10 愛想笑いと冷静な目 【10-6】

【10-6】
飲み会が盛り上がる中、祥太郎は立ち上がり、また厨房へ向かった。

真帆は何か手伝いましょうかと、声をかける。


「いいんだ。黄原さんは座っていて」

「でも」

「今から『五目チャーハン』を作ろうと思って」


『五目チャーハン』と聞き、真帆は、最初にこの店へ来た日のことを思い出す。


「最初にここへ来た日、俺と司を間違えて飛び出したから、
結局まともに食べてないでしょ。俺、自信あるメニューだからさ。
黄原さんに食べて欲しくて、今日は作ろうと思っていたんです」


祥太郎はそういうと、出来たら運ぶのを頼むからと、中華なべを火にかけていく。


「はい……」


真帆は、祥太郎が自分のために作ってくれるのだと思い、

その気持ちだけでお腹がいっぱいになりそうだった。

あの日、司と祥太郎と間違えていたことに気付き、店を飛び出してしまい、

確かにしっかり食べられなかった。

すると、家の中から祥太郎の父親が現れ、

無言のまま、厨房の奥にある冷蔵庫からビールを取り出す。


「あ……すみません、今日は……」


司がそう声をかけたが、父親は何も言わないまま、また部屋に戻ってしまう。

大輔や陽菜も顔をあげたが、明彦の不機嫌そうな態度に、何も言えなくなる。

祥太郎は、チャーハンの具材を中華なべに入れた。

ジュワッという油と具材の混ざる音が、店の中に響く。


「司、挨拶なんてしなくていいんだよ。
あの人は、俺のやることが全て気に入らないんだからさ」


火の勢いに負けないよう、祥太郎は大きな声でそう言った。

今まで、盛り上がっていた飲み会が、黒木家親子の冷たい状態に、

そこでスッと勢いをなくしてしまう。


「ご両親は、お店の改装、反対なの?」


あまり事情を飲み込めていない陽菜が、前にいる司にそう尋ねた。

司は軽く頷く。

祥太郎が出す料理の音だけが続き、それぞれはなんとなくグラスを持ち、

お酒に口をつける。


「あ、そうだ」


司は、どこかどんよりした空気を変えようと、

カバンから1枚のカードを取り出し、それを陽菜の前に置いた。

『ホワイトパール』のカード。華やかな見た目から、すぐに目に入った。

陽菜は自分の名前がローマ字で打たれていることがわかり、

どういうことなのかと司に尋ねる。


「これ、『ビューティークール』の特別会員カード。
先日の俺たちの演技があまりにも見事で、すっかり信用してもらったのか、
それともまだ、うたがわれていてなのかわからないけれど、いただきました。
よかったら……」


司は、全店舗で全てのサービスが無料だからと、陽菜の方へカードを滑らせる。


「エ……こんなもの私、もらえませんよ」

「いや、でもさ、名前つきなんだよ。ほら、HARUNA AKAOって」


陽菜の隣に座った有紗がそのカードを持ち、本物だと驚いた。

大輔はどうしてこんなものがもらえたのかと、司に聞く。


「ほら、以前、取引先のお嬢さんに、好きになられた話をしたことがあっただろ。
俺は面倒だから、結婚する人がいると言ったわけ。
そうしたら相手と会わせてくれってなってさ。職場の女性じゃ、
ばれる可能性が高いから、赤尾さんに擬似彼女をお願いしたわけだ」


司は、そのおかげでお嬢さんは姿を見せなくなったが、

こんなものが出てきたと話す。


「すごいじゃない、陽菜。『ビューティークール』だよ。
陽菜の家からだと、どこの店が近い?」


有紗は、カードの裏を見たりしながら、どこがあったかなと思い出そうとする。


「緑川さん、使えませんよ、だってあれは演技だし」


陽菜は戻してくださいと言いながら、有紗からカードを取り上げる。

司の前に、名前入りのカードが戻ってきた。


「いや、でもこうなったら戻すのもおかしいから。大変申し訳ないけれど何かに使って」

「いえ、でも……」

「いやいや、頼みます。戻すとまた疑われそうだし」


司はそう言いながら、陽菜に頭を下げた。

陽菜はカードを見つめたまま、どうしようかと悩み続ける。


「使わせてもらったら? 向こうはいくつも店を持っている企業の社長だろ。
赤尾さん一人がお世話になっても、びくともしないだろうし」


斜め前にいる大輔がそう話すと、横にいる有紗もその通りだと頷いた。

他からのプッシュもあり、陽菜はこのままというわけにはいかないため、

司に『すみません』と頭を下げる。

祥太郎の様子を気にしていた真帆が席を立ち、

出来上がった『五目チャーハン』を受け取っていく。


「なぁ、みんな、これも食べて」


6人のテーブルにまた新しい料理が運ばれ、有紗は素早くお皿を取ると、

6人分をよそい始める。


「ほら、いいよ、自分たちでやるからさ」

「いいんです。こうした瞬間に、やらないと気がすまないので」


有紗は、自分で好きにしていることだからと、陽菜からお皿を受け取り、

チャーハンを分けていく。


「山吹さんって、広報部長の秘書だって、前に言ってたよね」

「はい」

「俺、2年くらい前、『リファーレ』のCM撮影現場に確か行ったことがあったなと。
あれから思い出してさ」


司は、その時、背の高いメガネの男性がいて、紹介されたことがあると話し始める。


「あぁ……それは前任です。その方は今、本社にはいないので」

「いないの?」


司は、それは飛ばされてしまったということかと、少し声を落とす。

有紗もそれに合わせて、わざと小さな声で『はい』と返事をした。

大輔は、二人の会話を聞きながら、チャーハンの入ったお皿を受け取る。


「その方があまりいい評判のない方で、てこ入れに外から引き抜かれたのが、
今の広報部長です」

「引き抜きか……」

「灰田部長に交代してから、CMの作り方も変わりました。
前は妙に固かったというか……。女性が身につけるものを売り込むのだから、
艶やかさとか、色っぽさも絶対に必要だって」


有紗は、新聞広告やテレビの提供関係も仕切る人なので、

季節が変わる頃とかはとても忙しいと、灰田のことを語る。

有紗の言葉を聞くと、大輔はあの日のことをすぐに思い出してしまう。

一度乗り込んだタクシーを降り、反対側へ走ってきた灰田と、

それを待っていた有紗の笑顔が、

今、チャーハンを取り分けながら話している表情に、重なった。



【11-1】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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