10 愛想笑いと冷静な目 【10-1】

10 愛想笑いと冷静な目
【10-1】
祥太郎から『6人で飲み会をしよう』というメールを受け取った真帆は、

ほっとしたような、それでいて少し寂しいような、複雑な気持ちだった。

『華楽』を会場にするという提案はおもしろいと思ったが、

また有紗や陽菜がいるということは、祥太郎と話をするチャンスが減る可能性もある。

この計画書というきっかけがあれば、ゆっくり話ができるという期待は、

真帆の思いから崩れてしまう。

それでも、祥太郎が自分の意見を待っていてくれていることだけはわかり、

余計なお節介にならずに済んだと、ほっと胸をなでおろす。


「黄原さん、伝票」

「はい」


真帆は、部長の前に書類の束を持っていくと、支払いが迫っている取引先を、

リストアップしたと報告した。





その頃、有紗は、『リファーレ』の秘書課で、雑務をこなしていた。

いつもなら灰田と行動をともにするのだが、

今日は灰田が一日会社を留守しているため、有紗の出番はない。

祥太郎から連絡をもらい、またみんなで会えるのは楽しみだと話したものの、

灰田から忙しくなることを宣言されていただけに、

貴重な時間を奪われてしまう気がして、どこか気持ちが重くなる。

有紗は、灰田は今頃、どんな時間を過ごしているのかと、壁にかかる時計を見た。





有紗が心配していた灰田は、実は『仕事』を早々と終了し、

タクシーに乗り込むと、とあるマンションの中に入っていた。

それは、大輔が宮石から聞いている、業界紙に勤める愛人のマンションで、

中に入ってから一度も、この場所から出てこない。

もしかしたら動きがあるかもしれないと言われ、大輔もそれなりに張りこんでいるが、

マークしている部屋は、何も変化が起こらなかった。


「ふぅ……」


灰田をマークしているのは、大輔の他にもう二人いたため、

そちらから入ってくる情報もいくつかあった。

宮石の言うとおり、灰田には数名の愛人がいて、

贔屓のホステスだと言われている女性は、以前、有名スポーツ選手と、

話題になったほどの美人だ。

それでも、1日じっくりと過ごす女性は、この業界紙に勤める女だけで、

大輔は、知ってしまった事実と、知り合ってしまった有紗との狭間で、

処理できない思いを、抱え続ける。

見上げた部屋には明かりがついていて、

大輔はコンビニで買ってきたおにぎりを食べながら、ラジオのニュースを聞き続けた。





「ごめん、待たせた」

「ううん」


待ち合わせの店に瞬が現れたのは、陽菜が到着してから10分後のことだった。

落ち着いた喫茶店の奥に座り、とりあえずブレンドを頼む。


「なんだか照れるよ、陽菜とこんなふうに向かい合うのは」

「そうだね……」

「うん」


瞬は、昔はいつもこうしていたのにと、笑ってみせる。

陽菜は、瞬の口から昔のことが出てきたことが嬉しくて、

先に飲んでいたアイスティーのストローに口をつけた。

陽菜と瞬は、しばらくは黙ったまま飲み続ける。

しかし、その量が半分くらいになったとき、瞬の口が開く。


「陽菜……」


陽菜は『何?』と聞き返す。


「陽菜と再会してから、本当はずっと気持ちが揺れていた。
懐かしさと、それから愛しさと、色々なものが混ざり合って。
でも、あの時もどうしてこじれたのか、どうして元に戻らなかったのか、
自分自身がわからないところもあって、湧き上がる思いに気付いても、
学生時代のように自分を信じ切れなかった」


瞬の言葉を聞きながら、陽菜も別れた時のことを考えた。

大学で会うことが出来なくなり、それぞれが別の世界を持ったとき、

取れていると思っていたバランスが、見えない部分から崩れていた。

『会えない』日があるのはわかっていたのに、連絡がなかったとか、

忙しいと思える時間が違っていたりして、意地を張った結果、

大事なものだけが、形を失っていた。


「そばには純香がいたから、純香と過ごす時間があるから、
また、崩れるかもしれない陽菜の方に、自分を向けるのが怖くて、
いつの間にか、楽なほうへ動いてしまった」


純香という瞬の妻。

その名前を聞いた瞬間、陽菜の胸がチクリと痛んだ。

どんなに綺麗ごとを言おうとも、今、自分がしようとしていることは、

『不倫』という、常識を考えれば後ろめたいものになる。

誰に何を言われても、そして、長い間付き合ってくれた友達を無くしても、

この人を愛していけるのかという思いが、頭をよぎった。


「純香は、いい意味でも悪い意味でも、自立している人なんだ。
だから、結婚する前から、今も立ち位置は何も変わらない。
気楽ではあるけれど、何か、冷めているような思いはずっとあってね。
頼られているという気持ちには、一度もなったことがない。
どこかいてもいなくても、一緒なのかなと考えてみたり」


瞬は、『パートナー』とはそういうものかと思っていたのにと、苦笑する。


「陽菜にも、出会いがあるのだと当たり前のことを考えて、気になって。
ものわかりのいい男のふりが、出来なくなった。陽菜が訴えてくれたことで、
自分の思いにもしっかり気付くことが出来たし、このままではいけないと思えたから。
今日はここに陽菜を呼んだ」

「うん」


確かに問題は色々とあるだろうが、こうして互いの思いさえ重なり合えば、

きっと、学生時代のように充実した時間が戻ってくると、

陽菜は瞬のセリフを聞きながら考える。


「イヤなら逃げて欲しいと、あの日、言ったよね」


陽菜は、夜の公園に入り、語った日、確かに瞬がそう言ったことを思い出した。

逃げるスペースもあったはずなのに、逃げようとは思わなかった。


「陽菜は逃げなかった。それが君の気持ちだと思っていいんだよね」


瞬のセリフに、陽菜は小さく頷いた。



【10-2】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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