11 子供と親の微妙な距離 【11-3】

【11-3】
呆然とする真帆の後ろで、明彦によって、思い切り扉が閉められる。

店は営業中であり、扉も手で横に引けば開くこともわかっている。

真帆は祥太郎に渡すつもりだった資料だけでもと思い、取っ手に触れたが、

その手は、扉を開けることなく元の場所に戻る。



『あんただろ、祥太郎にあれこれふっかけるのは』



ふっかけているつもりなどなく、精一杯応援してるつもりだった。

しかし、祥太郎と父親との溝は埋まっていないことが、今の言葉でハッキリとわかる。

『元信用金庫』という自分の嫌だった過去の実績が、

祥太郎の役に立つのが嬉しくて、ついつい、のめりこんでしまったが、

そのせいで、さらに親子関係が複雑になったのではないかと感じてしまう。

真帆は『華楽』から少し離れ振り返ると、あらためて店のたたずまいを見た。



真帆が押し出された『華楽』の中では、圭子が今まで我慢してきたけれどと、

明彦に怒りをぶつけ始めた。祥太郎が店を継ぎたいと言っていることの、

どこが悪いのかと、明彦に布巾を投げつける。


「ったく、何するんだ」

「何するんだじゃないでしょう。祥太郎は真剣にこの店の将来を考えているんです。
前に、計画書を見せてもらったの。あの子なりに、色々と」

「うるさい」


明彦の怒りが声になったとき、店の裏から祥太郎が入ってきた。

圭子はすぐに声をかける。


「どうしたの」

「ねぇ、祥太郎。あんた会わなかった?」

「会う? 誰に」

「この前、うちで飲み会をした人よ。ほら、銀行のことに詳しくて」

「……黄原さん? ここに来たの?」


圭子は、今ここへ来て、祥太郎がいるかと聞いてきたのに、

明彦がとんでもないことを言って、追いかえしてしまったと訴える。


「何を言ったの」

「あんたが、祥太郎をそそのかしているみたいなことを」


祥太郎はその言葉を聞き、すぐに厨房でふてくされている明彦を睨みつける。


「見てくるよ」


祥太郎は店を飛び出すと、裏に置いてある自転車に飛び乗った。

母の話しによれば、それほどまだ時間は経っていないように思える。

駅までの時間を考えたら、つかまるかもしれないと祥太郎は必死にペダルをこいだ。

商店街の中をキョロキョロ見ながら進んでいると、駅に到着した。

ちょうど電車がホームから出ていくタイミングになり、

思わず『あ……』と声が出てしまう。

とりあえず左右を見てみるが、真帆らしき人の姿はない。

祥太郎は自転車を止めたまま、近くにあったベンチに腰をおろした。



『そそのかしている』



計画に反対している父親から、そんなことを言われてしまった真帆のことを考えると、

なんとしても謝らなければならないという思いで、胸が痛くなった。

祥太郎はここに見張りを一人置き、どこにいるかはわからなくても、

自転車でグルグルと駅の周りを走り回りたい気分になる。

『店の改築』を叫び、詳しいことを教えて欲しいとお願いしたのは自分の方で、

真帆は勝手に動いたわけでも、おせっかいをしているわけでもないと、

祥太郎は両手を前に組む。他に何か方法はないのかと考えていたが、

祥太郎は、ポケットに押し込んでいたスマートフォンを取り出した。

呼び出したのは、真帆の携帯番号。

メールと電話番号を、最初の飲み会で互いに交換していたことを思い出し、

すぐにボタンを押す。

まだ、電車に乗らないで欲しいと願いながら呼び出し音を聞いていると、

数回鳴った時、駅前ロータリーの一番端にある書店から、一人の客が飛び出してきた。


「あ……」


店を出て、携帯を開いたのは間違いなく真帆で、祥太郎はベンチから立ち上がり、

その視線の方に、手を大きく振ってみせる。

受話器を耳にあてた真帆も、視線の隅に何かが入り、

それが駅前で手を振っている祥太郎だということに気付く。

真帆は、会話の体勢を取ったまま、軽く頭を下げた。



「アイスコーヒー2つ」


二人はそのまま、駅前にある喫茶店に入った。

祥太郎は父親が失礼なことを言って申し訳ないと、すぐに謝罪する。


「いえ、そんな」

「もう少し、俺が早く戻っていたらよかったのだけれど」


明彦の性格は、祥太郎自身が一番わかっていた。

口数が少ない代わりに、言いたいことを言い始めたら止まらなくなる。


「大丈夫です。仕事で近くまで来たからと思って。
連絡もせずに行ったのは、私の方ですし」


真帆は最初の予定通り、仕事の袋を祥太郎の前に出す。

祥太郎は、真帆が持っていた『滑川自動車整備』の文字を見る。


「滑川さんか」

「はい。うちのトラックをいつも整備してもらっているので」

「へぇ……」


祥太郎は、仕事の途中で、わざわざ自分のところへ来てくれた真帆の気持ちが嬉しくて、

どこかこそばゆいような気持ちになる。

自然と口元がゆるみ、笑みを浮かべそうになった。



【11-4】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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