10 愛想笑いと冷静な目 【10-5】

【10-5】

飲み会はそこから色々な話題が、披露されることになる。

最初にファイルを出したのは、真帆だった。

祥太郎が計画を書いた紙を戻し、それから自分が調べまとめたものを渡す。


「これ、自分で?」

「はい。より具体的にしていくには、どうしたらと考えて」

「へぇ……」


その書類の出来は、祥太郎の思っている以上のものだった。

支払い方法や、支払い金額の幅。どういう金融機関が個人経営の店に貸してくれるのか、

そのとき出される条件がどうなのか、素人にはわからない部分までまとめられている。


「『華楽』さんには、取引先があるでしょうから、まずはそこと話をしてみるのが、
一番いいと思います。経営の状況も、わかっているでしょうし」

「うん……それは」


真帆は、役に立てたら嬉しいですと、日本酒に口をつける。

とりあえず、押し付けにならないようでほっとした。


「黄原さん」

「はい」


祥太郎はもらった書類を前に置く。


「変な質問だったらごめん。でも、どうして信用金庫、辞めたの?」


祥太郎は、受け取ったファイルを見ながら、これだけの仕事が出来るのなら、

問題なく勤めていられただろうと、そう疑問を前に出した。



『信用金庫を辞めた理由』



祥太郎にそれを聞かれた真帆の頭の中に、母の顔が浮かぶ。


「いや……ごめん。そんなこと、俺が聞くことじゃないよね」


祥太郎は、余計なことでしたとすぐに頭を下げる。


「いえ、いいんです。別に隠していることでもなんでもないですから。
まずは、会社に居づらくなったことです」

「居づらくなった?」

「はい。金融関係って、女性はどちらかというと、
お嫁さんに行くまでの働き場所と思われているところがあって。
長くいることが優秀だと、思ってくれない流れがあるんです」


祥太郎はどうしてという顔をしたが、隣に座った司は『それはわかる』と頷く。


「司、わかるの?」

「なんとなくね。職種によっては、若い女性がと限定するところも多いんだよ。
昔ほどじゃなくなったけど。以前は若い女性しか窓口に入れないなんて、
金融機関もあったからさ」


真帆もそうなんですと司の意見に賛同した。


「でも、今思うと、一番大きな理由は、母に対する反発心だったのではないかと」


真帆は、自分の母親が『安定主義』だと、苦笑する。


「安定主義」

「はい。大手企業のサラリーマン、公務員。
母が話をするのは、いつもこういう人のことです。
私にも、小さい頃から、なりたいものは何かなんて聞いてくれたことがなくて。
いつも、いい企業に入りなさい。いい人とめぐり合いなさいって。
本当に、うなされるくらい言われ続けて」


真帆は、それが嫌で信用金庫も辞めて、実家も飛び出したと笑顔を見せる。


「で、どうなの? 脱エリートは」

「エ……うーん。気持ちはとっても自由です。自分が自分で立っている気がします」


司の問いかけに、真帆は明るく笑って見せる。

祥太郎は、真帆の話し振りを聞きながら、

やはり自分の思っていたような人ではないかと考える。

笑い声の反対側では、有紗が大輔に料理をとりわけていて、

大輔は、そんなことはいいよと、有紗を止めた。


「山吹さん、接待の席じゃないし、気をつかわなくていいから。
俺、取りたければ自分で」

「大丈夫です。いえ、やらないとなんだか落ち着かないんです。
これってきっと、秘書の仕事病みたいなものなので」

「仕事病って」

「こういうことをいつもするものだと、思っているからかな」


有紗はそういうと、お皿を大輔の前に置く。

大輔は『ありがとう』と料理の皿を受け取る。


「白井さん。今も、陽菜の幼稚園でお仕事しているんですか?」


その問いかけに、横にいた陽菜が『あ……』と声を上げた。

有紗は、陽菜の声に、どうしたのと尋ねる。


「そうだ、白井さん、この間はすみませんでした。吉本さんの番号」

「あぁ、いいえ。あれはあいつがおかしかっただけですよ。
昔の名刺を置いてくるなんてって、後から言っておきましたから」


陽菜は吉本もしっかり仕事をしてくれたと、大輔に説明する。

陽菜は、先日巻き起こった吉本の携帯番号事件を、横にいる有紗に語った。

大輔はその話を聞きながら、逆に迷惑をかけましたと謝罪する。


「いえ、私の方が気を抜いていたんです。
てっきり来てくれるのは白井さんだと思い込んでいて。
名刺も出さなくていいやと思ってみたり」


陽菜は、自分で招いたことですと、笑って見せる。

大輔は、陽菜の笑顔を見ながら、自然と笑みが浮かぶ。


「あ、そうです。うちの仕事、しばらくは、吉本さんですか?」

「……かもしれません」

「他の仕事が忙しくなったの?」


陽菜と大輔の会話に、有紗が入った。


「うん……。あくまでもフリーの立場で仕事をしているので、色々と」


大輔は仕事があれば、あちこちに行くことになりますと、料理を食べ始める。


「へぇ……なんだろう、あちこちって。私、フリーカメラマンさんって聞いて、
写真週刊誌とか思い浮かべちゃった」


有紗はそういうと、大物芸能人の追いかけとかもするんですかと、大輔に尋ねた。

大輔は、その目の奥に、実は先日の偶然を、

有紗自身が気付いているのかと、疑いたくなる。


「いや……」

「有紗。それはドラマの見すぎじゃないの?
白井さん、幼稚園の遠足の写真を撮ってくれたりするのよ。それはまた違うでしょ」


隣に座っていた陽菜が、そう言葉を挟む。


「違うんですか」


有紗は、自分の知らない仕事の世界は、全然想像がつかないと言いながら、箸を持つ。


「仕事内容は……危なすぎてここでは言えません」


大輔の言葉に、有紗と陽菜は驚きの顔を見せた後、冗談ですよねと笑い出した。



【10-6】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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