまで減った。

今度は『しょうが焼き』のいい香りが漂いだす。


「でもなぁ、こっちに持ってきてくれっていうのも、ずうずうしいよな」


祥太郎の言葉も、司の相槌も止まり、目の前で『しょうが焼き』が出来上がる。

祥太郎は、楕円形の皿に、素早く『しょうが焼き』を分けた。

圭子はそのタイミングに合わせて茶碗にご飯をよそり、味噌汁を入れる。

小鉢がお盆に乗り、『しょうが焼き定食』が出来上がる。

圭子は起用にお盆を2つ持ち、テーブルに座る客たちに運ぶ。


「どうするかな……」


調理の終わった祥太郎は、簡易椅子に腰掛けた。

厨房の中からコップにお冷を入れ、それを数口飲む。


「祥太郎、水」

「自分でやれよ」


祥太郎はそういうと、右手の上に顎を乗せた。

司はカウンター越しに座っている祥太郎を見た後、

そばにあった台布巾を向こうに落とす。


「ん?」

「ん? じゃないだろう。お前俺、客だぞ。しかもお前に呼びつけられた……」

「あぁ、はいはい」


祥太郎は司の前にあったコップを取ると、カウンターの隅にある冷水機で水を入れる。


「はい。ご苦労様です」

「うん」


司はもらったお冷を、何口か飲んでいく。


「なぁ、俺の意見だけどさ」

「うん」

「どっちでもいいと思うぞ」

「は?」


司はレンゲを使い、五目麺の汁を飲む。


「どっちでもって……」

「まぁ、聞けって。いいか? お前が、あの計画書を見せて、
色々と彼女に語っていたとき、黄原さん、とても嬉しそうだった。
自分の過去が役に立つということがわかって、今もきっと、俺たちの予想通り、
あれこれ調べてくれているよ」


司は、彼女は真面目そうだからと、また箸が麺に向かう。


「祥太郎、もしお前が逆の立場だったらどうだ。それを嫌だと思ったりしないだろう。
人に喜ばれるのって、案外、誰でも嬉しいものだし」


祥太郎はそうだろうかと、首をひねる。


「そうだよ。まぁ、気になるのなら、そろそろどうですかって、
お前が連絡してやれば? 赤尾さんも言っていた。黄原さんは結構、小心者だって」

「小心者って……でもさぁ、俺から電話したら、急かしていることにならないか」


祥太郎は、それは相手にプレッシャーをかけるのではと、椅子から立ち上がり、

汚れた皿を洗い出す。


「急かされるということは、それだけ期待されているということだから、
平気だと思うけどね」


司は残りの麺や具を、レンゲに入れながら、食べ終える。

祥太郎は司に背を向けたまま、ガチャガチャと音をさせ、食器を洗っていく。


「なぁ、ところで親父さんは」

「いないよ、だから、お前をここに呼んだんだ。親父は商店街の集まりに出ている。
夏祭りの相談だとか言って、また昼間から飲んでるよきっと」


祥太郎は、同じ商店街で『豆腐店』を経営している幼なじみが、

同じように父親とケンカした話を、司にし始める。


「ケンカ」

「そう。正直、『豆腐』だけの商売なんて難しいから、
父親の代で終わることも考えたらどうだって」


その幼なじみは、店を手伝っているものの、商売を継ぐつもりはないと、

父親に宣言したという。


「そっか」

「そうなんだよ、継がないという人のほうが多いくらいの中で、
積極的に継ごうと手をあげている俺がいるっていうのに、
親父は仲間に愚痴ってばかりだよ」

「愚痴?」

「そう、大学まで行かせて、学費が無駄になったとか……今もきっと、
そんな話をして盛り上がっているはず」


祥太郎は立ちあがり、会計を終え店を出て行く客に、

ありがとうございましたと頭を下げる。


「だからさ、俺はちゃんと計画を実行したいわけ。親父と俺と、
どっちの方が先を考えているのか、古めかしい連中にもわからせたい」


祥太郎はそういうと、また司に背中を向け、今度は餃子を焼いた鉄板を洗い始める。


「俺は真剣なんだからさ」


司は食べ終えたラーメン鉢をカウンターの上に置き、

コップに残っていたお冷を飲み干した。





「よかった、忘れていなくて」

「忘れないよ」


その日の夕方少し前、大輔は『アプリコット』にいる文乃の寮へ向かった。

文乃は戸棚を開くと、日本酒の瓶を3本、出してくる。


「何これ」

「これ、入居していた方の妹さんが送ってくれたの。
その方はこの春に亡くなったのだけれど、
この『アプリコット』でよくしてもらったと、妹さんに話していたらしくて」


文乃は、そういうとあまり口数の多い女性ではなかったので、

不満があるのではないか気になっていたけれどと、大輔の前にお茶を入れてくれる。


「新潟の蔵元だね、これ」

「でしょ。私にお世話になったって、送ってくれたから。
すぐに事務長に話したの。そうしたら、関わっていた数名に送られているらしくて。
みなさんで飲み分けるわけにはいかないから、白井さんがもらいなさいって言われて」

「ほぉ……でも」

「そうなの。私、飲めないでしょ。だから大輔に」

「俺?」

「そう。ここに置いてももったいないし。とてもいいお酒だって、
他の方から聞いたから。せっかくだもの、大輔飲んで」


文乃は3本いっぺんだと重たいから、1本ずつ持って帰ればいいとそう言った。


「3本か……それなら司と祥太郎にやるかな」


大輔は、洒落たレストランなどをよく知っている司だけれど、

以外に日本酒が好きだと、そう言い始める。


「司君……日本酒、好きなんだ」


司の名前を聞き、文乃はもらった酒の瓶を見る。


「うん。あいつ、家にいるときはほとんど日本酒だって、言っていた。
するめ食べたり、そう、おでんとか」


大輔はちょうど3本あるからそれがいいと言い、文乃の置いたお茶を飲んだ。



【9-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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