9 あの人にいつか来る日 【9-6】

【9-6】
司の反応は、きちんと返事をしたというより、勝手に口から出てしまったもので、

その後、事実の重さに気付き、自分でも鼓動がわかるくらい速くなる。


『ちょっと調べたらさ、超がつきそうなくらい金持ちの次男だった』


祥太郎は、金田ハルという女性が、『アプリコット』にいて、

その家は、都内に数店舗店を構えていること、

経営者の長男ではなく、料理人の次男との見合いを望んでいると、情報だけを続ける。

司は、携帯を握りながら、ただ、息の吸い込みと吐き出しを繰り返す。


「『ファミエッタ』っていう名前でさ」

「……で?」


たった一言に、司の全てが入っていた。

それで、自分はこの話を聞き、何が出来るのか、どうすればいいのか、

誰か教えて欲しいという思いが、司からあふれていく。


『でって……』

「祥太郎、お前、何が言いたいんだ。文乃さんの見合いがって聞いてさ、俺……。
いや、どうしてそんなこと話すんだよ」


司にも、自分の告白から逃げた文乃に、

いつかはこんな話が出てくることくらい、わかっていた。

それこそ、相手がどんな男であろうとも、全力で阻止したいが、

あの出来事が起こり、その後、

自分から逃げるように介護施設の寮に入ったのは文乃自身で、

司には、もう一度と自分が前に出て行く方法がわからなかった。

司は、無神経に情報を提供してきた祥太郎に対して、身代わりの怒りをぶつけてしまう。


「お前さぁ……」

『別に……世間話だと思えばいいじゃないか』


司の怒りに対する祥太郎のコメントは、冷静そのものだった。

人の気持ちを逆なでしているのかと、問い詰めるつもりが、逆に押さえ込まれる。


『いや、違う。世間話だとは思っていない、この話をした方がいい気がして、
お前に言っている』

「祥太郎……」

『司は、文乃さんを好きなんだろうって、ずっと思っていたからさ』


祥太郎の叫びに、司は心の中で上げた手を下ろす。


『お前から聞いたわけじゃないけれど、でも、俺はそう思っていた。
今回のことは、どうなるのか知らない。大輔の話しだと、
文乃さん自身はあまり乗り気ではないらしいし。でも……』


でも……の続きは、司にもわかっていた。

大輔自身が姉の幸せを願っている以上、そして文乃が女性としてもしっかりしていて、

周りから見ても、魅力があることを考えれば、同じような話がまた出てきて、

いずれ、決まってしまう。


『いつか、そんな日が来るぞ』


祥太郎の言葉に、司は日本酒だけだと飽きるから、

ワインでも持っていくと話しをそらす。

『結婚式』で偶然出会った6人の、再びの飲み会はそれから2週間後に決まった。





『ぷちプレイデー』のイベントが終了し、最初は名刺を間違えた吉本だったが、

カメラの腕は問題なく、幼稚園にも写真が出来上がったと連絡が入った。

廊下に見本の写真を貼り出していくと、

お迎えに来た父兄たちが、自分の子供はどこなのかと見始める。

その一番下には、『フォトカチャ』の注文ページにつながるアドレスと、

QRコードが記してあった。

陽菜はこれでしばらく大きな行事はないと思い、雑務をこなしていく。

壁にかかる時計を見て、席を立った。


「お先に」

「早いですね、はるな先生」

「うん、今日は……」

「あ、デートでしょう」


後輩が、そうですよねと笑顔を見せる。

陽菜は違いますと言いながら、その後輩の頭を軽く『ポン』と叩いた。

更衣室へ向かい、子供たちと遊ぶジーンズ姿から、スカートに変わる。

足元も、ぺったんこのズックから、ヒールのついたサンダルにした。

瞬に自分の苛立つ思いを伝えた日から、陽菜はイベントが終了するまで、

なかなか定時には終わることが出来ず、結局、数日間伸びてしまった。

それでも、瞬が指定してきたのは『ミラージュ』ではなく、

そこならば同等に向かい合い、昔のように語り合えるかもしれないと、

陽菜の気持ちは、自然と高まってくる。

化粧を直し、イヤリングもつけようとしたが、ここで同僚たちに見つかると、

それこそデートだと騒がれるので、あくまでも普段どおりにしたまま、

『新町幼稚園』を出た。

いつもの商店街も、なぜだか活気があるように思えてくる。

横の道から自転車が飛び出してきたが、怒る気持ちにはならず、

体を横に向けて、衝突を避けた。

駅について、改札を抜けると、携帯電話に連絡が入る。

瞬ではないかと思い相手を確認すると、『新町幼稚園』の園長だった。

陽菜は受話器をあげようとして、その手を止める。

もし、ここで何かトラブルがあったので、戻ってきて欲しいと言われたら、

瞬と会うことが出来なくなる。

ここは一度取らずに流しておいて、

もう一度かかってくるようならと考えていたはずなのに、

左手は自然とボタンを押していた。


「はい、赤尾です」

『あぁ、はるな先生。園長です』


心配された園長からの電話だったが、

それほどの問題があったわけではなく、2分ほどで切ることが出来た。

陽菜は携帯をバッグの奥に押し込み、ホームに入ってきた電車に乗る。

予定の時間より早く着くことはわかっていたので、メイク直しをしようと思いながら、

目の前の吊り輪につかまった。



【10-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
みなさんのコメント、拍手、ポチなど、お待ちしてます。

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/3173-177d9255

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
453位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
6位
アクセスランキングを見る>>