11 子供と親の微妙な距離 【11-4】

【11-4】
「実はさ、店を出ていたのも、融資のことに関係があるんだ」


表情が崩れてしまう前に、祥太郎は話をし始める。


「今度、銀行に出す書類を作るために、見積もりをしてもらおうと思って。
同じ商店街にある工務店さんに、意見を聞きに行っていた」

「……あの」

「ん?」


真帆は、渡そうとしていた書類を前に出す。


「こんなふうに、あれこれ資料を渡している私が言うのもおかしいですけれど、
黒木さん、もう少し、お父さんと向き合ってあげた方が……」

「……黄原さん」

「ごめんなさい。これこそ本当に、余計なお世話だと思います。
私が口を出すことでもないと、思うのですが」


真帆は、今、お店で追い出されていたとき、

本当は父の明彦が、とても寂しいのではないかと感じたことを話す。


「寂しい?」

「はい。お父さん、本当は黒木さんと色々、話しをしたいのかもしれないと思って。
確かに、大学を出て、就職をしないのはどうしてだという思いもあるでしょうけれど、
でも、黒木さんが本気になって訴えたら、何度も何度も訴えたら、きっと、
理解してくれるはずです」


真帆は、大事なことだからこそ、焦らないほうがいいですよと言う。

祥太郎は、運ばれてきたアイスコーヒーにストローを入れた。


「何度も訴えろって……俺、今までも本気で訴えてきたつもりだけどな」


祥太郎のつぶやきに、真帆は顔を上げる。


「ごめんなさい、そうですよね、やっぱり余計なお世話でした」

「あ、いや……そういうつもりじゃなくて」


祥太郎は自分の発言に下を向いた真帆に、言いたいことはわかりますからと、

一生懸命フォローする。


「自分のことだとそう思えないのに、おかしいですよね、私」


真帆は、『エリート主義』の母から逃げている自分のことを棚にあげて、

祥太郎に説教じみたことを言ってしまったと、頭を下げる。


「いや、本当にそんなことは気にしなくていいんですよ。
自分では見えないことって、色々あると思うし。
俺は、黄原さんが俺と同じような感覚を持っている人じゃないかと思って、
そもそも、見積もりとか手伝いをお願いしたわけで……」


祥太郎は、真帆に思ったことを聞かせてくださいと話すと、

アイスコーヒーをストローで軽く吸った。

真帆は、祥太郎が自分に対して、『同じような感覚』を表現してくれたことが嬉しくて、

また気持ちを前向きにする。


「あのお店の中のことは、黒木の家で考えたいからって……なんだか、
お父さんがそう訴えているように、私には思えました」

「うん」

「具体的に相談を始めると、どうしても話しが外向きになります。
銀行、工務店、家族以外の人と話し合うことが増えていくんです。
でも、家の中がまとまっていないと、最終的にうまくいかなくて。
私が融資にいたときも、いい物件があったからと、父親だけが動いて、
いざ契約となったとき、家族の同意が得られなくて、流れたって話も数件ありました。
家を買うこと、直すこと、大きな買い物ですし、大きな金額です。
だからこそ、納得しあえるまで話し合わないと、返済を協力していくことが、
難しくなるのではないかと」


真帆は、明彦が言ったように、祥太郎をそそのかしているつもりもないし、

焦らせているつもりもないけれど、でも、言われてみて気付いたこともあると、

冷静に話す。


「私も、まだしていないことです」


真帆はそういうと、祥太郎と同じように、

アイスコーヒーのグラスにストローを入れる。


「親と向かい合うってこと?」

「はい。自分が真剣であるのなら、ぶつかっても何度も訴えるべきだと、
そう思いました。私も、逃げているだけではダメだなって」


真帆はガムシロップを入れると、ストローで軽くかき混ぜる。


「黄原さんも、親とケンカしているの?」

「うーん……ケンカなのかどうか、よくわからないです。
わかってもらいたいって、私なりには精一杯話をしたつもりだったけれど、
結局、何も伝わらなくて。もうイヤだって、信用金庫も辞めて、
家も飛び出したようなものですから」


真帆はその話をした後、ストローに口をつける。

苦味と甘みの混ざったコーヒー、語り続けた喉に、冷たい感覚を与えてくれる。


「私には、2つ下の妹がいます。
その妹が、母が思っている理想の人生を歩んでくれているので」

「理想の人生? それってお母さんが望むってこと?」

「はい。優秀な大学を出て、世に知られている大手に就職しました。
後は、素敵な旦那様さえ見つけられたら、母にとったら満点の娘です」


真帆は、そういうと両手で丸を作る。


「でも、それがプラスには働かなくて。あの子が出来るのに、どうして真帆はって、
さらにエリート志向が強くなりました。全く、娘が楽しいと笑って生活しているのだから、
それでいいと、どうして思ってくれないのかなって、イライラしていましたけど。
そうですよね、理解してもらおうという気持ちを、持ち続けないと」


真帆は、私も近いうちに母と話し合ってみますと、祥太郎に宣言する。


「うん……」


祥太郎は残りのコーヒーを飲む。


「黒木さん」

「何?」

「もう一つ、いいですか」

「うん……」

「『華楽』は、お店の中がとても綺麗です。それは飾っているということではなくて、
お父さんとお母さんが、きちんと手入れをして、大切にしている……つまり、
お店をとても愛しているのがわかります」


真帆は、実際に融資をするとき、そういった点を細かく見る銀行も多いと、

プラスの情報を入れた。祥太郎は真帆の言葉を聞き、

店を閉めた後のこと、二人が丁寧に片づけをする姿を思い出す。

実際、他の店の中を見ているわけではないから、簡単に比べることは出来ないが、

確かに、食器1枚にまできちんと気をつかい商売を続けてきた。

しかし、それは祥太郎にとって見慣れた光景だったため、

特別だと感じたことは一度もない。


「『華楽』は、黒木家の大切な財産ですから」


真帆は自分が役に立てるのはここまでですと、祥太郎に頭を下げる。

祥太郎は、真帆からもらった書類を見ながら、明彦のことを考えた。

本当に、自分の代で終わりにしたいと思うのなら、

あれだけ店を大事にするだろうかと、そう考え始める。


「色々と、ありがとう」


祥太郎は、そういうとあたらめて真帆に頭を下げた。



【11-5】

それぞれの恋の色を塗っていくと、そこに見える『Color』は……
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